エピローグ

 ルナは閉じた唇に手を当てる。経験を重ねてもなお、ルナの反応は初々しいままだった。NFに赤面する機能が搭載していたならば、顔中を真っ赤にしているだろう。

「……じゃあ、またね!」

「またね、ルナちゃん」

 恒に向かって手を振ると、ルナは夕陽の中に去っていった。結んだ髪が上下に小刻みに揺れる。小動物のような後ろ姿が建物の陰に隠れるのを見届けるまで、恒はその場を一歩も動かなかった。

 ――何度見ても可愛い。

 恒は自分の左手を眺める。この大きな掌で頭を撫でると、指の隙間からつぶらな瞳で見上げてくる。思い出しただけで胸が熱くなった。撫でられる側に回るのも悪くないと思ったが、やはり恥ずかしそうにしながらも、嬉しそうに心を預けるあの表情がたまらなく好きだった。

 容姿が変わろうと、彼女の内から溢れ出る愛らしさは衰えることなく光を放っている。その光に、いつしか心を奪われてしまった。

 ただ、関係性が変われば見せる表情も変わるのは確かだ。先程の照れくさそうにときめく様子は、想い人である『恒』でしか観察できないだろう。

 ――もっと、いろんな表情が見たい。

 ルナは恒との関係を深めようとしていた。

 ――『恒』の正体を明かしたら、どんな反応をしてくれるのかな。

 恒は頭を振った。例のあの一件のように、また彼女が深く傷付いてしまったらと想像すると、迂闊に曝け出すことは憚られた。悲しい表情はあまり見たくない。彼女には笑顔が最も似合うのだから。

 ではこのまま、うやむやにしたままでルナとの交際を続けられるか。いや、いつかは結論を出す時がやって来る。

 もちろんルナを手放すつもりは微塵もない。

 方法は一つ。恒の正体が誰であろうと、変わらず好きでいてくれるように、もっと彼女を夢中にさせなければならない。

 他の誰にも渡したくない。この身を焦がすほどの愛情はただひとりに向けているのだから、必ずや彼女の心を掴んでみせる。

「――愛してるよ、瑠奈」

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こころはただ一つ 渡海 @tokai_22

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