049.対峙
アルトたちは光に包まれて地上に転移した。
近くにはダンジョンから転移したと思われる少数の冒険者たちが何事かとざわついている。まあ彼らはいいんだけど、厄介そうなのはそのさらに外側にいる人たちだ。
さまざまな武器で武装した大勢の集団に囲まれている。金の刺繍や模様が施された白いローブの集団だ。あのローブは見たことがある。ハモニス教会の聖職者が着ていた服装だ。彼らは総じてアルトたちに嫌悪の目を向けている。
「待ち伏せ?」<待ち伏せされてた?>
「そうみたいです」
アルトとノーアが身構える。セリスはアルトの後ろで小さくなって様子を伺っている。聖職者たちが追い詰めるように3人に近づいてくる。
ノーアの言った通り待ち伏せをされていたみたいだ。
だけどなんでアルトたちがダンジョンにいることがわかったのかな? あとをつけられてはいなかったはず。
「アリアさんが〈予知〉した通り、アルトさんがダンジョンを攻略してしまったみたいですね」
一段と豪華なローブを纏った大柄の男が男を伴って前に出てきた。頭には冠をのせ、手には金の杖を持っている。ハモニス教会の高位の聖職者みたいだ。
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名前:ヴァルガン
種族:人族
技能:策謀
魔法:命
恩恵:─
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ヴァルガンというらしい。〈策謀〉というあまり聖職者らしからぬ
「アルトさん。あなたは冥魔法使用の罪で処断します」
「……証拠はないはずです」
「アルトさんはそういうでしょう。ああ、安心してください。伝記書を捏造したエルモン異端審問官はその罪によって処罰されましたよ」
「なら──」
「しかし、信心深いアリアさんが証言してくれました。アルトさんが冥魔法、アビスファイアを使ったということを」
「……どういうことですか?」
「アリアさんは〈魔眼〉が使えますからね。魔法を〈解析〉することも可能なんですよ」
どういうこと? アリアはアルトの魔法をわからないと言っていたはず。本当はアルトが嘘をついていることに気がついていたってこと? でもそれならなぜあとときには言わずに後になって証言をしたんだろう?
困惑顔のアルトにヴァルガン大司教が嗜虐的な笑みを浮かべる。人をいたぶることを生業とするものの目だ。……さてはあいつ、アリアに何かしたな?
「アリアさんに何を──」
「少し神の教えに反することをしているようでしたのでちょっとだけ神罰にあっていただきました。ええ安心してください。アリアさんはすぐに改心しましたとも。最終的には〈魔眼〉で見た本当のことを教えてくださいましたよ。ついでに〈予知〉していただいたおかげでアルトさんのいる場所も分かりましたしちょうど良かったですね」
「アリアさんはどこです!?」
「今頃は教会の独房で、はて? 何をしているのでしょうね?」
何が楽しいのかわからないがコロコロと笑い出す。絶対碌なことじゃない。
「……許しません!」
「怖いですね。ですが元はと言えばアルトさんが悪いんですよ? あなたが嘘をつくからアリアさんが罰せられたのです。義は我々にあります」
「話はそれだけ?」<話はそれだけかな?>
「口を挟むな裏切り者が! 獣風情まで連れやがって! 恥を知れ!」
ヴァルガン大司教についてきた男の言葉にセリスがびくりと体を震わす。
よく見るとその男はセイソンだった。服装が違ったからぱっと見ではわからなかった。……獣風情というのはセリスのことかな? ぶっ潰すよ?
「口が悪いですよ。セイソンさん」
「はっ! ですが──」
「それよりも彼らを早く捕らえてください」
「承知しました。おい。全員でかかれ! あの獣は殺していい」
セイソンの号令で聖職者たちが一斉にアルトたちに襲い掛かる。剣や槍、メイスなどを持って接近戦を仕掛けてくる。
「アルト。〈付与〉」<アルト。アビスシャドウを付与して>
「〈
アルトがノーアの剣に冥府の影を付与する。敵を行動を阻害する目的のようだ。流石に人に対しては強力な付与は使わないみたい。ホーリースパークとかアビスファイアとかを付与した剣で攻撃したら多分簡単に殺しちゃうからね。
アルトとノーアがセリスを守るように陣取る。
アルトたちが敵を捌いていく。
聖職者たちの一人一人の力はそんなに強くはないみたい。だけどアルトたちは魔物と違って殺さずに無力化しようとしている。セリスも守らなきゃいけない。流石に2人とあの数では多勢に無勢か。
「弓士隊。やれ!」
セイソンが後ろに控えている弓使いたちに弓を放つように指示をした。大量の矢がアルトたちに降り注ぐ。まずい。セリスを守りきれない!?
「聖女様! 助太刀します!」
冒険者の中から男が飛び出してきた。巨大な盾でもって降り注ぐ矢からセリスを守る。ダンジョンでホーリーヒールを使って助けたグレゴリオだ。その後を追って、すっかり元気になった様子のレイラ、そしてその他の〈天空の光輪〉のメンバーもついてくる。彼らは転移してきた冒険者たちの中から出てきたからもしかするとアルトの跡を追っていたのかもしれない。義理堅い冒険者たちだ。
「助けてくれるんですか?」
「聖女様には受けた恩がありますから」
セリスを守りながら聖職者たちを次々と戦闘不能にしていくグレゴリオたち。さすがはAランクの冒険者だね。対人戦にも秀でているみたいだ。セリスを守ってくれるのはアルトの聖女(男の娘)パワーかな? トロン王国では人族以外蛇蝎の如く嫌われているみたいなのによくセリスを助けてくれる気になったよね。わたしの中で強面のグレゴリオに対する好感度が少し上がった。
ちょっと余裕が出てきてそんなことを考えていたらノーアが姿を消した。次の瞬間奥の方で弓使いが次々と倒れていく。ノーアが〈気配遮断〉を使って強襲した? グレゴリオたちが加勢してくれたおかげでノーアがセリスを守る必要がなくなったから攻勢に出たみたい。ノーアの暗殺者ムーブがひかる! 殺してはないけど。
「役立たずが! もういい! ノーアは俺がやる!」
セイソンがノーアに向かって突き進んでいく。身体強化魔法が乗った素早い動きでノーアに槍を突き刺そうとする。的確な軌道だ。セイソンにはノーアの〈気配遮断〉が効いてないのかも知れない。
「生意気」<セイソンのくせに生意気だね>
「言ってろ! お前は前から気に食わなかったんだ!」
二人の剣と槍が交錯し白熱した様相を生み出していく。
「思わしくありませんね」
ヴァルガン大司教は酷薄な笑みを浮かべながらそうこぼした。顔と言葉が合致していない。まだ余裕そうな顔だ。何か策があるらしい。
「では出番です。王太子様。逆賊を捕らえてください。最悪の場合死んでしまっても問題ありません。神も許してくださるでしょう」
男が空間から現れてアルトに剣を振り下ろす。アルトは咄嗟にホーリーレイヴァントでそれを受け止めた。
「キミがアルトだったとはね。男だと聞いていたから気が付かなかったよ」
それは龍鱗の銀の鎧を身に纏った金髪の青年、ダンジョンでアルトに装備をくれたアーサーだった。
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本日は5話投稿予定です。次は13時。
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