057.襲撃
「結界が破られただって?」
「そんな馬鹿な!?」
「結界術師は何をやっているんだ!!」
「落ち着いて!! 慌てず避難してください!!」
結界が破られたという知らせに教会にいた人たちはパニックに陥った。
聖女テレジアが安全な避難を誘導しようとするがその声は虚しく響き、人が我先にと出口へと押し寄せていく。
ダリス司教? 誰よりも早く逃げ出していたね。まったく信用ならない男だ。
「さっきの音から察するに城壁も壊されているはずだ。ぼくはエレインを連れてくる! すぐに戻るから待っててくれ」
「わかりました!」
アルトに声をかけたアーサーが階段を降りていく。
その間にも教会内にいた人はほとんどが外に逃げ出していた。教会の中はテレジアとアルト以外にはもう一人しか残っていない。
その一人の少女は足に怪我をして座り込んで泣いていた。多分、人波に押されて倒れ込んでしまったんじゃないかと思う。
アルトはその少女に駆け寄って手をかざした。
「何をする気ですか!」
「ホーリーヒール」
テレジアの静止を無視してアルトがホーリーヒールを発動する。少女を暖かな光が包み込み、傷がゆっくりと塞がっていき、やがて跡形もなくなくなった。
「大丈夫ですか? 一人で避難できますか?」
「うん。ありがとう」
少女が涙を拭きながら教会の扉の方へ駆け足で向かっていく。あれだけ元気になれば大丈夫だね。
横を見るとテレジアがアルトに手を伸ばした格好でピシっと固まっている。何かあったのかな? あーもしかして仕事をとられて怒っているとか?
「お待たせ。……テレジア嬢? どうかしたのかい?」
アーサーがエレイン王女を横抱きにして戻ってきた。後ろにはエレイン王女に付き添っていたメイド服の女性も見える。
「……いえ。なんでもありません」
「そうかい? じゃあ出ようか」
「お兄様。おろしてくださいませ」
「だめだよ。 病み上がりなんだからね」
エレイン王女は顔を赤くしている。お姫様抱っこが恥ずかしいのかな?
だけどエレインの要求をアーサーが病み上がりを理由に拒否する。
確かにエレイン王女は声も手も震えていて汗もかいているようだ。まだ本調子には見えない。そうだ。状態はどうなってるかな?
────────────────────
名前:エレイン
種族:人族
状態:衰弱
────────────────────
やっぱり毒は無くなってるみたいだね。だけどまだ弱ってるみたい。そりゃずっと毒に侵されていたんだからそうなるよね。
『アルト。エレイン王女に魔法をかけてあげたら?』
「回復魔法を使ってもいいですか。多少は体調が良くなるかもしれません」
「お願いしてもいいかい?」
「わかりました。ホーリーヒール」
エレイン王女が光に包まれる。エレイン王女の震えが止まり、汗が綺麗に無くなった。〈天眼〉でも確認してみる。うん。状態も衰弱から通常に戻っているね。
「体が軽いですわ。お兄様。もう本当におろしていただいて大丈夫ですの」
「だけど──」
「お兄様は恩人に抱かれたままお礼を言えとおっしゃりますの?」
アーサーは一度は渋ったが丸め込まれてエレイン王女のことをおろす。
その間、テレジアはプルプルと肩を震わせていた。またアルトが仕事をとっちゃったからお怒りになられてる? なんかすみません。
「ありがとうございますわ」
エレイン王女は軽く頭を下げてアルトに礼をする。アーサーもそうだけど王族なのに簡単に頭を下げるよね。それでいいのかと思ってしまうよ。ほら付き添いのメイドさんも眉をつりあげてるし。
「いえ。よくなられたようでよかったです。エレイン様」
「フードは取ってくださいませんのね?」
「申し訳ありません」
「それくらいにしてやってくれ」
エレイン王女はアルトの素顔が気になっているみたいだ。だけど認識阻害のせいで見えないみたい。まあ逃亡中のため素顔は晒せないからね。
「それでこれからどうするんですか?」
「ぼくは壊れた結界があると思われる城壁へと向かう。きてくれるかい?」
「破壊音のあった場所へ向かうんですね? わかりました」
「エレインはテレジア嬢と一緒に避難してくれ」
「わたくしもいきますわ!」
「ダメだ」
「ですが!」
「今から行くところは危険なんだ。わかってくれ。ライア。エレインを頼む」
「かしこまりました」
ライアというのはメイドさんのことみたいだ。
結局エレイン王女はついてこないらしい。まあ病み上がりだししょうがないよね。
「わたしはアーサー王子について行きます」
「テレジア嬢にはエレインを頼みたいのだけど」
「エレイン王女はライアさんがいれば問題ないでしょう?」
「そうかもしれないが」
テレジアはついてくるらしい。アーサーはエレイン王女についていてほしいみたいだけどテレジアはお構いなしだ。
それはいいんだけどなぜテレジアさんはアルトを見るのかな?
アルトとアーサー、テレジアは教会から出て破壊音が聞こえてきた結界が破られたであろう城壁の方へ進んでいく。
「なぜ結界が破られたんでしょうか?」
「わからない。セラフィナ嬢が結界を張り始めてから15年の間破られたことはなかったからね。それを破れる魔人となると、もしかすると魔王直属の四天王級が来てるのかもしれない」
「四天王級ですか」
四天王! 魔王といえばだよね! 不謹慎かもしれないけど少しワクワクしちゃう。……ちょっと落ち着こう。
「四天王と言えば一人で一つの街を破壊し尽くせるという方々ですか? 今まで出てこなかったのになぜ今になって……本格的にトロン王国を滅亡させる気なのでしょうか?」
「わからない。四天王というのもぼくの推測だから。……それにしても静かだね」
アーサーの言う通り確かに静かすぎるかもしれない。市街地は既に人が避難した後みたいだから人々の喧騒がないのは当たり前だけど戦闘音もしない。襲撃があったと言うなら魔人族と兵士たちの戦いの音が響いてもいいようなきがするけど。
3人はアーサーを先頭にどこも破壊されていない綺麗な街並みを進んでいく。やっぱり戦いの後はないみたい。これほど戦闘の跡が無いと逆に怖くなってくるね。
城壁に近づいてきた。国境を守っているというだけあって高く堅牢そうな石壁だ。しかしその大きな壁は破壊され、巨大な大穴が開いてる。
そしてその壊れた大穴の前で黒髪の壮絶な美女が岩に腰掛けて座っていた。
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