053.野生のアーサーが現れた
突如現れた扉からアーサーが出てきた。これも空間魔法?
「アーサーさん?」
「そうだよ」
「……どうやってここに?」
「アルトに魔法で転移座標をつけさせてもらってね? あとはその座標に向かって転移したってわけさ」
「そうですか」
どうやら転移するための印がアルトにつけられていたらしい。そういえばアーサーが魔法を詠唱したのに何も起こらなかった時があった。その時かな?
アルトが両手に剣を出現させて臨戦態勢をとる。しかしアーサーは両手を上げてその場に立ってるだけだ。
「落ち着いて。戦う意志はないよ」
「信じられません」
「まあ、そうだよね。だけど信じてほしいな。ぼくはやろうと思えばもっと人を連れてくることもできたけど一人で来たんだ。ヴァルガン大司教にも伝えてない。それにキミにはドレスアーマーをあげた仲じゃないか」
確かにさっきの扉は複数の人を通すことができそうだ。それにドレスアーマーのことを言われると少しだけ心が揺らぐ。
ちなみに戦いでヒビが入っていたドレスアーマーはすでに元に戻っている。すごい自己修復機能だ。相当高性能な装備をもらったものだよね。ただより高いとはよく言ったものだ。
「おにいちゃんと戦ってた人だ! 悪い人! だけどおにいちゃんに服をあげた人? 実はいい人?」
「そう。おにいちゃんに装備をあげた人だよ。……おにいちゃん?」
「ぼくのことです。……ぼくは男ですよ」
「えっ。てっきり女の子かと──」
「ぼくを怒らせにきたんですか? 喧嘩なら買いますよ」
「いや。すまない。本当に戦う意志はないんだ」
アーサーはまだアルトのことを女の子だと勘違いしていたみたいだね。
アーサーがアルトの圧にたじろいでる。アルトは女の子に間違えられることを殊の外嫌うみたいだからね。アーサーは失言だった。いくらアルトが女顔だからってそれはな……。あ、やばい。わたしの方にも飛び火しそう。考えるのやめ!
「それで? ぼくたちに何か用ですか? 王太子様?」
「流石に気が付いてたか」
まあヴァルガンがあれだけ言っていればね。気づかない方がおかしいって。
「用がないなら帰ってください」
「いや、用はある。……対立していた手前言いづらいんだけど」
「今更ですか?」
確かに今更だ。ヴァルガンに命令されていたとはいえアルトとセリスを殺そうとしたんだ。どの口が言ってるんだという感じだ。
「それもそうだね。恥を承知でお願いがある。妹を救ってほしいんだ」
◇◇◇
「それで、どうして王太子様は妹様を救ってほしいと?」
アルトは本格的にアーサーの話を聞くことにしたみたいだ。妹となるとアルトも他人事とは言えないからね。情が湧いてしまったのかもしれない。
「王太子様というのはやめてくれないかい? アーサーでいいよ」
「わかりました、アーサーさん。それで救うとはどういうことですか? ヴァルガン大司教も言っていましたよね? まさか人質に取られているんですか?」
確かにヴァルガンだったらやりかねないね。
「いや。違うんだ。実は妹、エレインは呪いにかかっていてね。ヴァルガン大司教を伝に聖女様に癒していただいているんだ」
なるほど? まあ教会なんだし呪いの治療もするのか。
それにしてもあのヴァルガンがね。本当に? 疑わしく思ってしまうのはわたしの偏見かな?
「それならぼくは必要ないんじゃないですか? 今代の聖女様も聖魔法の使い手ですよね?」
「それが聖女様では解呪しきれないみたいなんだ」
「それならぼくも解呪できないんじゃないですか?」
アルトの言う通り同じ聖魔法の使い手である聖女様にできないんだったらアルトにもできないような気がする。
あれ? だけどホーリーヒールで直せないものなんてあるのかな? どんな重症や呪いでも治せる効果があるはずだけど。
「聖女様のホーリーアンチカースでは呪いを治せなかった。だけど、アルトが戦いの時にぼくにかけてくれた回復魔法ならなんとかなるんじゃないかと思ってね? あの時は本当に死ぬかと思ったけどこの通り今は完全に元に戻っている。あれは蘇生にも近い魔法だよ」
ホーリーアンチカースってなに? そんなのあったっけ?
わたしは聖魔法の一覧からホーリーアンチカースを探した。……あった。
────────────────────
魔法名:ホーリーアンチカース
聖なるエネルギーで人族にかかった呪いを治す。
────────────────────
ふむ。ホーリーヒールを解呪に特化したバージョンみたいだね。だけどわざわざ細分化されてるのはなぜかな? それだったらホーリーヒールで十分じゃない?
そう思ったら追加で<複雑な技術や神への祈りを必要としない>とでた。つまりホーリーアンチカースは初級者向けでその分特化した魔法ってことなのかな?
でもそうすると今度はホーリーヒールには複雑な技術が必要ということになるんだけど。そんな技術アルトは身につけたっけ? まあ、それは今はいいか。
『ホーリーアンチカースはホーリーヒールを解呪に特化したものみたい』
『だとするとぼくの魔法でも戻るかどうかわからないですね』
『そうかも。だけど〈天眼〉があれば原因はわかるかもしれないよ』
『そうですね』
「魔法で解呪できるかはわからないですけど、症状を調べることはできるかもしれないです」
「それは〈鑑定〉のことかい? であれば既に診てもらっているけど」
ありゃ。既に確認済みなんだ。それじゃあステータスを見ても意味ないのかな?
「そうなんですね。なら一応ぼくの魔法で治るかどうかも試してみますか? エレイン様はどこにいるんですか?」
「治してくれるのかい?」
「試してみるだけはしたいと思います。それでどこに?」
「ノクターン城塞都市にあるハモニス教会の一室で寝かされているよ。早速行こう」
「おにいちゃん。眠い」
セリスの目が半目になっている。おねむになってしまったみたいだ。今日はずっと森の中を歩き通しだったからね。仕方がない。
「セリスが眠いみたいです。明日にしても大丈夫ですか?」
「確かに今から行っても面会は明日になりそうだね。ならぼくの転移で宿屋に行って寝かせてあげようじゃないか。転移で行くからすぐ着くし、ここで寝るよりはよっぽどいいと思うよ」
────────────────────
本日5話投稿。本日の投稿はここまでです!
もしも少しでも面白いと思っていただけたのであれば、フォローやレビュー(星をつけるだけでもとてもうれしいです。+を押す回数で星の数が変わります)をしていただけると、非常に励みになります。よろしくお願いします!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます