050.アルト対アーサー
アーサーがアルトを強襲した。二人は今も互いの剣をかさね鍔迫り合いを続けている。
「アルトが男だなんて教会も適当な連絡をあげてくれるね? 探し出せというならちゃんとした報告をあげてほしいのだけど。ダンジョンであった時に気がつかなかったじゃないか」
「いえアルトさんはああ見えても男ですよ」
「よくわからないことを言うね?」
鍔競り合いを続けながらもアーサーはヴァルガン大司教、いやもうヴァルガンでいいか、と会話をしている。随分と余裕があるらしい。
アーサーはダンジョンで会った時からアルトを探していたみたいだ。だけどアルトを女の子だと勘違いして気がつかなかったらしい。
「アルト。本当にキミは冥魔法を使うのかい?」
「……そうです。ですが──」
「なら、仕方がないね。ぼくも教会に逆らうわけにはいかないから」
アーサーの腕に力が入りアルトが力負けして押されていく。アルトが後方に飛び退って剣から逃れる。力ではアーサーに
アーサーがアルトに近づいて剣戟を重ねようとしてくる。アルトはそれをバックステップでかわそうとする。
「スペイシャルテレポート」
「ぐっ!」
『アルト!』
しかし後ろからの蹴りで前方に吹き飛ばされた。
アーサーが何もなかった空間から現れてアルトの背後にから蹴りを入れたのだ。
さっきも急に空間から現れたように見えた。魔法名を唱えている。空間転移の魔法か!
『アーサーは転移の魔法を使えるみたい!』
『ですね! アビスファイア!』
すぐに立ちあがろうとするアルトにアーサーが迫る。それをアルトが念話詠唱のアビスファイアで牽制する。
「無詠唱かい? 厄介だね」
「アーサーさん。退いてくれませんか?」
「ぼくは名前を名乗っていないはずだけど? 〈鑑定〉持ち? あんまり人のステータスを見るのは感心しないな?」
「急に人を襲うのも感心しませんよ!」
「それは謀反人だから仕方がない、ね!」
アーサーがアルトに向かって剣を振った。光を纏った剣撃だ。その光量からはかなりの威力を秘めていることが分かる。アルトが双剣をクロスしてその一撃を受け止めた。しかし迫り合いは拮抗せずアルトが後ろに弾かれてしまう。
『アビスシャドウ』
「スペイシャルテレポート」
またアーサーが転移してアルトを追撃しようとする。しかし魔法は発動せず立ち止まったまま動かない。足元には黒い影が絡みついて蠢いている。
「おかしいね」
「転移の魔法は発動できませんよ」
アビスシャドウの行動阻害効果だ。これで転移は使えないし動きも多少制限される。
「……魔法が使えなくなったのはキミのしわさかい?」
「そうです」
「なるほど。キミはぼくの天敵みたいだね」
「退いてくれませんか? ぼくたちは──」
「それは出来ない相談だ。それに、大口を叩くのはぼくの光剣を受け止めてからにしてもらいたいね」
アーサーは行動阻害で動きが遅くなっているはずだ。しかしそれでも素早い走りでアルトに迫っていく。その手に持つ剣はさっきよりもまばゆい光を発していて高密度なエネルギーを感じる。
確かアーサーの持っていた
「〈付与〉ホーリースパーク!」『〈付与〉ホーリーレイ!』
アルトが聖右剣ホーリーレイヴァントに二重の付与する。アルトの剣に雷が帯び剣先を纏う光が2メートルほどにまで伸びていく。
……あの二重付与は
二人の剣が交錯する。一瞬の均衡の後、両者が後方に弾き飛ばされた。双方が纏うエネルギーの余波でアルトのドレスアーマーにはヒビが入り、アーサーの鎧は焼け斬れ素肌が露わになっている。
『アルト!』
『ホーリーヒール』
アルトが口からゴボッと血を噴き出し剣を杖代わりにしながらよろよろと立ち上がる。肩口が抉れている。すぐにホーリーヒールを発動したが傷がゆっくりとしか治らないのがもどかしい!
対してアーサーは余裕そうな足取りですぐに立ち上がった。
追撃される!?
しかし、わたしの懸念とは裏腹にアーサーは剣を下ろして理解し難いとでもいうような顔でアルトを見つめるだけだ。
「……どういうことかな? あれは、聖魔法?」
「そう、です」
「聖魔法が人族に通用しないことを知らないのかい?」
「知っています。聖魔法が人族にダメージを与えられないことは」
え? そうなの? わたしは知らないけど?
だけど確かにアーサーは鎧は壊れているが除く素肌に傷跡はない。
アーサーはわたしの疑問を置き去りにしてそのまま会話を続けていく。
「お得意の冥魔法を使っていればぼくを殺せたんじゃないのかな?」
「ぼくは冥魔法を使っても人を傷つけたりはしていません」
「そうなのか」
「王太子様。何をしているのです。早く捕えなさい。さもなくば殺してしまいなさい」
アルトとアーサーの会話にヴァルガンが割り込んでくる。
「ヴァルガン大司教。聖魔法の使い手を教会は処罰する気なのか?」
「そうですよ。冥魔法を使っているのは明確なのですから」
「……それがハモニス教会の総意ということでいいのか?」
「そう捉えていただいて構いませんよ」
「そうか」
アーサーがアルトに向き直った。剣には光が灯っている。戦いを続ける気だ。
「アルト。本気で来い。ぼくも本気でいく」
「ぼくにはアーサーさんと戦う理由がありません!」
「キミにはなくともぼくにはあるんだよ。残念ながらね」
話を聞くにアーサーはヴァルガンに弱みを握られているように見える。引いてはくれないようだ。アルトにも覚悟を決めてもらうしかない。
『冥魔法を付与して!』
『だけどあれは──』
『最悪回復すればなんとかなる!』
『……わかりました』
「〈付与〉アビスファイア」『〈付与〉アビスウォーター』
アルトは冥左剣シャドウリーパーに冥府の炎と水を付与した。炎と水が渦巻き混沌とした様相を示している。神々しい雷光を放つホーリーレイヴァントとは真逆の禍々しさが対比となってアルトをより神秘的に見せていた。
……二重付与までやれとは言ってないけど!?
付与したのを見届けるとアーサーが走り出す。アルトはそれを待ち構える。
アーサーが肉薄する。アーサーの踏み込みと同時にアルトは右剣で光剣をぎりぎりのところでいなしてかわす。余波で肌が焼けていく。それをも気にせずアルトはひらりと回転する。
炎と水を纏った左剣の腹でアーサーの胴を撃ち抜いた。その威力は凄まじくアーサーの横腹を半分くらい抉っている。
アーサーが膝をつく。肌を炭化させていて生きているのも不思議なくらいだ。胴体から切断されていないのはアルトが剣の腹で打ったからだろう。そうでなければ両断されて本当に死んでいたかもしれない。
「ここまでか」
「ホーリーヒール」
アルトがアーサーに手をかざしてホーリーヒールを発動した。アーサーが光に包まれてダメージが少しずつ治癒されていく。
アーサーは治癒されていく自身の体を茫然とした表情で見ている。
「……ここまでの治癒があり得るのか。これなら。いや、なぜぼくを治療した?」
「死なれたら困ります」
「またぼくがキミに攻撃を仕掛けるかもしれない」
「でも、もうそのつもりはないんですよね?」
アルトの言う通りアーサーはもう剣を構えようとはしていない。よくわからないがもう戦うつもりはないようだ。
横を見るとノーアがセイソンを捕えているところが視界に入る。ノーアはうまくやったようだ。
そういえばセリスは?
グレゴリオたちがいる方に目をやる。しかしセリスがいない。どこに行った?
「どいつもこいつも使えませんね! アルトさん! この獣がどうなってもいいのですか?」
「おにいちゃん!」
目に入ったのはヴァルガンがセリスを人質にとって短剣を突き立てている姿だった。
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