009.フォレストリザードの討伐
翌朝、アルトはちょうど日が顔を出し始めた時間に目を覚ましてきた。
『おはよう。アルト』
わたしがそう挨拶すると、一瞬驚いたような顔をして、思い出したように「おはようございます」と挨拶を返してくれる。
『お願いがあるんだけど、新しい魔法を使ってみてくれないかな?』
『新しい魔法ですか?』
着替えが終わったところでわたしは早速アルトに魔法の練習に付き合ってもらうことにする。アルトの着替え? もちろん見てないよ? 追い出されましたとも。
『うん。アビスファイアっていう冥属性の魔法なんだけど、ちょっと危険かもしれないから外で試してもらおうと思って』
『えっ? 冥魔法ですか?』
流石に宿の中で練習するのは危険かなと思ったので裏庭まで移動してもらおうとする。
アビスシャドウはまだしもアビスファイアは炎だから火事とか起こったら怖い。
しかし、その目論見はうまくいかなかったようだ。
「アルト? 起きてる? ギルドに行くわよ」
外に移動する前にアリアがアルトの部屋を訪ねてきてしまった。
新しく覚えた(勝手に覚えさせた)魔法を試してもらいたかったけど、残念ながらお預けのようだ。
◇◇◇
ところ変わって、わたしたちは森の中でフォレストリザードに追いかけられている。
わたしたちというのはアルトとセイことわたしの二人、いや一人か。〈アークライト〉の作戦、アルトがフォレストリザードを崖まで連れてきて、そこでアリアとセイソン、ノーアが迎え撃つという作戦は順調に進んでいた。
そう。作戦通りだ。だが少し心配になる。フォレストリザードは全長2メートル以上はあって、結構な早さで迫ってくるのだ。アルトは昨日、そんなに早くないと報告していたけどそんなことはない。その巨体からは思いもつかない早さでこちらに迫ってくる。一般人からすればかなりの脅威だ。そんな大きな脅威がアルトの小さな体に向かってくるのだ。
もちろんわたしが怖いわけではないよ。アルトが心配なだけ。追いつかれたら大変なことになるんじゃないかとちょっとドキドキしてるだけだ。
フォレストリザードは前回アルトが見かけたと言っていたところに行くと普通にそこにいた。そこを住処にしているのだろうか。遠目に確認したが、アルトのことを見つけるまでだいぶゆったりした様子でくつろいでいるようだった。
ちなみにそのとき〈天眼〉で確認したフォレストリザードのステータスはこれだ。
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種族:フォレストリザード
状態:通常
硬い鱗に覆われた2速歩行のトカゲ型魔獣。Cランク。硬い鱗は鉄の刃物も通さないが、熱に弱く、高温になっている時だけ柔らかくなる。毒の霧を吐き、獲物を神経毒で弱らせ、捕食する。
外皮と歯は魔道具や錬金術などに使用される素材となる。食用は可能。美味。
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聞いていた通り炎、熱に弱いみたい。あと毒の霧は要注意そうだ。
それにしても、この作戦ってもしそこにフォレストリザードがいなかったらどうするつもりだったかなと今更になって思う。実は結構穴だらけの作戦だった? まあその時は別の場所を探すだけか。穴というほどでもないのかな?
もう随分長いこと走っている。でもアルトの息は切れる様子はない。森の中が少し明るくなってきた。アリアたちが待っている崖までもう少しかもしれない。
太陽の光が緑濃い葉っぱの隙間から差し込んだ。よし、森を抜けた!
「アリアさん!」
抜けたと同時にアルトがアリアに合図を送る。それに合わせてアリアが魔法を発動するための精神集中を始める。
アリアが集中している間にフォレストリザードは姿を現した。鱗は翡翠のように輝き、その大きな口からは低い唸り声が漏れている。そこにセイソンとノーアが躍り出て、槍と剣を使っていなし、翻弄している。そこにアルトも加わって攻撃する。
一見、フォレストリザードに対して有利に戦っているように感じたが、フォレストリザードにはほとんど傷をつけられていなかった。やはり外皮が随分と硬いようだ。有効なダメージを与えられていない。
一進一退の攻防を繰り広げている中、突如フォレストリザードが首を引く動作をした。
「くるぞ。気をつけろ!」
セイソンはそういうと後ろに飛び退る。ノーアとアルトもそれに続いた。
フォレストリザードが毒霧のブレスを吐き出す。紫の煙のようなものが周りに充満し出した。セイソンが舌打ちをする。
「やはり厄介だな。ノーア。風魔法だ。軽いのでいい」
「りょ」
そういうと既に精神集中を終えていたノーアは魔法を放った。
「ウインドブロウ」
毒霧は周りの空気に霧散する。
そこに再度おどりがかるアークライトの3人。尻尾で薙ぎ払おうとするフォレストリザード。
そこでアリアの精神集中が終わり、魔法を発動できるようになったようだ。
「みんな! 離れなれていなさい! ファイアストーム!」
散り散りになって離れていく〈アークライト〉のメンバー。そしてとり残されたフォレストリザードは炎の竜巻に取り囲まれた。
「ギャオー!!」
雄叫びを上げながら体を振り回して炎を振り払おうとする。
「今よ!」
「おうよ!」
「了解」
「わかりました!」
アリアの言葉に三者三様の返事を返しフォレストリザードに剣で切りかかり、槍を突き刺しては離れるのヒットアンドアウェイを繰り返す。やはり炎は有効のようだ。先程とは打って変わってダメージを与えられているように見える。
「ギャオ!ギャオ!」
暴れ回るフォレストリザード。その体には炎に包まれながらもわかるほどの傷がついていた。
フォレストリザードは半狂乱になったのか、セイソンに向かって破れかぶれのような突進をする。
「よし! いけるぜ!」
セイソンが炎に包まれるフォレストリザードの突進攻撃をギリギリでかわし、脳天に向かって槍を突き刺した。
ザシュ!!
槍は見事にフォレストリザードの頭に突き刺さっていた。突き刺したセイソンと共に勢いよく前方に進んでいたがやがてその勢いが止まる。
フォレストリザードの唸り声は途絶え、びくりと体を仰け反らせてその巨体は揺れ動いた後、ドスンと地に崩れ落ちた。勢い余って振られた尻尾がセイソンに向かうがアルトが短剣で弾き返す。
まだ少し息のあるフォレストリザードにノーアが剣を心臓あたりに一差しした。フォレストリザードは息たえたようだ。まだ少し燃えている。
「ちょい熱かったな」
「ちょっと! 無理しないでよ!」
「わりい。だが炎が消えちまったらやばかっただろ」
「ゆだん。ちゃんととどめ刺す」
「仕方ねーだろ。槍が刺さったままだったんだから」
「言い訳」
ノーアは精神集中を始めた。おそらくフォレストリザードの消火のために魔法を使うのだろう。少し経って、
「ウインドフロー」
フォレストリザードの死体を包む上向きの風の流れが炎を消火させた。
「これでひと段落か」
「そうね。早く解体しちゃいましょ」
「フォレストリザードの討伐証明部位は牙だったか?」
「そうよ。あと肉は美味しいらしいから持って帰ろうかしら?」
「外皮は無理。炎でボロボロ」
「それは仕方ねー。そういう作戦だったからな」
そう言い出すとセイソンが解体を始めようとする。
「アルト!お前も手伝え!」
「ちょっと待つ!」
セイソンの顔にノーアが手をかざしてそう言った。
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