第2話

 ヘリ内はプロペラの音でうるさかった。


誠は初めてヘリに乗るが言いようのない不安でいっぱいだった。

どう話を切り出していい物かと考えている。


「でかくなったな誠、風豊かざとよによく似てきた。

あいつの新隊員時代を思い出す。

だが、ひょろいなぁお前、もっと飯を食え。」


ガハハハと斑鳩いかるがは笑う。

風豊は父の下の名前だ。

部隊に配属された時に斑鳩の元で働いていたらしい。


「ちょうど教育隊長を俺がしていてな。

その時優秀だったんでうちの中隊に引っ張ったんだ。

教育隊長賞を取ったんだよお前の親父は」

 

もう何度も聞いた話だ。

斑鳩なりに気を使っているのかもしれない。

放っておくと話が長くなるので半場あきれながら誠は話を切り出した。


「このヘリはどこに向かっているんですか?」


「ん?総理官邸」


「総理官邸って、なんで僕が?何しに行くんですか?}


霧島きりしま総理大臣と話をしてもらう」


「なんでそんな事に・・・・・」

 誠はただの高校生だ。いきなり総理大臣と会って話をしろと言われても意味が分からない。


「誠、あれが見えるか?」


ヘリの向こうには空に浮かぶ巨大な人工物のような物が見えた。

あれが今ニュースを騒がせているラピュタもどきらしい。

ニュースでは異世界から来たともっぱらの噂だ。


「でか・・・・・・・・・」


「誠、もしお前の父親があれに関わっているとしたらどう思う?」


「父さんが・・・・・・・・・?」


 突然、なぜ父さんが出てくるのか意味が分からなかった。


一度も会った事は無いしそもそも会ったこともないのに一体何があればそんな話なるのか?


「数ヶ月前だおかしな人物が俺に接触を図ってきた。」


「おかしな人物?」


「父さんは、そもそもどこにいるんです?」


「・・・・・・・・・・・死んだと聞いている」


「・・・・え、死んだ・・・・・・?」


「詳細は分からない。

しかし、お前の父親はあのデカ物を所有している国では

かなりの影響力を持つ人物となっていた。


だからこそお前の身柄を要求している。

血縁者であるお前のな。あの国にとってそれほど重要な人物だという事だ」



誠には何が何なのか分からなかった。

自分の知らないところで話がどんどん進んでいき頭が混乱する。


ふと、母の事を思った。

父が死んだと知ったら母はどんな風に思うだろうか?

母は女で一つで自分を育ててくれた。


自衛官は公務で死亡すれば多額の保険金が入る。

行方不明になった父は死亡扱いになり

多額の保険金が入ったが親戚に連中が金目当てに嫌がらせや

金の無心をしに来たのを誠は知っている。


だが母は強かった。

何一つ不自由させる事なく誠を育てぬいた。


そして・・・・・父をまだ愛していた。良い縁談があったことも知っている、だが断った。


いつか帰ってくるとずっと待ち続けていた。


「・・・・・・・・・母さんはこの事を知っているんですか?」


「知っている」

「・・・・・そうですか」


 

斑鳩は思った。

なんと優しい子だろうと。


経験上人間は危険に陥ると保身と嫉妬に走り出す。


災害派遣や訓練で嫌という程見てきた人間の本性。

斑鳩はそれが吐き気がするほど嫌いだった。


幼いだけなのかそれとも元々そうなのか分からなかったが自分が苦しい時にこそ他人を思いやる言葉が出てきた事に斑鳩は救われた気がした。


それだけに斑鳩は心苦しかった。


自分達の選択が。


まもなくしてヘリは首相官邸につこうとしていた。


首相官邸は騒がしかった。


緊迫感を肌で感じていた。

程なくして誠は一室に通される。


中には疲れはてた顔の内閣総理大臣、霧島 茂雄きりしま しげおがいた。

細い神経質そうなで細身、いかにもサラリーマンといった風貌だった。


霧島は部屋に入ってきた誠たちを一目見ると来たかとと一言呟いた。


「はじめまして、羽黒 誠君、内閣総理大臣の霧島だ。よろしく」


いかにも社交辞令だとでも言わんばかりに霧島は言った。


「早速だが、本題に入ろう。

君には日本国民を代表して外国特使としてある国に行ってもらいたい」


「外交特使・・・・・?」


「今空に浮かんでいる巨大な浮遊物を保有している国は君の身柄を求めている。

その事は聞いているかな?」


「はい」

「彼らは君を国賓こくひんとして招きたいと言っている。

しかし、我が国としては一国民を訳の分からない国にむざむざと差し出す訳にはいかない。

だから形式上は外交官として派遣されると思って貰いたい」


「なぜ、わざわざそんな事を?ただ僕がそこに行けばいいだけの話なのでは?」


単純な疑問だった。

誠は自分が特別な存在だとは思ってはいない。

相手が国賓として迎え入れたいというのであればそれをそのまま受け入れてもいいと思った。


「この一件は世界が注目している。

今後、君を世界の国々から守るためにも立場を明確にする必要がある。

簡単にいうと各国に拉致される可能性があるからだ」


「なぜです?」


「君が持っているであろう、かの国の情報を求めてだ。


かの国は今、君以外の外交を拒絶している。

日本も外交官の派遣を提案したが拒否された。


日本の首都に現れた浮遊物を巡って

アメリカは安全保障条約を発動させようとしている。


それに伴ってロシア、中国、イギリス、フランスなども含めて

非常事態になっている。


何が起こってもおかしくない、最悪第三次世界大戦が始まってしまう・・・・・」



誠には第二次世界大戦の知識があった。

状況を鑑みる《かんが》に第三次世界別に起きてもおかしくないのだ。


第二次世界大戦はナチスドイツによるポーランド侵攻から始まる。

複雑に絡み合った独立保証が発動し戦火は全世界へと広がっていった。


それと同じ事が起こる可能性があった。


その中で誠は最重要人物である。


たった一人の人間がこのギリギリの状況の鍵になったのだ。

現にアメリカは羽黒 誠の引き渡しを求めていた。


日本は今、国際社会に対して極めて難しい立ち回りを求められているのである。


なので仮初かりそめとはいえ地位を用意して各国が軽々に扱えないようにする必要があった。


「かの国からは君を迎えに使者が来ている、君は自身の意見を聞きたい」



「仮にいかないと言ったらどうなるんですか?」


「正直に答えよう、分からない。


だが我々は今脅迫されているような状態だ。


東京の上空に浮かぶ物がもし兵器であるとするのであれば

我々は首都の制空権を奪われているという事だ。


制空権を理解しているという事はそれだけでも高度な軍事力を

有している可能性がある。



暗に脅しにきているのだよ、その上で要求をしてきている。

君がこの話を受けるにしても受けないにしても判断が遅れるのは好ましくないな」



「そうですか・・・・・・・・・・・」

今の話を聞く限り拒否権はないだろうと誠は思った。


何より自分の父が何をしていたのかを知りたかった。














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