071.ミニック対ボーダン
「えっ? なのです?」
「ですからボーダンさんと戦ってもらいます。もちろん武器も魔法も使っていただいていいですよ」
ミニックの足が震え出した。
ボーダンってあの最初に忠告してきた強面の冒険者のことだよね? ミニックと比べると2倍くらいの身長差があるんだけど? 比喩なしに大人と子供の戦いにならない?
「戦いに勝っても負けても登録料は無料です。魔石の買取もします。ランクに関してはボーダンさんとの戦いの結果を見て、ということになりますね。では併設されている練習場に行きましょう」
「ま、まだやるとは言ってないのです」
「今逃げてしまうとこの先ずっと逃げ虫の烙印を押されますよ。ちょうど冒険者たちがたくさんいる時間帯ですからね。彼らは娯楽が少ないですからこういう機会を奪われることをことのほか嫌います。あなたが小人族であることを考えるとこのギルドには居られないかもしれないですね」
さっきから皆ミニックのことを小人族って呼ぶんだよね。種族名で呼ぶのはなんか理由でもあるのかな?
周りを見ると突如開かれそうな催しに皆が好奇の目を向けてきている。あちらではすでに勝敗がどうなるかの賭けが行われているみたいだね。やらないという選択肢は実質的に潰されているようなものだ。
ミニックは受付嬢に嵌められたみたい。
『逃げ場はなさそうだね』
『た、戦うのです?』
『無理そうになったらギブアップすればいいんじゃないかな』
「ということでボーダンさん、お願いしますね」
「いじめは好かんぞ」
「新米冒険者の指導をするのもベテラン冒険者の務めですよ」
「だが、俺は手加減ができん」
「殺してしまわなければ回復できるので大丈夫です。多分」
多分ってなんだ多分って。流石に殺されてしまうのは困るんだけど?
結局戦いは行われるようだ。受付嬢にミニックとボーダン、その後ろから冒険者たちがぞろぞろとついてくる。
わたしは今のうちにボーダンのステータスを確認した。
────────────────────
名前:ボーダン
種族:人族
技能:斧技
魔法:火
恩恵:─
────────────────────
────────────────────
技能:斧技
副技:斧術 Lv.4
体力 Lv.3 筋力 Lv.4 瞬発力 Lv.2
???
────────────────────
────────────────────
火魔法:ファイアライト
ファイアボール
ファイアアックス
────────────────────
今回は副技と使える魔法も確認してみたけど、ボーダンはあまり魔法は使えないみたい。ファイアアックスは火を斧に纏わせる魔法だ。〈付与〉みたいなものらしいね。斧とファイアボールを警戒しておけば良さそうだ。まあその斧が脅威なんだけど。
練習場に着いたみたいだ。そこではチラホラと鍛錬している冒険者が見えたけどそれを受付嬢の権限(?)ですみに追いやっていく。
「武器の使用は自由。勝敗はわたしが戦闘続行不可能と判断するか降参するまで。では始めてください」
「仕方がない」
受付嬢の戦闘開始の合図にボーダンがゆっくりと大斧を持ち上げる。
「降参するなら今のうちだぞ。震えたウサギはお家に帰りな」
「家には帰れないのです」
「そうか。俺を恨むなよ」
そう言うなりボーダンが大斧を振りかぶってミニックに迫ってくる。ミニックは未だ震える足で迫ってくるボーダンから逃げている。
「おい、小人族! そんな逃げてばっかりじゃ勝てねーぞ」
「にげんな。戦え」
「そんなへっぴり腰じゃ冒険者にはなれねーぞ」
「やっぱり小人族には冒険者は無理そうだな」
「本当にゴブリンたちを倒したのか? 雑魚じゃねーか?」
周りから野次が飛んでくる。ミニックを嘲笑する声がほとんどだ。周りもボーダンが勝つことになんの疑念も持っていないみたいだ。
ボーダンが徐々にミニックを練習場の壁に追いやっていく。もう後ろには逃げられない。
「さすが小人族。逃げるのだけは一丁前か。だがここまでだな」
「こ、小人族は関係ないのです」
「あるだろ。逃げてばかりの弱虫の一族だからな」
「そんなことないのです! 小人族でもすごい人はいるのです!」
「なら、坊主がそれを証明して見せろ。やれるもんなら、な!」
大斧がミニックに振り下ろされる。肩を穿つ一撃だ。手加減はできないとは言っていたけどなんだかんだで致命傷になる頭は避けてくれるらしい。練習試合だということを忘れていないみたいだ。
しかしそれをミニックが大きく迂回して避ける。さっきまでの浮腰ではないしっかりとした足取りだ。
「殺してしまうかもしれないのです」
「大口を叩いたな。やれるもんならやってみろ」
ミニックが異空間から2丁拳銃ニュートラルアークデュオを取り出す。
やっとやる気になったらしい。だけど急にやる気になった理由がわからない。小人族をバカにされたのがスイッチになってるのかな?
「おい。どこから取り出した?」
「なんかやる気だぞ」
「だけどそんな小さい武器でどうする気だよ」
逃げに徹していたミニックに白けた様子だった冒険者たちだったがミニックが何かする気になったことに気がつき興味の目を向けはじめた。
「やっとやる気になったということか」
「なのです」
ミニックが拳銃をボーダンの足に向けて二発撃ち抜いた。それはボーダンの足を貫通する。
「うお! なんだこれは! 飛び道具か!?」
ボーダンが驚きと痛みに顔を顰める。周りからはざわめきが走る。しかし、そこはB級冒険者ということだろうか。撃ち抜かれた足で普通にミニックの方に向かってくる。
ミニックが弾丸を撃ち放つ。しかしボーダンは大斧を振り回すことでその弾丸を弾いていく。初弾でもう弾道を見抜いてきたのかと思うとすごい反射神経だ。徐々にミニックとボーダンの距離が縮まっていく。
『悪魔さん! ぼくに力をくださいなのです!』
『うーん。それ必要かな?』
なんだかんだ言って練習試合だからね。ボーダンも殺す気はないみたいだし勝ちにこだわる必要もない。負けてもいい戦いでわざわざ力を与える必要もないんじゃないかと思うんだよね。
『お願いなのです! ボーダンさんに勝つのです!』
『……まあいいか』
ゴブリン達を倒した時に手に入ったポイントもちょうど10ptあるし、〈天授〉を使おうかな? ここでどれくらい〈天運〉の運上昇効果があるのかも見ておきたい気もするし。
『何が手に入るかはミニックの運次第だから』
『わかったのです!』
〈天授〉を発動。
<消費する天声ポイントを入力してください>
10ptで。
<天声ポイント10ptの消費を確認しました。〈天授〉を開始します……完了しました。ヴォイドグラヴィティを取得しました>
『魔法を取得したから画面を共有するよ』
『了解なのです』
────────────────────
魔法名:ヴォイドグラヴィティ
対象に触れて発動することで対象の重力を無くす。
────────────────────
なるほど。重力をなくす魔法か。色々使い道はありそうだけどミニックはどう使うのかな?
ミニックが魔力を練り始める。弾幕が止んだのを見越してボーダンがミニックに迫る。
「ヴォイドグラヴィティ!なのです!」
ミニックが弾丸を撃ち放った。その弾丸はボーダンを撃ち抜く前に斧で止められる。しかしその斧に対して魔法が発動した。斧のヴォイドグラヴィティの効果によって斧にかかっていた重さがなくなる。急に軽くなった斧にバランスを崩したボーダンがたたらを踏む。すかさずミニックがボーダンの頭に拳銃を突き立てた。
「終わりなのです」
「そこまでです!」
受付嬢がミニックの勝利を宣言した。
<天命ポイントが更新されました>
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます