第3話 説明
「あの、さっきの目玉って、あんなに大きいってことは体も凄くおきいんですか?」
「〈ふむ、あれに体など無い〉」
「え……」
「〈今、見えている姿が全てだ〉」
「そんな、」
フード男の答えに、羽山はそれ以上言葉が出なかった。
自分を見下ろしている目玉は、そこに存在しているが体は無いという。
昔、祖父から聞いた目玉に関する妖怪の話を、羽山は思い出した。
原因は忘れてしまったが、最初は掌に目玉が一つ現れた。
その次の日にはお腹、その次の日は手の甲など、現れる場所の予測が出来ず、時には一気に目玉が増えたという。
対処法や話の結末などは忘れてしまったが、体中に目玉が現れるという話が印象的で、そこだけが鮮明に残っていた。
幼い頃の羽山は、空いた時間があれば祖父の元へ向かい、様々な妖怪の話や戦争の話などを聞かせてもらっていた。
そんな遠い記憶を思い出していると、フード男が立ち止まる。
「〈ふむ、着いた〉」
「え?」
フード男の後ろを歩いていた羽山は、彼の背中越しに前方を確認する。
「でかっ!」
あれだけ歩いても何も見付からなかったのに、今、羽山の前には豪邸が
その大きさに思わず羽山は声が出た。
「〈入るといい〉」
驚く羽山を他所に、フード男は変わらぬ様子で中へと誘導した。
とても人間が住んでいるような大きさで作られていないその建物は、日本では見ることが無い宮殿のような外観をしていた。
壁の模様や装飾も見たことも無い、神秘的なデザインとなっており、素材も今まで触ったこともない素材で造られていた。
フード男に案内されながら、羽山はおずおずと中へと入る。
「でっっか……」
中に入ると改めて大きさを実感する。
お城、宮殿、どの言葉で表現すればいいのか迷うくらいに、魅入ってしまう造りをしていた。
テレビなどで、位の高い関係者しか入れない建造物の特集が放送されているが、その特番で見るような絢爛豪華な造りをしていた。
左右の壁には等間隔で蝋燭が飾られており、赤い厚手の絨毯に気を遣いながら長い廊下を歩き、一つの部屋へと案内される。
「お、お邪魔します。」
「〈ふむ、ゆっくりするといい〉」
そう言いながら、フード男は部屋の中央に置かれているテーブルへと進み、椅子にゆったりと腰かけた。
部屋の中も広かった。
しかし、外観から受けた印象とは違い、内装は装飾が少なく、シンプルな造りをしていた。
電気も通っていないのだろう、明かりは壁にある蝋燭と、テーブルの上に置かれている数本の蝋燭だけだった。
蝋燭だけだが、廊下もそうだったが、部屋の中も明るく困ることは無かった。
「〈座らないのか〉」
「す、座りますっ!」
羽山は裏声になりながら椅子に座る。
羽山が座るのを確認すると、フード男が口を開いた。
「〈ふむ、其の方の話をしよう〉」
「は、はいっ!」
いよいよ本題に入ることに羽山は緊張を隠せないでいた。
フード男の表情はいまだに見えないままだが、それも慣れてきてしまっていた。
「〈まず、其の方はヒトだな〉」
「はい、」
「〈ふむ、先にも話したが、愚僧はヒトと会うのは久しい〉」
「前にも誰か来たんですか?」
「〈来た〉」
その答えに羽山は前のめりで食いついた。
「その人は、今、どこに?」
「〈まだ、此処にいるはずだ〉」
「本当ですか!」
大きい声を出しながら羽山は立ち上がる。
その瞳は希望に満ちており、今すぐその人物の元へ向かいたいと、活気だっている。
「〈ふむ、会わせるにはまだ早い〉」
「え?」
フード男の言葉に羽山は食い下がる。
「その人に会えば俺の状況が分かるかもしれないんじゃ……」
「〈否、其の方が何故此処に来て、どうやって帰るのか、〉」
「………」
「〈其の方自身で理解しないと、意味が無い〉」
「俺、自身で?」
「〈そうだ〉」
活気出す羽山とは違い、フード男は、出会った時と変わらない口調で説明をする。
羽山は椅子に座り直し、フード男の説明を聞いて考えた。
「あの、俺がなんでここに来たのか、その、あなたは分かるんですか?」
「〈ふむ、分かってはいる〉」
「ならっ!」
「〈落ち着け。確実な事は断定出来ない。それと、愚僧は何も云えない〉」
何も云えない、と言うフード男に羽山は尚も食い下がろうとするが止めた。
相変わらず表情は見えないが、彼からは言い知れぬ圧がにじみ出ていた。
もどかしい気持ちを抱く羽山に、フード男は話しかける。
「〈ふむ、愚僧からは何も云えないが、
「きゃつ?」
「〈
「??」
「〈それまで休むといい〉」と言うと、同時にフード男は椅子から立ち上がる。
時々彼の言葉に聞き慣れない単語や、表現があり羽山は解読に悩んだが、ふんわりと意図を汲み取っていた。
それから彼は、羽山を部屋へと案内すると休むようにと、一言残して部屋を出ていった。
フード男が部屋を出て一人になると、羽山は壁際にポツンと置かれているベッドに腰かけた。
案内された客室もシンプルな装飾で、蝋燭の明かりが羽山の気持ちを落ち着かせた。
「はぁ、疲れた。」
一つ息を吐いて、大の字に寝転ぶ。
「………」
暫く天井を眺める羽山。
今日あった出来事を思い出しては、自分なりに情報を整理していた。
「意味が、分かんねー」
まだ混乱しているが、羽山は疲れからか睡魔に襲われた。
だんだんと瞼が重くなる中、無意識に羽山は呟いた。
「…まるで、違う世界……」
そう呟くと、羽山は眠った。
それを見計らったように部屋の扉が開き、フード男が中へと入ってくる。
「〈……〉」
深い眠りにつく羽山を少し見つめ、部屋中央にポツンと置かれた一つのテーブルと一つの椅子に近付き、椅子に掛けてあった毛布を手に取ると羽山に静かに掛けた。
「〈 〉」
何か呟いたようにも見えるが、フードで顔が隠れているため口の動きを見ることは出来ない。
暫くして、フード男は音を立てずに部屋を出ていく。
この家は部屋もそうだが、廊下にすら窓が無い造りとなっているため外が暗くなっているのか、まだ明るいかの判断ができない。蝋燭の淡い光が無ければ言葉通りの暗闇だっただろう。
そんな薄暗い中でも疲れが溜まっていたのか、羽山は一度も起きることなく深い眠りに落ちていった。
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