073.宿屋にて

『結局何もわからなかったか』

『なのです』


 ミニックは今、一泊500ニクルの宿屋のベッドでくつろいでいる。薬草の買取金額が500ニクルだったから魔石の金額分は残っている計算だ。ちなみに換金した19個のゴブリンの魔石が950ニクル。上位種の魔石が4つで400ニクルで全部で1350ニクルだ。円で換算すると13500円くらい稼いだことになるから割と稼ぎとしてはいいのかも? いや命の危険を考えるとそうでもないのかな?


 あの後ギルマスのアイリスに聞いたところによると今のミニックではトロン王国に行くことができないらしいことがわかった。やはり、トロン王国の亜人獣人嫌いはどこにでも知られているようでそれにより基本的に亜人はトロン王国に渡ろうとしないし、渡らせてもらえないんだという。それを考えるとセリスはよくあの国に滞在できたなーって思うよね。

 そう。基本的に亜人はトロン王国に入国できない。でも例外はあるらしい。それがSランク冒険者だ。Sランクにまでなると新聞に顔写真が載り世界中に知れ渡るほどの知名度になるのだとか。流石にトロン王国の国民もそんなSランク冒険者には手出しできないらしい。


 あとは王族に特別に許可された獣人が国を訪れたことがあるらしいけど多分それは無理だと思うから今回の計画からは除外しておく。


 ということでわたしの中でひとまずの優先事項が決まった。トロン王国に近づくこと、ミニックの冒険者ランクを上げること、そしてアルトの情報を集めることだ。


『結局悪魔さんはぼくに何をさせたいのです?』

『あれ? 言ってなかったっけ?』

『冒険者になることとトロン王国に行きたいということだけしか聞いてないのです』

『そうだっけ? わたしの目的は人探しだね。アルトっていう子を探してる』

『アルト……。アイリスギルドマスターにも聞いてたのです』


 ミニックの言う通りギルマスにもアルトのことを聞いてもらった。だけどまだ情報は出てこない。まあ、わたしがミニックに転移させられた時間軸を考えるとアルトはまだ正式に勇者に認定はされていないはずだから知名度がないのもうなづける。おそらく近いうちにアルトが勇者になったことが公表されるだろう。そうすればもっと情報が集まりやすくなるはずだよね。


『ライバルなのです』

『何か言った?』

『なんでもないのです』


 まあどちらにしても今はゴブリンの討伐のせいでスタリアの街から出ることはできないから、他にやることを考えなくちゃなんだよね。

さいわいにして、ギルマスにも街から離れないで連絡がつけられるようなら自由に活動していいとお墨付きをもらっているし冒険者ランクが上がりそうな依頼でもしてもらおうかなと思っている。


『なら、ダンジョンに潜りたいのです』

『ダンジョン? この街にあるの?』

『近くにあるのです。確かEランク指定だったはずなので入れるのです』

『Eランク指定?』


 ミニックによるとべトール連邦ではダンジョンにランク分けがされていてそのランクと同等の冒険者ランクにならないとダンジョンに入れないルールがあるらしい。ダンジョンのランクは基本的にダンジョンの推定最終深度、つまり最下層だと言われている部屋のボスの魔物ランクの一つ下に設定される。たとえばダンジョン主がDランクならEランク冒険者まではダンジョンに入れる。これは冒険者を無闇に死なせないようにするための配慮らしい。そしてスタリアにあるダンジョンはEランク指定なのでEランク冒険者になったミニックならダンジョンに入れるということらしい。

 トロン王国ではそのような規制はなかったが、本当はべトール連邦が実施しているように冒険者ランクで入れるダンジョンを規制した方がいいというのが冒険者ギルドの考えだ。しかし統一はしきれていないらしい。

 その理由はなぜかを考えると、ここからはわたしの考えになるけど、多分ダンジョン内で魔物の強さが変わるからだと思う。〈竜の巣〉を例に見てもらっても最上層はCランクの魔物、最下層のボスはSSランクとさまざまなランクの魔物が現れる。それなのに推定最終深度のランクの一つ下の冒険者しか入れないとなるとSランク冒険者しか入れないということになる。今の例は極端だけど、そういう理由でトロン王国では規制をしていないというわけなんだろうね。


 ちなみにトロンではダンジョンをクリアすることは認められていたけど、べトール連邦では推定最終深度のボスを倒すことはしてはいけないそうだ。〈竜の巣〉以外のダンジョン主も〈創造神への嫁入り〉で囚われた人だとすると無闇にダンジョン崩壊させるのは良くないから結果的にいい規制になっていると思う。


『じゃあ、明日はダンジョン探索をするということで』

『はいなのです!』

『できれば防具を買えるくらいまではお金を稼ぎたいね。せめて最低ランクの防具は欲しい』

『それはできるのです?』


 今日の稼ぎをみるに不可能ではない気がするんだよね。魔石だけでも1350ニクルだったから。Eランクの魔物を狙えば1万ニクルくらいは行くんじゃないかな。そうすれば一番安い防具くらいは買えるはず。


『明日はEランクの魔物100体討伐が目標だね』

『……マジなのです?』

『まじまじ。大丈夫。銃があればいけるって』


 ニュートラルアークデュオはなかなかチートだからね。Eランク魔物くらい楽勝でしょ。


 コンコン!


「夕ご飯できましたよ!」


 宿屋の娘さんが声がけに来てくれたみたい。


「今いくのです!」


 ミニックが逃げるようにドアの方へ向かっていく。


 今は逃げてもいいけど明日は逃げられないからね?

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