第10話 謎の洞窟
昨日は酷い目にあった。
いや、それよりあの称号おぉああああああああああ!
無かったことにしたい!
両手で顔を覆い、激しくローリング!
ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ
一生非表示にする!
「はぁはぁはぁ」
とにかく、落ち着こう。
えー。あー。コホン。
おはようございます。朝早くに目覚めました。
パン食べて、コーンスープ飲んで、珈琲飲んで落ち着きました。
あ、本物のお子さまは珈琲飲んではいけませんよ。
わたくしは良いのです。良いのです。
さて、考えよう。
海底で怪しい洞窟がチラリと見えた。
島に戻ってきて地図を開いたら、あの場所に?マークがついたし、行くしかないよね。
まずはクイーンとキング対策しなくちゃ。
結界と気配完全遮断を併用すれば襲われずに移動できると思う。
基本小さい範囲のもので、いざと言う時はキングとクイーンの口に入らない位大きな二重結界を張ろう。
もうアレな称号の追加は嫌だ!
問題はあそこまでどう行くか、かな。
水ジェットで行く?
気配完全遮断をしても水ジェットの水流で気づかれそう。それで万が一体当たりされたら吹き飛ぶ。
地中まで結界を張って徒歩にするか…。
何日かかるかわからないけれど、吹き飛ばされる危険を考えると歩きの方が良い気がする。
とにかく徹底的にこちらの気配を消さなきゃ。
半径1m結界2、気配完全遮断。
今回は、結界内の音と光と匂いを外に漏らさない、を設定する。
そして地図を開いたまま、遠浅の浜が途切れる所まで浮遊移動した。
う~ん。相変わらず、地図はたくさんの赤い点で埋め尽くされてますね。
敵だらけですね。
キングとクイーンは……周回してる。
渡り鳥が魚をとらないわけだよ。海面に近付くとパクっと食べられるもんね。
…私みたいに。
地図を見ながら深さどれくらいかな~って思ったら、別窓で海中の立体(3D)地図が表示される。
水深約500mか。深いな。あ、約4,000m級の海溝もある。
この島が途切れた所はすぐ崖みたいに切り立っているんだね。
海底はデコボコして歩けそうにないかも。一回潜ってみるか。
すんごい怖い。
でもウル様からの連絡だし、必ず力になるって言うから頑張る。
「わたち、人魚ちめ」
私は人魚姫。
夢と魔法のアニメで観た可愛い人魚姫をイメージして自分をごまかし、いざ!
チャプン
海に入った。
崖に沿ってゆっくり海底へ向かう。
早い海流の場所では結界が回っているみたいだったけれど、結界2は常に浮遊発動、頭部を天の方向に直立だから、私に支障はない。
やがて300m地点の海棚に到着した。
この辺りはまだ光りが届いている。もっと下は段々暗くなって行く。
300m地点にも大きくて顔が恐い魚、魔獣?がたくさんいるけれど、気配完全遮断が効いていて今のところ襲われない。
水圧は結界内無効とされ、呼吸は陸と変わらずで快適だ。
少し先に進み、更に下を目指す。
濃い青から暗い群青色になったころ水深500mに到達した。
地球だったらあり得ない素潜りだね。
すごいよ、ファンタジー。
地図はピンチアウトで表示範囲を狭くし自分の周りだけにした。
大きな何かが近付き、見上げると巨大な蟹だった。
一瞬気付かれた?って焦ったけれど、結界を乗り越えて移動して行った。
ただの石ころ扱いでホッとする。
それにしても…。
深海約500mの世界は恐ろしくて神秘的な世界だった。
周りは暗い群青色。見上げると微かに明るい青。
怖いくらい静寂で、時折水の動く音が少し聞こえるだけ。
そして、2tトラック位の蟹や、頭だけで250ccバイク位の岩から顔をだしたウツボっぽい何か。
無数の黒いシルエットが見える、不気味で危険だらけの海底。
人魚姫には程遠い世界だな、これ。
カラフルな珊瑚や可愛いお魚はそこに存在しなかった。
シルエットしかわからないけれど、地形も起伏があって歩けそうにない。他の方法を探さなくては。
私は来た道を戻り始める。
途中、周回中のクイーンが近付いた時は焦ったけど、気配完全遮断ちゃんがきっちり仕事してくれた。
クイーンめ!
いつかそのサメ肌で生わさびをジョリジョリすりおろしてやる!
時間をかけて陸に上がり何とか拠点に戻った。
海底も歩けない、水ジェットも危険。でも海の上浮遊したらまた食べられ………………。
ん?待って?
気配完全遮断して浮遊すれば良いんじゃん!
なぜ思い付かなかった、私。
太陽の位置を確認するとまだ午前中のようなので、早速行動に移す。
半径1m結界2、気配完全遮断、地図で確認しながら海の上を浮遊する。
キングもクイーンも寄ってこないのでホッとした。
ゆっくりめの浮遊で30分程かけ、地図の?マーク上に無事到着。
敵の位置を確認しながら潜水を開始する。
先程は300m地点に海棚があったけど、この地点は海底500mまで何もなく、一気に下ることにした。
出来るだけゆっくり、泳いでいる魚とか魔獸とかにぶつからないよう軌道修正しながら潜水。
やがて、光りが届かなくなる暗い海の中に淡い光りが見えてくる。私が一瞬目撃した洞窟の入り口らしきものだった。
洞窟に到着。
何が光源がわからないけれど中が明るくハッキリと見える。
洞窟は奥まで続いているようだった。
「何これぇ!」
洞窟に一歩入ると、何故か水がない。入り口から海を見ると水の壁みたいだった。
「ほぇ~、しゅごい~」
私は思わず入口を出たり入ったり真ん中に浮かんだりした。
「楽ちい」
地図を確認すると敵は洞窟内にいない。
気配完全遮断のまま結界を解いてみた。
呼吸出来る。
サラサラサラやぴちょんという水の音が聞こえた。少しだけ潮の香りがする。
そして何よりもここはウル様の神気が満ちていた。
「もうちっと、あしょぶ」
私はウル様の神気に安心して、入口の海水壁を手の平で撫でたり、拳を突っ込んだり叩きながら歌ったりした。
「た~のち~いね~♪」
きゃっきゃっ
楽しくてはしゃいでしまう。しばらくの間遊んでしまった。
「奥行く」
うんうん。意味もなく頷く私。
ちょっと飽きてきたので、洞窟奥に向かうことにした。
地面はボコボコしていたが歩ける程度。
♪たんけん♪た~んけんっ♪
作詞作曲…、繰り返すだけだけど、しながらスキップもどきで進む。
1歳の私はまだスキップが出来なかった。
「わぁ、ちえーい(綺麗)」
少し歩くと真っ白い棚田の様な段々が現れた。上から少しずつ海水が流れ落ちている。
不思議なことに、流れ落ちた海水は最終的に地面の中に吸い込まれて消え、辺りを濡らしていない。
その光景はまるでキラキラと輝く絵画の様だった。
棚田は結構高い所まであり、道はその向こうに続いているようだ。
「踏んじゃ、やめね」
棚田のひとつひとつに透きとおった水が溜まっている。
綺麗な場所を踏みたくないので、浮遊でふわりと浮かんだ。何だかドローンになった気分。
上から見てもすごく綺麗な光景だった。
「ん~?」
棚田の水の中にキラリと光るものがあったので近寄る。
そこには二枚貝が生息していた。貝殻は白く、表面はつるりと滑らかで、角度によって七色に輝きとても美しい。
「わぁぁ~」
棚田の淵に着地してしゃがむ。そして水の中を覗き込んだ。
「ちえ~い」
あまりに綺麗で私はしばらく水のなかの貝を眺めていた。
背伸びをして周りを見てみると、かなりたくさん貝があるようだ。
ひとつ位もらっても良いかな?
鑑定、
名称 レインボーアコヤ
品質 最高級
説明 食用可
神の祝福を受けた二枚貝
貝殻は神級ポーションの材料
真珠はアクセサリーとして身につければ幸運上昇
身を食べれば体力完全回復
極一部にしか生息していないため大変な貴重品
美味(超絶品)
おおっ。ウル様の祝福つき。
アコヤって名前だけれど、見た目はホタテに似ていてモコっと厚みのある感じ。
美味で超絶品かあ。後で採取して良いか聞いてみよう。
フヨフヨと浮きながら何度か旋回して綺麗を堪能し、満足してから棚田の上の道に着地。
自分の足で歩きながら先へ進んだ。
しばらく洞窟が続く。
天井ががキラキラ光っていたり、小さな棚田に水が流れていたり、ちょっとした洞窟観光の気分だった。
やがて体育館くらいの広い場所に出る。
そこは一面の花畑。太陽の光りも届いていないのに不思議…。
どの種類も花弁は全て白く、葉は明るい緑色。
いくつか鑑定してみると、ほとんどがポーションの材料で、傷の治癒、痛み止、解熱、解毒、混乱解除などそれぞれに特化するものだった。
あれ、ここだけ他と違う。
一ヶ所に10本だけ鈴蘭に似た花が咲いていた。
花弁は白。レインボーアコヤの様に淡く七色に輝き、葉は薄い黄緑で、少し透き通っている。
鑑定、
名称 レインボースズラン
品質 最高級
説明 食用飲用可
神の祝福を受けた植物
頭花は神級ポーションの材料
葉は乾燥して茶葉にすれば、1カップ飲む毎に1分寿命が伸びる。
但し、傷病などで命を落とす場合はその限りではない
頭花を食べれば魔力を完全回復する
咲いている場所がほとんどないため大変な貴重品
美味
すごいもの見つけちゃった。これももらって良いかな?ウル様に聞かなくちゃ。
さて、この場所が行き止まりみたいだけど、宝物はある?
見た感じは他になさそうだけれど。
地図で探索を使う。
すると、洞窟の壁の一ヶ所がキラリ、キラリ、と光っていた。
浮遊で行ってみるが、ただの壁で特に変わった所がない。
「ウルしゃま、ここぉ?」
スカッ
壁を触ろうとしたら手が素通りしてしまった。バランスを崩してタタタタタッと小走りしてしまう。
気が付くと八畳くらいの部屋に立っていた。
その部屋は先ほどの棚田と同じ材料らしく、真っ白くキラキラしている。
部屋の中ほどから少しだけ高くなっており、三段の階段がある。
そしてその先に博物館の展示台のような物があり、その上に何かが設置してあるようだった。
「ん~?」
背伸びしても展示台の上が見えなかったので浮遊を使って近づく。
「こえって…」
鎮座していたのは、それはそれは美しい短剣だった。
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