056.犯人の目的は?
『エレイン王女は目を覚ましたよ』
『そうなんですね! よかったです』
わたしは状況を把握していないであろうアルトのところに戻ってエレイン王女が治ったことを告げた。
『それとさっきのシスターって聖女様だったみたいだよ』
『テレジア様ですね。この国にいる唯一の聖女様です』
『そうなんだ』
わたしが知らなかっただけでアルトはあのシスターが聖女だと知っていたみたいだ。有名人らしい。まあ唯一の聖女様と言うくらいだ。すごい聖魔法の使い手なんだろうね。
『それにしても』
『どうしたんですか?』
ちょっと気にかかるんだよね。
何がって? それはエレイン王女はなぜ擬呪毒にかかっていたのかだね。
エレイン王女は王族だ。もちろん命を狙われやすい種類の人間ではあると思う。だけどそれでも王位継承権がアーサーより高いわけではないはずだ。狙うならアーサーが一番に狙われてるはずなんじゃないかな?
しかも擬呪毒は〈天眼〉で見たかぎりだと死ぬことはない毒らしい。王族を狙うとしてわざわざそんな毒を使うかな? もっと致死性の高い毒を使うのが普通じゃない?
まあそもそもどういう経緯でエレイン王女が擬呪毒にかかったのかもわかってないからね。推測しようにもしようがない。
誰に擬呪毒を盛られたのかとかを知ることはできないかな?
『エレイン王女が擬呪毒にかかった経緯ってわかるかな?』
『経緯、ですか?』
『うん。エレイン王女がどういう理由で毒をもられてたのかがちょっと気になって』
『うーん。アーサーさんに聞けばわかるでしょうか?』
アーサーと聖女テレジアが戻ってくる。エレイン王女はいないみたいだ。まあ、病み上がりだからね。わざわざ連れ回したりはしないだろう。アーサーは目元が赤みを帯びているみたいだ。泣いていたのかもしれないね。
「アルト。ありがとう。キミのおかげでエレインは目を覚ましたよ」
「そちらの聖女様のおかげですよ」
「ああ。知っていたんだね。テレジア嬢だ。この国唯一の聖女だね」
「……テレジアです。ではわたしはここで」
聖女テレジアむすっとした表情で名前だけ告げると元いた場所に戻っていった。
「すまない。いつもはあんな感じではないのだけど」
「いえ。それよりアーサーさん。エレイン様はどう言う経緯で呪いにかかったんですか?」
「呪いにかかった経緯、かい? 魔人族にやられたんだ」
アーサーが言うには、エレイン王女は祝福で〈結界術〉の
「その後、救出されたエレインを〈鑑定〉したら呪いだったというわけだ」
なるほど? 国防を教会に任せっきりになるのはよくないことはわかっていた。だからエレイン王女を戦線に送り込んで教会の代わりに国防を担ってもらおうとしてたのかな? だけど、エレイン王女が呪いをかけられて計画が壊れてしまった。
「なぜ魔人族がこの国に?」
「それがわからないんだ。魔人族の男は逃してしまったからね」
『本当に魔人族のしわさなのかな?』
「本当に魔人族だったんですか?」
「ああ、それは間違いない。複数の兵士が見ているからね」
エレイン王女が魔人族に毒を飲まされたのは事実みたい。そうするとエレイン王女の〈結界術〉を嫌った故の魔王国側の犯行とも取れなくはない。だけどやっぱり変だよね? 擬呪毒の原料になる呪い茸はトロン王国でしか取れないものだと〈天眼〉さんが教えてくれた。魔王国とトロン王国は戦争をしているのだから国交なんてないはず。なのにトロン王国でしか取れない呪い茸が原料に必要な擬呪毒をわざわざ使うかな?
それに前にも考えたけど、盛っても死ぬことのない擬呪毒をわざわざ使ったのはなぜ? そんなものを使うくらいなら、その場で殺すか致死性の毒を盛るかをするんじゃない?
わざわざ致死性のない毒を使うのはエレイン王女が動けなくなってかつ生きていた方がいい人間ということになりそうなんだけど。わたしの考えすぎ?
そこまで考えたとき巨大な鐘の音がゴーンゴーンと鳴り響いた。
えっ何が起こったの? もしかしてアルトがここにいることがバレた?
「みんな避難しろ!」
外から男の声が聞こえてくる。だけど別にアルトをあるとを捕らえようとしているわけではないようだ。アルトがここにいるのがバレたわけではないみたい。
わたしがホッとしていると外から大きな破壊音が響いて、続け様に大きな地響きが起こった。教会内がガラガラと音を立てている。
「これは? まさか城壁が壊されたのか?」
アーサーがそう呟く。城壁って結界内にあるんだよね? それが壊されたってことは、どういうこと?
わたしのその疑問は聖女であるテレジアが図らずも答えてくれた。
「みなさん!! 落ち着いて聞いてください! これは結界が破られた時の鐘です!! 魔人族の襲撃です!! みなさん落ち着いて避難してください!!」
……結界は破られたことがないんじゃなかったの? なんかアルトの周りってこういうこと多くないかな?
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