第5話

 カウンター席でコップ一杯の酒を飲みながらけん玉を振る男がいた。褐色の肌。左手には銀の腕輪を付けている。

「よう、一杯いいかい」

 男を囲うように左右に座る二人組。一人は仮面をつけた弐品(にしな)。もう一人は銀色の髪をした犬童(きとう)だ。

「な、なんだよ…おまえら…」

 弐品は男の肩を掴み自分の正面に近づけさせた。フードを引っ張り上げ男の頭ごとすっぽりと覆った。光が閉ざした空間の中で弐品は仮面を外した。

『おまえは違う』

 仮面をつけなおした。フードを下げ男を光の世界へ引き戻した。

「ま、まぶし!」

 弐品は男に尋ねた。

「なんていってた?」

「あー…”お前は違う”って」

 弐品はため息を吐き、残念そうに隠し持っていたナイフを取り出しながら

「そうか、なら残念だ」

 男にナイフを突きつけた。

「待ってくれ! 俺は”探し物を見つけるのが得意”な魔法使いなんだ」

 男は助けてくれと頼むように弐品に涙目で訴えたが、同情することなくナイフを首を挟むように交差した。助からないと思ったのか今度は犬童に涙目で訴えた。

「待てよ。コイツが言っていることは事実だ。現に消されては困る」

 弐品と犬童、男の背後にそいつは現れた。頭部がティーカップに姿を変えられてしまった元人間だった。

「コイツは御茶目(おちゃめ)。んで俺が元生(もとう)」

 男に指さしながら元生はケラケラと笑いながら話した。愉快そうに話すが笑うことはできない弐品と犬童。

「その頭部は魔法使いに掛けられたものなのか? 俺たちが代わりにその魔法使いを退治してやってもいいぞ」

 不憫に思ったのか弐品は敵討ちに買って出た。

「答えはノーだ。あいにくこの姿でも問題はないし、なにより寒い時期に暖かいものが欲しくなったら自然とお茶が沸くのはとても素晴らしいことなのですよ」

 元生はこの姿でも困ることはないそうだ。

「それで、御茶目はオレたちの頼み事は聞けそうか?」

 御茶目は顔色を悪くしながらうなずいた。

「”俺に掛けた魔法使いの正体とその行方”だ」

 弐品の依頼は自身に掛けられた魔法使いの行方を知ることだ。

「オレは特に頼むことはなにもないよ。強いて言うなら”相棒の魔法が解けることが要”かな」

 犬童の依頼は相棒の手助けになればというものだった。

 御茶目はますます顔色を悪くしながら静かにこうつぶやいた。

「……探さなくても”探し物”はやってくる。次期に――」

 その瞬間だった。元生のティーカップが砕け散った。中身のお茶ごと周辺に散りばめながら元生はその場に崩れ落ちた。周りがどよめくさなか、犬童は弐品の手を引っ張り「早く、逃げるんだ!」と叫んだ。犬童は扉をその場に出現させ、弐品の手を引っ張りながらその中へと入ろうとしたとき「危ねえぇ!」と犬童の身体をガッチリと掴み上げ、扉とは正反対の方へと飛び乗った。

 扉はまるで宇宙に放り出された空き缶みたいに小さな豆粒並みの大きさへと圧縮されてしまった。

 二人が見た先にいたのは賞金首Aランク。同業者だった。

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