第8話 ウル様のお告げ

 フェリアに来て数日経たった。

 昼間は無限収納の整理(大好きなフォルダ分け)や複写、魔法創造の作成、鑑定などをして過ごしている。


 冷蔵庫のアイコンに触れたら、<中に収納されている品物を個別に管理しますか?>と出たので、全部冷蔵庫から取り出した。時間停止しているから個別管理で問題ない。

 冷蔵庫にあったものはオリジナルとして別にとっておき、全て複写して食べている。

 作り置きしておいた切り干し大根の煮物、ひじきと豆の煮物、ミニトマトのマリネ、ウドのきんぴら、ウドとわけぎの酢味噌、ふきとタケノコの煮物などが冷蔵庫に残っていた。

 他にも野菜、魚、肉などの食材がたくさん。

 再構築もあるし食べ物には困らない。


 食べ物以外も全てオリジナルとしてそのままとっておき、使用したい時に都度複写する事にする。



 魔法創造は<浮遊>と<水ジェット><エアカッター>を作った。


 <浮遊>は対象を空中に浮かせて望んだ方向に移動する、という魔法。

 椰子の木を鑑定したらココヤシだったので、実が取りたくてこの魔法を作った。

 だって、飲んでみたかったんだもん。ココナッツジュース。

 自分を浮かせて実に到着したけれど、手ではとれなかったので今度は<水ジェット>を作った。


 <水ジェット>は水圧で穴を空けたり物を切ることが出来る、という魔法。

 付け根を<水ジェット>で切って実を落とすことに成功する。

 でも実を割る方法がない。<水ジェット>だとココナッツジュースが水浸しになりそうなので<エアカッター>を作った。


 <エアカッター>は強力で刃の様な風を使って対象物を切り裂くことが出来る、という魔法。

 意気揚々と椰子の実に<エアカッター>したら、力加減間違えてドカーンと粉砕してしまった。

 ココナッツまみれで泣きながら、他に落とした実を清浄して無限収納に仕舞ったのは秘密。


 ちなみに、何故ウォータージェットじゃなくて水ジェットかって言うと、名称を短くしたいから。

 風カッターじゃなくエアカッターにしたのは言いやすいから。



 昼間はこんな感じで過ごし、夜は早めにご飯を食べて横になっている。

 毎日ビーチチェアに寝ていたら体が痛くなったので、大きなブルーシートを何枚か複写して広い範囲に敷き、その上にお布団を敷いて夜はそこで寝ている。

 まだ泣くこともあるけれど、満天の星空を眺めながら眠れるようになった。



 その他は、神力と魔力の減り方などを検証。

 結界は張る時だけ神力を使って、維持には必要ないのがわかった。

 あと、浮遊も水ジェットもエアカッターも使用する時に魔力が減るけれど、維持には必要ない。

 まあ、もともと神力も魔力も多いし、一晩寝たら満タンになるからバンバン使っても問題なさそうかな。

 これからも色々試してみよう。




「今日、奉納。あと、あしょびましゅ」


 私はすでに、幼児用のピンクでイチゴ柄の可愛い水着を着用していた。もちろん、いつものサンダルも装着済みだよ。

 あと、赤いバケツ、オレンジのスコップと黄色いクマデ。


 日本にいた時、友人の子供が可愛くて可愛くて、四季を通じてプレゼントしまくった私。今、再構築で大いに役立ってるよ。よくやった、自分!


 何だか奉納の練習より遊びの方に傾いてるけど、いつも頑張っているからいいのです。


「よち」


 まずは奉納から。

 PCを複写して音楽かけようかと思ったけど、たぶんこの星にはオーバーテクノロジーだろう。

 人間のいるところで使えないからダメだよね。


 ってことで、私はカスタネットを再構築する。赤と青のやつ。

 ゴムひもはこの世界にあるのかな。突っ込まれたらどうしよう。

 ま、まあ何とかなるか。


 ゴムひもの輪がちょっと大きくて指を3本突っ込んだ。



 カン、カン、カン♪



 うん、懐かしい音。



 ♪~♪ ♪~♪ ♪~♪



 カンカンとカスタネットを叩きながら歌う。

 ステップが上手に踏めないので、足踏みしながらクルクル回った。

 恥ずかしいけれどこの島には誰もいないから気にしな~い。


 1歳なので選曲は童謡。

 いや、だって、幼児がいきなりボサノヴァとか歌いだしたらビックリするでしょ?


 何曲か童謡を歌う。

 あとちょっとばかり調子っぱずれのカスタネットと足踏み踊り。


 これで精霊とか癒せるの?

 疑問に思っているといきなり神様ラインの窓が開いた。



『きゃあ~(ハート散るスタンプ)』

『可愛いが過ぎる~(ハートの絵文字乱舞)』


 この文章は…。


『ムゥだよ☆』

『わたくし、可愛いもの大好き♪』

『今のお歌と踊りとっても良かった☆』


 ううぅ~。

 見られてた!恥ずかしいよ。加減なしで思いっきり歌っちゃったよ。


『これで精霊とか癒せますか?』


『うんうん(スタンプ)』

『もちろんヨ☆』

『何しろわたくしも癒さちゃったもん♪』

『弱った子がいたら歌ってあげて☆』


『はい。頑張ります』


『あと、寂しくなったらわたくし達を思い出してね』

『本当は駆けつけたいけれど』

『行けなくてごめんなさい』

『じゃあ、またネ』

『バイバイ(スタンプ)』


『ありがとうございました』


 ああ、夜泣いている私を見守ってくれているんだ。

 ちょっぴり嬉しくて、でもちょっぴり恥ずかしい。

 ムゥ様、私最初の日より泣かなくなったんですよ。


 私は空に向かって頭を下げた。




 奉納の練習をしていると、遠くから鳥がこちらに向かって飛んできた。体が白く、羽が黒っぽい大きな鳥。

 そして島に降りようとして戸惑っている。


 もしかしてこの島、渡り鳥の休憩地点だった?結界が邪魔で降りられないよね。

 ごめんごめん。

 今結界を外すから…ん?


 渡り鳥達が結界のてっぺんに降りてくつろぎ始めた。

 休めるようで良かった~。



 鑑定。


 名称 オオクロアホウドリ

 状態 疲労

    空腹

 説明 食用可

    渡り鳥

    肉は固く美味しくない



 うわあ、鳥さん食べないって。ただ見てるだけだって。

 何で食べる優先で鑑定するの?私の鑑定。


 私は無限収納から双眼鏡を出した。舞台を見に行くために買ったんだよね。

 下から鳥を覗く。透明の結界に押し付けた胸と腹の羽が愛おしい。


 お腹がすいているなら海で小魚獲ればいいのに。何で行かないんだろう?

 無限収納にあった冷蔵庫に冷凍の魚があったけど、解凍しないとあげられないよね。

 いや、野生の鳥に手を出さない方が良いかな。



 奉納の練習を止めて砂遊びを始める。

 島はまん丸ではないので、結界の境が遠浅の浜まで伸びているところがあるのだ。

 海には入らず手前の砂浜に座る。


「ここ富士しゃんでしょ。ここ風けちゅでしょ、ここ氷けちゅでしょ」


 スコップで山を作り、クマデで穴を掘るけれど、サラサラの砂がどんどん崩れていくのであきらめた。



「バケチュ、プインちゅくゆ」


 バケツプリン作りに切り替えよう。

 今度は小さなバケツにスコップで砂を入れていった。

 満杯になったのでひっくり返そうとして…。重くて持ち上げられないことに気づき断念。



「あ、い、う、え、お」


 砂に文字を書く。

 日本語はちゃんと覚えている。良かった。


「あ、さ、み、や、ゆ、ち」


 'き'がちゃんと言えない。字は書けたけれど。



 うーん…。

 何だかつまらなくて砂遊びは止めた。



 今度は海で遊ぼうかな。結界内なら平気でしょ?

 浮き輪を再構築しようかと思ったけど、大人用は抜けちゃうし、子供用は小学生くらいのサイズしか触ったことないからな。やっぱり穴から抜けちゃうよね。

 う~ん、あとは…。

 あ、フロート!あれならいいかな。板みたいに四角い浮き輪。

 海水で再構築、もちろん空気入り。

 早速乗り込んで横になった。すごい浅瀬だけど身が軽いからプカプカ浮いている。


 青い空と白い雲。

 ザザァン、波の音。

 チャプチャプ、フロートが波に揺れる音。


 とっても気持ちよかった。

 日焼けの心配もないし最高!って思いたかったけれど、すぐに寒くなる。

 結界内26℃固定だったよ。



 フロートとバケツとスコップとクマデを清浄、無限収納に回収。

 水着とサンダルも清浄。そして出来るだけ速足でパラソルに戻った。



 海の後はやっぱりアレでしょう!

 チーズクロワッサン(複写)数個取り出して、再構築醤油ラーメンをつくる。

 そろそろお昼だし丁度よいかな。


 ただ、ラーメンを食べるのが一苦労だった。

 小さな手ではお箸が持てないので、家にあったフォークで麺を、スプーンでスープを何とか口に入れる。どうしても食べたかったんだよ。


 あつっ、ラーメン熱々すぎた。

 でも火傷の心配はない。だって私は半神だから。



 フォークとスプーンで必死に食べ、体が暖かくなり落ち着いたころ、そういえばと結界の上を見上げた。


 すでに渡り鳥はいない。

 でも、


「あれ…。もちかちて…」


 フンの置き土産があった。


「えええ………」


 ここから届くかな~って思いながら清浄した。問題なくフンは消え、綺麗になって安心する。

 フンを頭上(結界の上だけど)に乗せたままはイヤだもんね。綺麗になって良かった。



 そろそろ眠くなってきた。少しお昼寝しようかな。

 ビーチチェアに横になりお腹にタオルケットをかけて眠りについた。






「ふぁー」


 目が覚めてのびをする。午後は何をやろうかな。



 スッ

 本日2度目の神様ラインが開いた。



『お疲れさん(スタンプ)』

『色々頑張っとるようだの』


『ウル様、こんにちは』


『うんうん(スタンプ)』

『今日はお知らせじゃ』

『前回、その場所にした理由があると書いたんじゃが』


『はい、覚えています』


『実はその近くに宝を設置したんじゃよ』


『宝?!』

『どこにですか?』


『それが言えんのじゃ』

『それをつくった時に』

『ワシからはヒントしか与えられぬという』

ことわりをつくってしまってのう』

『ここに何があるよ、と教えられんのじゃ』

『ごめんね(スタンプ)』


『こんな広い場所を探せ、と』


『必ずおぬしの力になる』

『冒険と思って』

『頑張れ(スタンプ)』


『わかりました』

『頑張ります』


『うんうん(スタンプ)』

『じゃあの』


『ありがとうございました』




 宝探しかぁ。楽しそう。

 でも、こんな広い場所でどこ探せば良いんだろう?


 スキルで何か役立ちそうなものあるかな。

 とりあえずステータスを見てみる。探索か地図あたりかな?



 半人スキル、地図、タップ。


 右横に説明が表れる。


 魔力 0

 周辺の地図を表示する。

 鑑定、探索と併用するとより詳しい情報を得られる。


 常時併用しますか? はい/いいえ


 と、あったので<はい>を選択。

 画面が淡く光って確定した。


「ちじゅ」


 声を出して言ってみた。

 舌足らずでも反応してくれる私のインベントリ優秀!


 スッと画面が開き、範囲が大体半径10kmくらいの周辺の地図が表示される。


 あ、うん。島の周辺海しかないね。

 知ってた。


 あと海に赤い点がたくさん表示された。

 この点は何?と考えると、


 探索で敵や味方、指定したものの表示が出来るようになりました。

 鑑定で土地の名称や敵、味方の情報が表示出来るようになりました。


 という説明が表示される。

 ほうほう、この海は<堅硬の滄海>というんだね。


 海の赤い点は微妙に動いていて、その中のひとつをタップすると、


 名称 レッドニードルフィッシュ(メス)

    危険生物

 品質 良質

 説明 食用可

    近づいてくるものをエサだと思い突進してくる

    細長い口が刺さると致命傷になる場合がありとても危険

    美味だが産卵期は味が落ちる


 危険生物だけれど、食用か美味しいかにこだわりのある私の鑑定ちゃん。

 私らしくてありがたい。



 ええと、つまり、赤い点は危険な生物、もしくは敵ということですね。

 味方とかそうでない場合は何色なんだろう?地図に表示されているのは赤い点だらけだからわからない。

 いつかここから移動したら確認してみなくては。



 それにしても、この海を探すのか。

 怖くて潜れないよ。


 あ、もしかしてお宝限定で探索できる?


 探索、宝物


 探索失敗という表示が出た。やっぱりダメか。

 ウル様がヒントしか与えられないって書いてたもんね。



 とりあえず、地図を開いたまま海の上から確認かな。それだとこの島のような結界じゃダメだよね。

 怖い目に遭いたくないし条件を見直そう。



 今回は海の上を移動できるよう新たな結界をつくりたい。

 土台を<結界1>で複写や編集がしたいな。と強く願ったら出来ました。


 結界1を複写しますか? はい/いいえ


 もちろん、はい。


 結界1(複写)を編集しますか? はい/いいえ


 これも、はい。


 名称は<結界2>


 球体

 透明

 範囲は発動時指定

 結界内は温度26℃湿度50%酸素濃度約21%に常時調整

 二酸化炭素は酸素に変換

 結界外から結界内には全てを通さない

 但し、私が許可したものを除く

 許可したものは結界の出入り自由

 結界内から結界外への攻撃可能


 結界は対象を中心に常時浮遊発動

 頭部を天の方向にして直立


 2行を追加。


 神力と魔力の合わせ技は拒否されるかと思ったけれど、無事登録完了。

 すごいコラボが出来上がったよ!これでちょっと安心かな。




 さて、やってみますか。


 半径1m、結界2。


 すると私の体がフワリと浮き上がった。

 希望通り、浮遊で浮かんでいる外側に結界が張られている。


 上下、前後、左右に浮遊で移動する。

 結界はちゃんとついてきた。




 よし、行くか!

 私はゆっくり回りながら、右手人差し指を前に突き出した。


 どちらにしようかな、天の神様のウル様の言う通り!


 止まったところの方向に浮遊で移動、そのまま海面の上を真っ直ぐ進む。

 探索をかけたまま、地図を確認していた。




 最初は緊張したけれど、何も起こらないため段々気が緩んでくる。

 宝物どこかな~なんて地図から目を離すと、



 ブーーー!ブーーー!ブーーー!



 けたたましい警告音が地図から聞こえた。



 ハッ!!!



 驚いで地図を見ると私の真下に赤い点が点滅している。



 な、何?!



 慌てて浮上しようとしたが、すでに黒い影が海面に近づいていた。



 マズイ!大きい!



 浮遊のスピードを上げる。



 ザバアアァァァァ!



 鋭いたくさんの歯。私の下に見えたのは、恐ろしく大きな口だった。



「やあぁぁああぁぁ!」



 バン!ガリッ!



 急激に視界が真っ暗になった。

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