グレートリセット~行方不明だった自衛官の親父は異世界で英雄になっていました~

ヤマト

第1話

カツカツと黒板をチョークが叩く音が聞こえる。


9月の窓際まどぎわ授業じゅぎょうは太陽からの光がきつく集中力を

維持いじするのが難しい。


今年で高校3年生を迎える大事な時期なのだが集中できないのは仕方ない。


なりより黒髪が太陽の光を吸収して痛いくらいだった。

どうせ大して勉強ができる訳ではないのだ。


羽黒 はぐろ まことはぼんやりと窓の外に目を向ける。


ぼうっと見つめる視線のその先には巨大な鉄のかたまりのようなものが見えた。


「慣れたもんだな・・・・・・」

はじめは騒いでいたクラスメートは今では誰も騒ぎはしない。

異常が日常になっていた。


仕方がない話だ。

誰もどうしようもないのだから。



2022年8月15日聞いたことがないようなサイレンが日本中を響き渡った。


すさまじく心情を不快にさせるサイレンだった。

サイレンの意味するところは他国による武力攻撃。


日本には他国から武力が迫った場合、または武力攻撃を受けた場合

国民保護に関わる警報サイレンが鳴る。


それは極めて迅速なものだった。


日本の上空に突如現れたそれはそれ程までに日本政府に衝撃を与えたのである。


 東京の上空、高度7800メートルに面積にして2,193.96㎞2にも及ぶ巨大な浮遊物が突如として現れたのである。


偵察に飛行していた自衛隊機、数機は撃墜げきつい

攻撃能力を持つことから空中都市あるいは要塞ようさい

のようなものと予想された。


それは日本どころではなく、世界に衝撃を与えた。


何よりその空中要塞には生命体が存在し、一つの国家であると自称し日本政府にコンタクトを取ってきた点にある。


各国の首脳は震撼しんかんし日本の動向を伺った。


そして恐れた、第三次世界大戦を。


突如現れた国家は異世界という存在をはらんでおり

それは十分に第三次世界大戦の引き金になってもおかしくないものだった。


日本は今、世界の中心だった。






チョークの音はいつの間にかヘリのローター音に変わっていた。

校内放送で自衛隊ヘリが発着するので校庭に近づかないようにとのアナウンス

が流れる。


教室はざわめき立っていた。



突然、色黒でよく鍛えられたそれでいて細い左腕が誠の肩を抱く。


振り返らなくても一発で誠にはだれか分かった。

幼馴染おさななじみの金剛 こんごう あかねだ。


スポーツ日焼けした色黒の肌、引き締まった体で体格も良く背も高い。


「おい、誠見てみろよヘリだぜ、ヘリ」

黙っていると怖いが今は年相応の人懐っこい笑顔を浮かべていた。


「誠、お前ならあのヘリ分かるんじゃねぇか?」


「・・・・・UH-1J陸自のヘリだよ」


「さっすが、軍事オタク。よし!写真撮って弟たちにも見せてやろう!」

 

金剛はすかさずスマホを取り出して写真を撮り始める。


「おい、やめろよ金剛、怒られるだろ!・・・・・あれ?」


ヘリからは見慣れている人間がおりてきている。

ニュースで見慣れている顔だ。

それ以上に誠にとっては見知った顔だった。


斑鳩いかるが防衛大臣・・・・・・・・・」


「うぉい、マジか本物か・・・・・・・・・・」


 斑鳩 政審いかるが せいしん、現職の防衛大臣だ。


「おまえ斑鳩防衛大臣と知り合いだって言ってたよな?本当なのか?」


「うん、父さんが教育隊の時の教育隊長をしてたんだって。

退官してから政治家になったんだけどすごく律儀な人だよ。

父さんの命日に必ず墓参りに来るんだ」


「へぇ~~」


羽黒 誠には父がいない


父はちょうど誠が母の腹にいる時に行方不明になったそうだ。


父は陸上自衛官だった。


十八年前のある日霧深い山中で射撃の訓練の移動中一台の大型トラックが突如としてまるごと消えてしまった。


痕跡こんせきは全く残っておらず、大騒ぎになった。

消えた隊員は二十二名もいて、後続車もいたも関わらず一つの車両が

忽然こつぜんと姿を消した。


当時は神隠しだと騒がれたそうだ。


射撃場は山岳部にあり数年前にもタケノコ取りに来た子供が行方不明になっていた。


これは父の同期に聞いた話だが射撃場の近隣には不可思議な石碑せきひがあり触れたものは神隠しに会うといわれていたいわくつきの場所だったらしい。


武器、弾薬、車両と人員をまるごと失った自衛隊は一年もの間,1万人の規模で徹底的に捜索したが結局なんの手がかりも得る事は無く捜索を断念した。


捜索が打ち切りになった時、斑鳩防衛大臣は涙ながらに母さんに土下座して詫びた。すまないと、国が例え諦めたとしても私は絶対に諦めないと。


政治家になったのも捜索打ち切りになった父さんを探す為だと言っていた。


それからずっと探してくれている。


十八年間ずっと斑鳩防衛大臣の部下思いは相当な物でそれを考えると目頭が熱くなった。


クラスは喧騒に包まれていたがそれ以上に廊下の方が騒がしかった。


まるで人を威圧するのが目的のような力強い足音が近づいてくる。

斑鳩防衛大臣のものだった。


「困ります、応接室でお待ちください。」


と教師は押しとどめているが自衛隊時代「ブレーキを忘れたブルドーザー」の異名を誇った男を止めるすべを教師たちは持っていなかった。


無言でにらみつけただけで教師たちは下がってしまう。


まもなくして斑鳩は羽黒の教室に辿り着いた。

ガラっと勢いよく教室の引き戸が開く。


禿げ頭に口髭のまるで正岡 子規まさおか しきを思わせる容貌ようぼう、長身でガタイのいい体格が姿を表す。


「授業中失礼した。すぐに終わる、羽黒 誠君はいるか!」

 

明るく、人好きのする声だった。視線がすぐに誠を見つけ、羽黒に手を振ってくる。


「悪いが、急いで支度をしてついて来てくれ」

 誠は急いで支度してついてくる。


「何があったんですか?」


「すまないが、ここでは話せない、が緊急事態だ、ヘリの中で話そう」

 二人はヘリに乗り込みやがて飛び立っていった。


その日、羽黒 誠の永遠えいえんに続くと思っていた鬱陶しいくらいの平穏はバラバラ崩れ去った。

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