041.更なる異変

 水竜王をジェノサイドして〈水竜王の聖水〉を飲んで休憩を挟んだ後、アルトたちはそのまま21階層を探索しようとしていた。21階層はあちこちに小さな火山がある峻厳としたエリアであちらこちらに道が続いていた。

 セーフティーエリアを出てしばらく進んだときノーアの〈気配察知〉に感がある。


「2体。なんか変」<2体だけどなんかおかしいね>

「変って何がですか?」

「戦ってる」<魔物同士で戦ってる>

「魔物同士でですか?」

「ん」<そう>


 二人が近づいていくと確かに魔物が2体、対向して戦っていた。一体はドラゴンみたいに見えるけどもう一体は、炎の鳥?


『セイさん。あの魔物達に〈天眼〉お願いできますか?』

『もちろん』


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 種族:ヘルファイアドラゴン

 黒炎を操るドラゴン型の魔物。Aランク。黒炎を纏った翼をもち、その羽ばたきで炎の嵐を生み出す。黒炎のブレスを吐き出し相手を灰に変える。目には相手を灰にする呪いがあり、相手を徐々に炭化させる。弱点は水。

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 種族:プラズマフェニックス

 電力施設や研究所で発生したエネルギーから生まれた火の鳥のモンスター。Aランク。火の再生能力を持ち戦闘中に倒されても炎の中から再生し、より強力な力を発揮する個体へと進化する。プラズマを纏う炎を操り放射することで周囲を焼き尽くす。弱点は水。再生中の炎を消火することで倒すことができる。

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 すぐさまアルトがウィンドウをに書かれた内容を確認してノーアにそれを伝えていく。


「やっぱりおかしいです」

「ん。竜以外」<そうだね。ドラゴン以外の魔物が出るなんて聞いてない>

「それになんで魔物同士で戦ってるんでしょう?」


 ここは〈竜の巣〉と呼ばれるダンジョンだ。そう呼ばれるだけあってドラゴン系統の魔物しか出ないダンジョンのはず。それにダンジョンでは普通魔物同士で争ったりはしない。魔物が襲うのはいつだって冒険者だ。


「どうします?」

「弱点をつけない。他の道?」<弱点をつけないから他の道を進む?>

「そうしましょうか」

「やっぱりダメ。魔物多い」<やっぱりダメだった。他の道の方が魔物が多い。迂回できない>


 その間にも2体の戦いは激しさを増していく。ドラゴンヘルファイアドラゴンが黒炎のブレスを放ち火の鳥プラズマフェニックスの翼に穴を開ける。しかしその翼が炎に包まれてみるみる再生していき、再度飛翔して火の鳥プラズマフェニックスがプラズマを帯びた炎をドラゴンに放つ。どちらも火の魔物だからかはわからないけどどちらも決め手にかけているみたいだ。


「後ろ。他の魔物」<後ろからも魔物がくる>

「挟まれますね」

「ん。突破」<うん。強引に突破しよう>

「わかりました。ホーリーサンクチュアリを使います」


 ホーリーサンクチュアリは魔力消費が多い魔法だ。本来なら道中で毎回使うほど効率のいい魔法ではない。しかし魔物に挟まれるよりはマシだろう。アルトが戦っている2体に近づいて聖域を展開する。2体は乱入者に気がついたみたいだ。アルトたちに鋭い目線を投げかけている。


「〈付与エンチャント〉ホーリースパーク!」


 2人の剣に雷光を纏わせそのまま2体に向かって駆けていく。2体が緩慢な動作で炎を吐き出してくるがそれを避けて肉薄する。ノーアがドラゴンの首に一閃し、アルトが火の鳥プラズマフェニックスを真上から一刀両断して真っ二つにする。ドラゴンは黒い煙となって消えていき、火の鳥プラズマフェニックスはその切断面から炎を噴き出している。


「まだ死んでない!」<プラズマフェニックスはまだ死んでない!>

「これでもダメですか!?」

「今のうち! 突破!」<再生している今のうちに強引に突破する!>

「わかりました!」


 アルトたちは再生しているのを横目に火の鳥プラズマフェニックスの横を通り過ぎて駆けていった。



 ◇◇◇



「なんとか撒けました」

「ん。厄介」<だね。復活は厄介だった>


 火の鳥プラズマフェニックスをうまく撒いたアルトたちは警戒しながら道を進んでいた。

 所々で魔物たちの反応はあるがどこも魔物同士で争っていてアルトたちに気が付く魔物は少ない。しかし先を急ぐアルトたちには好都合だ。

 たまに二人に気がついて襲ってくる魔物もいるがプラズマフェニックスは出てこなかった。というより竜種以外は同じ魔物がほとんど出てこない。ドラゴンはマグマドラゴンとヘルファイアドラゴンしか出てこないが、他はテクノスパイダー、ネオンファントム、ナノヴァイパーなど多種多様な魔物が出てくる。


『やっぱりおかしいです』

『魔物同士が争ってること? それとも竜種以外の魔物が出てきてること? 魔物の種類が多いこと?』

『それもです。それに魔物の数が明らかに多いです』


 それはわたしも気になっていた。正確には〈冥府を纏うドラゴンの眷属〉が出てきた後から魔物の出現頻度は上がっている。しかし、21階層はさらに体感で二倍くらいには多くなっているんじゃないかというくらい数が多くなっている。


『急いだ方がいいかも』


 本来ならダンジョン探索で焦りは禁物だ。急いで進もうとすればするだけ魔物との遭遇率も増える。少しの油断が命取りになる。

 だけど、さまざまな異変がこのダンジョンで起きている以上、囚われているというアルトの妹が心配だ。そもそもダンジョンに囚われているというのが異常なのにそれ以上の異常が発生しているとなると生存がどんどん危ぶまれていく。


「ノーアさん。急いでもいいですか?」

「りょ」<了解>


 二人は駆け足で進んでいく。ノーアが〈気配遮断〉を使っているがそれでも魔物との遭遇率は少し高くなる。それでも歩いていくよりは早い。


「火の鳥。気付かれてる」<前方にプラズマフェニックス。気がつかれてる>


 厄介な魔物に捕捉された。今の二人では倒しきることのできない魔物が空を飛んで接近してくる。アルトたちは立ち止まり精神集中を始める。魔法の準備だ。迫り来る火の鳥プラズマフェニックスを捕捉しつつ魔力をためはじめる。


「ウインドブロウ!」


 ノーアが風の弾丸を撃ち放った。弾丸が翼に当たり片翼にダメージを負った火の鳥プラズマフェニックスが地面に向かって落ちてくる。


「ホーリーサンクチュアリ!」


 聖域が展開され二人と火の鳥プラズマフェニックスを包み込む。


「ホーリーレイ!」


 続けてアルトが魔法を撃ち放つ。光線が火の鳥プラズマフェニックスを貫き胴体に大穴を開けた。瞬間に大穴から火が噴き出し火の鳥プラズマフェニックスの再生が始まる。


「今のうちに突破しましょう」

「待つ!」<止まって!>


 アルトがノーアの静止を聞き逃して火の鳥プラズマフェニックスの横を通り抜けようとする。しかし火の鳥プラズマフェニックスは胸に大穴を開けながらもアルトに襲い掛かろうとしてきた。アルトは咄嗟にそれを避けようとするが間に合いそうもない。


『危ない!』


 一瞬にして光の柱に包まれた。そのまま跡形もなく消え去り黒い煙となってドロップアイテムを落とす。そしてその煙の中から一人の執事風の男がアルトに向かって話しかけた。


「こんにちは。自由神の勇者殿。いや、まだ勇者じゃないのでしたか?」

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