008.眠くならないんですが

 一向に眠くならない。わたしは眠気に襲われないという事態に困惑しながらアルトの寝顔を見ていた。

 興奮して眠れないとか、緊張で眠れないとかそういう類のものではない。本当に単純に眠くないのだ。本当にわたしは人間をやめてきてしまっているような気がする。まあ色々と今更かもしれないけど。

 実体もないしね!


 まあ悩んでもしょうがないのでいろいろ検証というか確認をしてみようかと思います!

 やることはアルトのステータスの確認だね。それくらいしかできることがないからね。

 まずはいつも通りアルトのステータスを呼び出してみる。


────────────────────

 名前:アルト

 種族:人族(?)

 技能:全剣技

    天の声

    魔力操作

 魔法:冥

    聖

 恩恵:自由神の勇者の種

────────────────────


 技能スキルの〈全剣技〉を〈天眼〉で見てみるとこんな感じで出てきた。


────────────────────

 技能:全剣技

 副技:短剣術 Lv.4

    長剣術 Lv.1

    木刀術 Lv.1


    体力 Lv.3

    筋力 Lv.2

    瞬発力 Lv.4

    反射神経 Lv.3

    ???

────────────────────


 いくつかの副技が出てきた。なるほどね。〈天の声〉のときと同じみたいに技能が副技を内包している形みたいだ。面白いのは体力や筋力なんかの身体能力に関わりそうなものまで副技に含まれていることだ。

 これだと技能がない忌子はこれらの補正がかからないから辛いだろうね。神様に見捨てられてると言われることだけはある。


 思ったより剣術の幅が少ないような気がする。〈大剣術〉とか〈細剣術〉とかあっても良さそうだけど。

 そう思ったけどこれは技能を〈天眼〉で見たら解決した。

 副技はある程度使ったことがあるものだけ有効化、アクティベートされるみたい。使ったことがないものはそもそも表示されないってことだね。


 それとレベルという概念が初めて出てきた。このレベルが高い方が強いってことだろうね。アルトは短剣をずっと使ってたからかな? 〈短剣術〉が高めだがそれ以外は低い。長剣や木刀は練習で使ったくらいなのかもしれない。


 そしてついでに〈短剣術〉を詳しく見てみる。


────────────────────

 副技名:短剣術

 短剣を使う際、威力に補正を得る

────────────────────


 そのまんまだった。まあそんなもんか。


 あとは魔法。

 魔法を〈天眼〉で見てみると、初歩の魔法以外はある程度トレーニングをしないと使えるようにならない。と書いてあった。


 そしてアルトが使える魔法はこれ。


────────────────────

 冥魔法:アビスシャドウ

────────────────────

────────────────────

 聖魔法:ホーリーライト

────────────────────


 ホーリーライトはアルトが使っていた魔法だね。これが聖属性の初歩の魔法なんだろうね。ホーリーライトを調べてみると聖なる光を生み出す魔法でアンデットに特攻があると出た。使い所の難しそうな魔法だね。

 そういえば、なんでアルトはホーリーライトのことを知ってたんだろう? 聖魔法は有名だったとか。うーん。まあいいか。


 アビスシャドウは暗黒の影が対象を包み込み、動きを鈍くさせる効果があるらしい。動きを阻害するなら色々と使い所はありそうだ。


 あと恩恵の〈自由神の勇者の種〉も調べてみた。

 恩恵は持っているとなんらかの補正を得るらしい。

 〈自由神の勇者の種〉は自由神の勇者になりうる人に送られる恩恵で技能、魔法などの成長補正を得るようだった。

 ちなみに自由神ってなんだろうと思ってみてみたけど、『自由の神』としか出なかった。ちょいちょい使えないよね〈天眼〉さん。


 あとは〈天授〉も天啓ポイントの支障がないくらいの範囲でちょっと検証してみよう。

 ポイントを1pt、10ptでそれぞれ使ってみようかな。それでも40pt以上残るし、まあいいよね? アルトに内緒で使っちゃうけどわたしの副技だから使っても許してもらおう。


 まずは1pt消費で〈天授〉発動!


<天声ポイント1ptの消費を確認しました。〈天授〉を開始します……完了しました。火付石ひつけいしを取得しました>


 1pt消費したらアルトの横に石が出てきた。聖遺物かな? でも石ってどう言うことよ……。


 早速確認してみたらこんな感じだった。


────────────────────

 名称:火付石

 火を付ける力が込められた石。この石を持って念じると任意の場所に火をともすことができる。攻撃魔法としては使用不可。

────────────────────


 やっぱり微妙? 1ptだとこんなものなのかな?


次に、10pt消費して使ってみる。


<天声ポイント10ptの消費を確認しました。〈天授〉を開始します……完了しました。アビスファイアを取得しました>


 アビスファイアってなんぞや?とちょっと思ったけど、アビスってところから冥魔法かと予測して早速調べてみる。


────────────────────

 冥魔法:アビスシャドウ

     アビスファイア

────────────────────


 無事?冥魔法の種類が増えたようだ。使える属性が増えるんじゃなくて魔法の種類が増えるんだね? いや、もしかすると両方あり得るのかな?

 そんなことを考えながらアビスファイアを確認する。


────────────────────

 魔法名:アビスファイア

 冥府の炎を呼び出し敵を燃焼させる。物理的なダメージだけでなく、心身に深い影響を与えられる

────────────────────


 ちょっと物騒な魔法だった。これを人間に向けて使うのはやめさせよう。

 まあ、魔物相手に使うなら良さそうな魔法だ。明日討伐に行くフォレストリザードも火に弱いって言ってたし丁度いいかもね。

 朝にでもアルトに試してもらって使い勝手を確認してもらおうかな。


 一通りやれることをやったかな、とアルトの寝顔を覗く。

 アルトの顔を見ているとふと一欠片の疑問が湧いてくる。


 なぜ、こんなにもわたしはアルトに入れ込んでいるのだろう。わたしはちょっと自分が自分でわからなくなっていた。

 わたしは自分を人間不信だと思っている。初対面の相手では特にそう。大抵は疑いを持って接することがほとんどだ。少なくとも簡単に入れ込んでしまうような愚かな性格はしていないはず。

 それなのにアルトには随分と入れ込んでしまっている気がする。こんな短期間でだ。普段であればあり得ないくらい心を開いてしまっている。

 

 異世界にきて少し状況に浮かれている可能性もある。だけどそれにしても限度があるような気がするんだ。


 ……いや、本当はわかっているのかもしれない。似ているのだ。真面目だけどちょっと抜けてて頑張り屋なあの妹に。ちょっと人のことを信じすぎてそれでいて気にしすぎてしまう、そして一人で張り切りすぎて擦り切れてしまうんじゃないかとすら思ってしまうわたしのかわいい妹に。


 もう会えないだろう妹に姿すら面影を感じて、アルトの成長を見守りたいと感じている。

 妹の代わりに……。


 ……いや、もうそんなことを考えるのはやめようかな。


 眠くならない夜はいつの間にかふけていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る