072.受付嬢?
ミニックとボーダンの戦いはミニックの勝利で終わった。
「マジかよ」
「ボーダンがやられるのか」
「あの小人族、やるじゃねーか」
「だけどボーダンはファイアアックスを使ってなかった。本気だったらわからなかったぜ」
「それに最後のボーダンの様子はなんか変だったしな」
「おいボーダン! 石ころにでもつまずいたか? らしくねーな!」
ボーダンが負けるという予想外の事態に周りが沸き立っている。ミニックに対して「やるじゃねーか」と褒めて肩を組んでこようとする冒険者もいる。ミニックがあまりに小さくてうまく組めてないけど。
「そういや賭けの勝敗はどうなるんだ。あの小人族に賭けてる奴なんかいなかったよな?」
「いや1人いたぞ」
「よっしゃー。俺の1人勝ちだぜ!」
〈ヴェイルウォーク〉の弓士、ホークが勝鬨をあげていた。1人だけミニックに賭けていたみたいだ。あっ、パーティメンバーのリアナにぶん殴られてる。うん。ものすごくどうでもいいね。
「坊主!」
「は、はいなのです!」
「やるじゃねーか! さっきは悪かったな。小人族を悪く言っちまってよ」
「大丈夫なのです。ボーダンさん。謝ってもらえたならいいのです」
「やめろやめろ。さん付けとか気持ち悪ぃ。ボーダンでいいぜ」
「なのです? ボーダンなのです!」
「おうおう。それでいい」
「ミニックさん。あなたの力は見させてもらいました。このあと別室で話をさせていただいてよろしいですか?」
ミニックとボーダンが話しているところに受付嬢が入り込んでくる。
「は、はいなのです? わかったのです」
受付嬢はまだミニックに話があるみたい。ミニックはわからないながらも彼女についていくみたいだ。
「俺もついていっていいよな?」
「あまり関係のない人を部屋に入れるのは嫌なのですが」
「巻き込んでおいてそれはねーんじゃねえか?」
「仕方ありませんね。まあボーダンさんも関係のない話ではないですし、ついてきてください」
ボーダンもついてくるらしい。ミニックはまだ受付嬢に対して緊張しているみたいだからちょうどいいのかもしれない。
3人は受付嬢を先頭に練習場を出てギルドに入り、建物の3階へと上がっていく。前にアルトに聞いた話だとギルドの3階はギルドマスターの部屋があるのが慣例らしい。そこに連れていかれるのかもしれない。
階段を登ると明らかに高級そうな雰囲気の漂う黒い扉が現れる。格式高い扉の前に連れてこられてミニックはびびっているようだ。
「こちらになります」
受付嬢が扉を開けた。執務室のような重厚な机が置かれたあまり飾り気のない感じの部屋だ。受付嬢がその部屋を勝手知ったる様子で進んでいき机の後ろに置かれていた椅子に座った。座った?
「ここはどこなのです?」
「わたしの部屋です」
ああ、なるほど。そういうことだったのか。
「ようこそミニックさん。冒険者ギルドへ。あなたのギルドへの加入を歓迎しますよ。わたしは冒険者ギルドスタリア支部ギルドマスターのアイリスです」
「ギルドマスターなのです!?」
────────────────────
名前:アイリス
種族:人族
職業:冒険者ギルドスタリア支部ギルドマスター
技能:影剣技
魔法:命
恩恵:─
────────────────────
今更ながら〈天眼〉を発動した。
ちゃっかり職業という欄を追加しているあたり、わたしが知りたい情報を〈天眼〉さんは読み取ってくれているみたいだね。
「それで? ギルドマスターさんよ。ミニックに何かあるのか」
「ええ。まずはミニックさんに冒険者資格を与えます。ランクは文句なしのEランクです」
「もう少し高くてもいいんじゃねえか。俺を倒したんだぞ」
「そうしたいところではあるんですが1支部のギルドマスターではここまでが限界なんですよね」
「なら仕方ねえか」
「話を戻しますがミニックさんは今からEランク冒険者として活動していただくことになります。もちろん最初にいった通り登録料は無料です。こちらがギルドに入る際に確認いただいている書類です。ご確認ください」
「わかったのです。確認するのです」
ミニックが書類を確認していく。わたしも一応確認しようとしたけどあまりに多いので途中で諦めた。
「確認は終わりましたか? よろしいですね?」
「大丈夫なのです」
「それではこちらがギルドカードになります。無くすと再発行にお金がかかりますので注意してください」
いつの間に用意していたのかアイリスギルドマスターがカードを渡してくる。
ミニックはランクE冒険者から始めることができるらしい。1支部のギルドマスターにできる限界まで上げたと言っていたから破格の待遇なのかもしれない。でもなんでわざわざ「よろしいですね?」なんて確認してくるんだろう?
「それでここからはミニックさんが持ち込んだ魔石の話に関係があるのですが、おそらくゴブリンの集落の討伐隊が組まれます。そこにミニックさんには参加していただきます」
「そうなのです? でもぼくは早めに街を出たいと思っているのです」
そう。アルトを探すためになるべくトロン王国の近くに行っておきたいんだよね。トロン王国はべトール連邦の南西付近に国境があるらしいんだけどスタリアの街は北東あたりに位置するみたいなんだよね。だから早めに移動をしたいところなんだけど。
「Eランク以上の冒険者は討伐隊への参加は義務になります。参加しない場合最悪ギルドからの除名を言い渡される場合があります」
「……もしかして、はめられたのです!?」
わざわざEランクに上げたのはこういう裏があったのか。
「おかしいですね。先ほどの書類にはきちんとそのことが書かれていたと思いますが?」
「諦めろ。きちんと読まなかったお前が悪い」
『今回は諦めよう』
『わかったのです。悪魔さんがいいならいいのです』
まあ、わたしの都合だから、ミニックにとってはどっちでもいいことかもね。
「さてここまでは決定事項ですがここからはミニックさんに黙秘権があります」
「? はいなのです」
「あなたの武器は一体なんですか?」
「これなのです? 銃なのです」
「なるほど。銃という名前なのですね。一体これはどこで手に入れたのですか」
「あく──」
『一応言っておくけど悪魔にもらったとかは言わないほうがいいよ』
ただの風評被害だけど一応ね。ミニックが悪魔憑きだと言われて動きにくくなるとわたしも困るし。
「あく?」
「……あくまで喋るのは任意なのです?」
「そうですね。話したくないことは話さないでいてくれて大丈夫です。ただ、その銃でしたか? その武器の扱いは厳重にしていただきたいのです」
あーそういうこと? あまりに危険な武器だから扱いに注意してほしい的な?
「大丈夫なのです。ぼくの武器は銃技系の
「銃技系、ですか? 聞いたことありませんね。それに技能によって制限を受ける武器は伝説級の武器だったはずですが」
やばい。ミニックが墓穴を掘った。ミニックがオロオロし始める。
「……まあいいでしょう。他に聞いておきたいことはありますか?」
「んーと。あっ! トロン王国に行きたいのです。どうすればいけるのです?」
「トロン王国ですか? ミニックさんが? やめた方がいいと思いますが……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます