011.やり直し
『だから説明して!!』
わたしは性懲りも無く叫んでいた。
「……説明、ですか?」
だけど返事をしてくれたのは予想していた声と違った。飴玉にみたいに甘い声。アルトの声? なんがデジャブだ。
意識を声のほうに向けるとやはりアルトが立っていた。よかった! 死んでなかったんだ! そう思い、嬉しくなって声を掛ける。
『アルト! 無事だったんだね?』
「無事? えーと、失礼かもしれませんが、どなた様ですか?」
『えっ?』
アルトはわたしを忘れているのかな? 崖から落ちた衝撃で記憶が抜けてしまっている?
……いや待てよ。あの高さから落ちて無事でいられるか? もし仮に木とかがクッションになって無事だったとしてもかなりの怪我をするはず。だがアルトは少し薄汚れているだけで怪我らしき怪我はしていない。
そもそも崖の下は森だった? 最後に見た地面の光景は一面の岩肌だった。森の中ではない。
落ちてきたはずの崖もどこにもない。
「来ます」
また、デジャブ。
うしろの草むらからガサゴソ音がしたかと思うとツノの生えたウサギ、のようなものが飛び出してきた。大きな口に牙を生やしたウサギのような魔物、キラーラビットがこちらに向かってくる。
アルトが短剣をツノにピッタリヒットさせ、半身になって首を切り上げた。
キラーラビットの首が飛んでいく。そしてそれをアルトが拾いにいく。
異世界にきて初めて見た光景だ。忘れるはずもない。華麗な剣技に見惚れてていた光景だ。それと全く同じことが起きている。
考えろ。わたし。思い出すんだ。
わたしは迫ってくる地面、届く風の音、そして、「くしゃ」、というなんとも筆舌しがたい音を思い出した。明らかにあれで生きているわけがない。
それじゃあ崖から落ちた後何を聞いた? アルトが死亡? 天命を発動? 遡及措置? 復活?
アルトが死んだ? だとしたら今の状況はなんだ? 天命は〈天の声〉に記載があったやつだ。そして遡及。過去にさかのぼって? 復活?
『死に戻り?』
一度その答えに辿り着いてしまうと、そう考えるのが自然だと思ってしまうのと同時に、わたしが殺してしまった?と考えてしまった。
わたしはこの世界にきてから勝手になんとかなるだろうと考えていた。なんの根拠もない大丈夫だという先入観で。物語の中ではなんだかんだ上手くいくという楽観論で。勝手な妄想で。ただアルトの成長を見ていれば問題ないだろうと軽く考えて。
『おうぇ』
吐き気をもよおした。
だが吐き出されるものはない。わたしの中に嫌悪感が留まり溜まってしまっているような気がした。
わたしがアルトを殺した? ただ見守っていればいいと勝手に思い込んだせいで?
……これがケイが見ているだけでいいと言っていた理由なのか。ケイならやりかねない。面白いからという理由で。だけどそんなのってあるだろうか。悪趣味にも程がある。
人のせいにしないと自分の気持ちを抑えられない。
いや。やっぱりわたしのせいなのか? わたしのせいでアルトの命が弄ばれている?
いや、冷静になれ。死に戻っているんだ。やり直しが効くかもしれない。
こういうときこそ深呼吸だ。スーハー。うん。だいぶ落ち着いた気がする。
そもそもなぜ死に戻ったんだろう? ……天命か? 確認しよう。なるべくはやく!
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技能:
副技:天啓
天眼
天授
天与
??
天声ポイント:101pt
天命 ★★☆
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見たところ変わった所はない……、いや星が一つ消灯している。これが、残機? これだと残り二回まで戻れるのか二回死んだらだめなのかわからない。天命を〈天眼〉で調べることができないことを恨めしく思う。
いや、そもそもここにいるアルトは本当にアルトなのか? アルトに似た何かなんじゃ? いや、そんな考えても仕方がないことは考えるな! また、冷静さをなくしている。今のアルトを生かすことだけを考えよう。
そこまで思考すると、アルトがキラーラビットのツノを持って帰ってきた。
アルトとコンタクトを取らなければならない。それもミスは許されない。悪意に命がかけられているのだから。
『こんにちは。わたしはセイ。あなたの聖霊になりにきました』
アルトを生かすための戦いがここに始まった。
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