010.複数のフォレストリザード、そして

「なんだ? ノーア」

「魔物の気配」

「何?」


 皆が耳を澄ます。

 確かにどすどすとした足音らしき音とギャーという低い唸り声が聞こえてくる。


「まだ他にもアレが居やがったのか?」

「しかも一匹じゃなさそうね」

「ん。向かってくる」


 話している間にも足音はどんどん大きくなってくる。


「逃げられるか?」

「ちょっとわたしには無理そうかも。無理に森に逃げ込んでも追いつかれる可能性が高いと思うわ。だとしたら戦いにくい森の中よりもここで戦った方がまだ勝機はあると思うんだけど」

「アリアに賛成」

「ボクもです」

「しゃーねーな。アリア、魔法の準備だ! きた時にでかいのお見舞いできるようにな!」

「わかってるわ!」


 その間にも足音と声はどんどん大きくなっていく。


 アリアが精神集中を終えると共にフォレストリザードが一体飛び出してきた。


「まだ魔法は打つな! まだ後続が来るぞ」


 そういって飛び出すセイソン。ノーアも続き、フォレストリザードの足止めを行う。

 後続のフォレストリザードが来る。二体だ。セイソンとノーアが前方のフォレストリザードを吹き飛ばし後続のフォレストリザードたちにぶつける。吹き飛ばしたフォレストリザードがうまく二体を巻き込んでもつれるように転倒した。


「今だ! 打て! 森ごと燃やしてかまわねえ!」

「いくわよ! ファイアレイン!!」


 アリアはごおっと炎を上空に飛ばした。そのまま炎は指向性の花火のようにフォレストリザードに向けて拡散して飛んでいく。それが三体に見事にクリティカルヒットする。もがくようにうごめくフォレストリザード達。少しふらつくようにしながらも立ち上がろうとする。体の一部は炎に包まれているが、息の根を止めるには威力が足らないようだ。


 セイソンとノーアが一斉に飛び出した。早期決戦を仕掛けるようだ。

致命傷を与えるように心臓や頭を順番に一体ずつ狙っていく。素早い動きで的確に弱点を狙っていく。

 アルトはその間、他のフォレストリザードを撹乱していた。懸命に短剣で外皮を削っていく。炎がかかることに一切のためらいを見せることなく立ち向かっていた。

 アリアも一時息を整えていたがすぐに杖をむけて、いつでも攻勢に出れるようにように準備をする。


 フォレストリザードをセイソンとノーアが一体ずつ倒した時には均衡は〈アークライト〉に傾いた。


「しゃー! ラストだ!」


 セイソンがアルトとスイッチしてラスト一体にとどめを刺してそういった。三体のフォレストリザードは物言わぬ骸となっていた。


 しかしまだ戦いは終わっていない。


 なぜなら今倒した三体とは別に六体のフォレストリザードが森から抜け出てきていたからだ。



 ◇◇◇



「流石に厳しいか?」


 そう呟いたのはセイソンだ。でもそう言ってしまうのも無理はないのかもしれない。数の上では向こうが優勢。しかもアリアはまだ魔法の準備ができていない状態なのだから。しかしノーアはあきらめない。


「アリア! 魔法打てる?」

「打てるけどあと一回が限度! あとちょっと時間がかかるわ!」

「弱めの魔法は?」

「それだと五回も持たない!」

「いい。それでいって!」

「わかったわ」


 ノーアとアリアが最小限の言葉で意思疎通をする。


 その声を聞いてセイソンも弱気になっていたのを振り払ったみたいだ。


「ちっ、他にやれることはねえか」


 セイソンがそう呟いている間にわたしはアルトに話しかけた。


『アルト今朝の話は覚えてる?』

『新しい魔法、でしたっけ?』

『そう。冥魔法のアビスファイア。炎を呼び出す魔法だからフォレストリザードに効くと思う。使ってみて!』

『……わかりました。使います!』


 ちょっと間を置いて、わたしを信頼するようにアルトは頷く。やっぱり素直な子だ。


「あの」

「あ? なんだ。つまんねーことなら承知しねーぞ」

「ぼくも魔法が使えるようになったのでフォレストリザードに対抗できるかもしれないです」

「何!? お前は忌子だろ? そんなんできるわけ──」

「アルト! やって!」


 アルトはノーアに頷いて精神集中を始めた。

 セイソンは苦虫を潰したような顔をしているがここは無視だ。


「ウインドブロウ!」


 ノーアが迫ってくる三体にウインドブロウの魔法をぶつける。フォレストリザード達は少しノックバックして立ち止まるがそれだけだ。

 しかしその間にセイソンが気を取り直してフォレストリザード達に向けて槍をかまえる。


 「ファイアボール!」


 アリアの魔法が発動した。しかしノックバックしなかった三体のうちの一体に当たるだけで、他にいた先頭のもう二体は迫ってくる。

 ノーアとセイソンがそれに割り込んで受け止める。間一髪、アリアの方へ行かせることは防いだがそこまでだ。ノックバックしていた三体が迫ってくる。これは二人には止められない。


 もうだめか! 三人は一瞬諦めたような顔をした。

 だが終わりじゃなかった。三人と三体の間にアルトが割り込む。そしてそのまま三体に向けて手をかざして、


「アビスファイア!」


魔法を発動した。


 漆黒にゆらめく冥府の炎が一体にぶつかって、フォレストリザードの体を黒い炎がまとわりつく。炎に包まれたフォレストリザードは悲痛のうめき声をあげて脚を激しく踏み鳴らし炎を消そうとする。隣にいた二体もその異常なうめき姿に足を止める。


「は?」

「セイソン! よそ見しないで! まだ終わってないわ!」


 惚けるセイソンにアリアは嗜める言葉を発した。


 燃え上がっていたフォレストリザードの表面が黒炭と化して倒れた。

 その様子にアルトを強敵と認定したのか、隣の二体が鋭い眼光で睨んでくる。


 ノーアとセイソンはフォレストリザードを最初に受け止めた二体をそれぞれ受け持って戦っていた。アリアも自身が発した魔法の炎で燃えているフォレストリザードに杖で応戦しようとしている。


「こっちです!」


 そう言ってアルトは二体のフォレストリザードを挑発してバックステップで唯一他人のいない崖の方へ後退し始めた。フォレストリザード達がもれなくついてきていることを確認し、前を向き走りながら精神集中を始める。

 ドスドスという足音。低い唸り声。フォレストリザードが迫る感覚がわかる。傍目から見れば危機的状況だ。


 だけどそんな中でもわたしはなんとなくだが安心していた。なぜならアルトならあのフォレストリザード達をアビスファイアで一網打尽にできるだろうと考えたからだ。

 アルト側からも希望が流れ込んでくる気がする。


 崖の手前で精神集中が完了する。結構ギリギリだった。アルトはフォレストリザード達に向かってアビスファイアを打ち込む。二体のフォレストリザード達は冥府の炎に包まれてその動きを止めた。


『やった!』


 しかし、わたしがそう言った途端に見えたのは、一体のフォレストリザードが真正面上方から飛びかかり、アルトにぶつかりそうになっていているところだった。


 わたしは『はっ?』という素っ頓狂な声をあげた。


 燃え盛る二体の上を飛んでくるフォレストリザード。完全に不意打ちだった。

 突然のことでアルトも体が硬直しているらしい。フォレストリザードの巨体が目の前に迫っている。そしてぶつかる。

 アルトの体はフォレストリザードの体当たりを受けて崖の上から投げ出されていた。最初は静寂が支配するかのような感覚が広がり、耳に届くのは風の音、いや、これは落ちる音か、それが聞こえてくる。崖から見下ろす風景が瞬く間に変化し地面が目の前まで迫ってくる。

 ぶつかる!! あ、ぶつかった。

 くしゃ。そういう音と共にわたしの視界はブラックアウトした。
































<天の声保持者アルトが死亡しました。天命を発動しますか? はい/いいえ>


「はい? アルトが死亡? 天命を発動? どういうこと?」


<天命の発動を受諾しました。これより天の声保持者アルトの遡及措置を行います>


<また天命を発動したことで天の声の副技がアップデートされました>


「いやちょっと待って? 何? 遡及措置って? アップデートって?」


<遡及完了。死亡ポイントにおける復活処理を行います>


「だから説明しt」


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