052.セリスには見えている?

『セイさん。ありがとうございました』


 アルトが念話を飛ばしてきた。あまりに唐突だったのでちょっとびっくりする。


『どうしたの?』


 アルトとセリスは森の中で休憩をとっている。辺りも暗くなりはじめているし今日はここで夜を明かすことになりそうだ。

 ここに着くまでに何度かの休憩を挟んだ。セリスはまだそんなに体力はないみたいですぐに疲れてしまう。だけどそれもしょうがないよね。ずっとダンジョン主にされて閉じ込められてたんだから。そうじゃなくても常人にとって森の中を歩くのは辛いことだし。


『セイさんのおかげでセリスを助けられました』

『アルトのおかげだと思うけど?』


 わたしは基本的に何もできないからね? 確かに〈天眼〉で情報を伝えたり、〈天授〉で色々と技能スキルとかを取ったりしたけどそれって元々はわたしの力じゃないし。そうするとセリスが助かったのはケイのおかげ? なんか認めるのは癪だけど。

 それに一番大きいのはアルトが諦めないでダンジョンを進もうとしたからだよね? そうじゃなかったら多分ダンジョンが氾濫して助け出すどころじゃなかったと思うし。


「おにいちゃんは誰と喋ってるの?」


 セリスがアルトに話しかけた。アルトとわたしの話を聞いていたみたい。


 ……あれ? セリスにはわたしの声が聞こえてる?


『わたしの声が聞こえてるの?』

「聞こえるよ。おねえちゃんはどこにいるの?」

『おねえちゃん!』


 かわいいセリスのおねえちゃん呼び。眼福ならぬ耳福だ。転生してよかった! 人じゃなくて天声だけど。生きているのかも疑わしいけど。


 そうじゃない! なんでセリスにわたしの声が聞こえるの?


────────────────────

 名前:セリス

 種族:龍人族 / 魔人族

 技能:龍感覚

 魔法:─

 恩恵:自由神の勇者の種

────────────────────


 勝手にセリスのステータスがあらわれた。確認しろってことかな?


「おねえちゃん、セイさんは聖霊様だから見えないんだよ」

「そうなの? でもなんかここら辺にいそうな気がする」

「ぼくもそんな感じがするけど」

「やっぱり」


 アルトとセリスがなんか興味深い話をしながらわたしのほうを見ている気がする。もしかして見えてるのかな?


 だけどわたしはウィンドウの情報に集中。気になるのは〈龍感覚〉くらいだよね?


────────────────────

 技能:龍感覚

 副技:超常感覚 Lv.1

    龍言語理解 Lv.1


    魔力 Lv.1

    魔抗力 Lv.1

    ???

────────────────────


 副技の〈超常感覚〉というのが気になる。というかそれくらいしか心当たりがない。流石に〈龍言語理解〉は関係ないよね? わたしの念話が龍言語だとは思わないし。


────────────────────

 副技名:超常感覚

 超常現象を読み取る。読み取れる情報は素質と副技のレベルに依存する。

────────────────────


 うーん? わからないけどこれっぽい。そうするとわたしの念話って超常現象になってしまうけど。まあ間違いとは言い切れないか。


「そうだ。セリスもセイさんにお礼を言って? セイさんがいなかったらセリスを助けることもできなかったんだから」

「そうなの?」

「そうだよ」

「おねえちゃん。ありがとう!」


 セリスがわたしの方を向いてお辞儀をする。やっぱり見えてる? でもそんなことはどうでもいい。とても可愛い。だけどわたしはあえてすました声でお姉さんぶってみる。


『どういたしまして。だけどそれはアルトに言ってあげて? セリスはアルトにお礼言ってなかったよね?』

「あっ。おにいちゃんありがとう!」

『よくできました』


 アルトに似て素直ないい子だね。セリスは。

 だけど生まれてすぐダンジョンに取り込まれていたセリスの情操観念ってどうやって育まれたんだろう。不思議だ。でもいい子なのはいいことだから目を瞑っちゃう。


「セリスはなんでセイさんの声が聞き取れるの?」

「わかんない」

『〈龍感覚〉っていう技能みたいだよ』

「そーなんだ?」


 コテんと首を横に傾げるセリス。アルトもやってたことあるけど美少女がやると可愛すぎて困る。やばい。このままだとシルヴァみたいになってしまう! 不審者はダメだ。絶対になっちゃいけない。

 そういえばシルヴァは〈龍感覚〉持ってないのかな? 龍なのに。すごい龍のはずなのになんか残念感が増してきている感じがするのは気のせいかな?

 えっ? わたしの声が聞こえてて無視されていた可能性? 悲しすぎるからそんなこと想像させないで?


 わたしが羞恥とか悲嘆とかで悶えていると、おもむろにアルトが水、〈水竜王の聖水〉を取り出して瓶を飲み干した。そのまま次の瓶を取り出してセリスに勧める。


「そろそろ水を飲んで?」

「やだ!」


 しかしセリスはそれを拒む。これまでも数回休憩をとっているけどセリスは一滴も水を飲もうとしていない。


「そろそろ飲まないと脱水症状が出ちゃうよ」

「その水怖い」

『〈水竜王の聖水〉が怖いの?』

「うん。他の水がいい」


 他の水ね。ダンジョンから転移してすぐに囲まれて逃げてきたから水の補充はできてないんだよね。他の水。他の水?


『アビスウォーター?』

『流石にあれはダメじゃないですか?』

「何それ? 見せて?」


 セリスが興味を示してしまった。念話が聞き取られてしまう難点が出たか。アルトがちょっと恨みがましい目で見つめてきてる気がする。すみません。軽率でした。


 考えている間にもセリスがアルトに「見せて!」とせがんでいる。アルトは結局根負けしたみたいだ。


「飲み水じゃないからね?」

「うん」

「しょうがないな。アビスウォーター」


 アルトの掌から黒い水が出現した。それをセリスが手をお椀型にして掬う。明らかに禍々しくぼこぼこと泡が立っていて見た目が怖い。えっ。セリスの手大丈夫?


「大丈夫そう」

『えっ何が?』

「ダメだよ! 飲まないでね!?」

「美味しそう!」


 そういうとアルトが引き止める間も無くセリスは手の中にある黒い液体を飲み込んだ。セリスの眉が上がり驚きに目を見開いている! やっぱり人には毒か!?


『アルト! 回復の準備──』

「おいしい!」

「えっ!?」


 セリスはとびっきりの笑顔だ。対してアルトが心配そうにオロオロしてる。


「大丈夫!? お腹痛くない!?」

「大丈夫だよ! 甘くて喉の奥でシュワシュワしてすごいの!」


 え? それって?


『コーラ?』

『コーラってなんですか? それよりセリスは大丈夫ですか!?』

『そうだった!』


 状態を意識して〈天眼〉を発動!


────────────────────

 名前:セリス

 状態:通常

────────────────────


『大丈夫みたい』

『よかったです』


 アルトはセリスにちょっと怒ったような顔をする。


「危ないから急に飲んじゃダメだよ!」

「ごめんなさい。でも見たら大丈夫だったから」


 セリスは大丈夫だとわかっていたみたいだね。

 セリスにはやっぱり〈龍感覚〉で何か他の人とは違うものが見えてるのかな?


「あれ?」


 不意にセリスがアルトの隣を見た。だけどそこには何もない。また何か見えてたりするのかな?


「セリス? 聞いてるの?」

「誰か来る」


 突如人が通れるくらいの白い扉が現れる。


「やあ、さっきぶりだね。会いにきたよ」


 開いた扉の中から現れたのはアーサーだった。


 やっぱりセリスには何か見えてるみたいだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る