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瑠奈が定刻通りに教室に入ると、隣の席には
「矢代さん、おはよう」
「ああ、大木さん、おはよう」
紫陽は一瞬だけ顔を上げると、すぐに机の上に視線を落とした。
「今日は朝練無いの?」
「うん。義足の調子が悪くて」
「え⁉ 大丈夫?」
「ああいや、こっちの義足じゃなくて疾走用――競技用のだよ。昨日陸上の大会があって、私は五千メートルに出場したんだけど、二週目で転倒した選手がいてさ。まだ団子状態だったから結構な人数が巻き込まれちゃって、かく言う私も。その時に板バネ足部が剥離したらしくて、続行不可能になって結局リタイアになっちゃったよ」
紫陽は右足に装着している日常用義足のソケット部分を撫でる。
「怪我は無かった?」
「ちょっと腕を擦りむいた」
「大変だったね」
「まあ仕方ないよ。それよりも今の方が大変かも」
「え?」
瑠奈は改めて紫陽の手元に目を向ける。机上に嵌め込まれた液晶ディスプレイには数列が所狭しに並んでいた。
「あ、もしかして今日の宿題」
「そうなんだよ。大会があったから後回しにしてて」
「私の写す?」
「いや、数学は午後だし、間に合うはずだから大丈夫」
紫陽の言葉に、瑠奈は持っていたタブレットを引っ込めた。すると廊下の方から騒々しい足音が聞こえた。その足音は瑠奈の居る二組の教室の中に入って来て、瑠奈たちの目の前でようやく消える。
「おはよう! 紫陽、数学の宿題見せろ!」
「嫌だ」
紫陽は一瞥もくれず手を動かす。
「というか私もまだ終わってない」
「んだよ!」
文字通り手の平を返すと、そのまま瑠奈に標的を定める。
「大木、貸してくれ」
「う、うん。もちろん……」
引っ込めかけたタブレットにはすでに、萌陸の手が引っ付いていた。
「ありがとう! 授業が始まるまでに返す!」
瑠奈が手を緩めると、萌陸は自分の席へ向かって行った。
「もし返って来なかったら私に言ってね。是が非でも取り返すから」
依然として手を休めない紫陽が呟いた。
「あ……ありがとう」
そう言って瑠奈は紫陽の隣の、自分の席に座った。
午前の授業が終わると、ディスプレイの電源を切り、暗くなったモニターにシートを被せ、その上に弁当を広げる。
「あれ、大木さん。今日は一人なの? いつも一緒に食べてる子は?」
「今日は委員会のミーティングがあるらしくて、そっちに行ってるの」
「じゃあ自分が一緒に食べてやろう」
いつの間にか萌陸が瑠奈の前でいそいそと弁当を開けている。
「宿題はどうしたんだ? 次の授業だろ。呑気に弁当食ってる場合か」
「諦めた」
「クソが」
萌陸はいつもの調子で飄々と答える。
「やっぱ休憩時間だけじゃダメだった」
生徒全員に支給されるタブレットは基本的に自宅など学校外で勉強する際に使用される。教科書や教師から送信された資料は机上ディスプレイで閲覧し、板書もモニターのフリースペースで事足りる。そのためタブレットを授業中に使用する機会はほとんどない。
つまり授業中にタブレットを取り出しているということは、別の作業をしていると宣言しているようなものだ。
「折角借りたのに悪いな、大木」
「私は大丈夫だけど……大丈夫なの?」
「そうだよ。前の時もやってなくて怒られてただろ」
二人の心配を余所に、当人はあっけらかんとした態度でご飯を口に運んでいた。
「時間が無かったんだから仕方ない」
「すぐにやらないからだろ」
「紫陽だって今朝やってたじゃん」
「私は土日に大会があったからできなかったんだ。お前はどうせ遊んでただけだろ」
「そうだ」
「クソが」
「昨日はどっちだったの?」
「ん? 昨日は
萌陸は『
「昨日はサッカーする予定だったんだけど、サッカーエリアが改装中でさ。仕方なく隣のバスケットボールで遊ぶことになったんだよね」
「またマルチカ行ったのか」
マルチカ(Multi-C)とはサッカーや野球など計三十二種目のスポーツを楽しむことができる超大型複合施設のことである。
「体を動かすにはあそこが一番だからな」
「榊さんはバスケも上手なの?」
「もちろんさ! スポーツと呼べるものなら何でも人並みにできるぜ。昨日も自分がスリーポイントシュートをバンバン打ったお陰で圧勝よ」
NFは身体能力を強化することも可能だが、巡流の身体面は一切強化していないらしく、萌陸と同等である。すなわち萌陸は男子と対等以上の身体能力を有していることになる。
「ポテンシャルの無駄遣いだな」
そんな萌陸の才能を紫陽は一言で切り捨てた。だが萌陸はその程度の毒舌は軽く受け流す。
「学校の部活とかには入らないの?」
「あー……自分は単に体動かせればいいからな。やるなら真剣勝負したいし、勝ちたいって気持ちはあるけど、その為に技術を磨こうとかは思わないんだよな。それに自分は色んなスポーツを幅広くやりたい性分だから」
「そうなんだ。それで何でも上手にこなしちゃうから凄いよね」
へーん、と言わんばかりに胸を張る。
「ポテンシャルの無駄遣いだな」
「紫陽さ~ん。ご自身が運動神経悪いからって嫉妬ですかな」
「うるさい。私は足が速けりゃそれ以外はどうでもいい」
「そうだよねー。特に球技とか」
「あれ? 矢代さんって球技苦手だったっけ」
三人は同じクラスなので当然体育の授業も一緒に行っているが、紫陽がミスをしている姿を瑠奈は見たことが無かった。
「紫陽がミスするとこ見たこと無いからだろ」
萌陸は瑠奈の脳内を覗いたが如く言い当てる。
「それもそのはず、そもそもミスするほど積極的にボールに触ってないからな」
「え⁉ そうだったの?」
瑠奈は紫陽の方に勢いよく首を振った。紫陽は特に動じる様子もなく淡々と答えた。
「そうだね」
「そうだったんだ……」
「私が義足だからなのか、みんな遠慮してあんまり強いボールを投げてこないんだよね。だからそんなに大きな失態を晒すことも無く、傍観できるのだ」
紫陽は口角を上げた。
「こいつは常識人のフリして他人の配慮を平気で利用する腹黒いやつだから気を付けろよ」
「気を付けろよ」
「は、はい……」
本人にまで念押しされては頷くほかない。
「でも球技以外は上手だから羨ましいよ。私は――」
「気にするな」
「元気出せ」
二人はそれぞれ瑠奈の肩に慰めの手を乗せた。
「大木さんは昨日何してた?」
「私は午後から仕事だった」
「ああ、モデルの?」
「え⁉ 大木ってモデルだったのか」
萌陸は弁当を食べた後に菓子パンを取り出していた。驚いた拍子にその菓子パンの袋が勢いよく開く。幸い中身が飛び出るほどではなかった。
「私じゃなくて私が創ったNFが、だけど……」
「名前は何ていうんだ?」
「『九瀬輝莉』だよ」
机上ディスプレイを起動させてフリースペースに書いて見せる。
「いつからしてるの?」
「初めて仕事したのは去年の七月。あと二か月でちょうど一年になるんだ」
「高一でもう仕事してたのか。すごいな」
「いやいや」
「あーこれか。この人か」
輝莉を検索していた萌陸が声を上げる。画面には確かに九瀬輝莉の宣材写真が表示されていた。
「何か大人っぽいな。大木と違って」
「あー……一応二十一歳の設定だからね。私の理想像を目一杯詰め込んでるから」
ふと、昨日の思考が瑠奈の脳裏に蘇る。
「実際より年上を演じるって難しくない? 見た目と言葉遣いが一致してない人たまにいるけど」
「輝莉がアンドロイドってことは公表してるから、肩肘張って演技する必要は無いかな。昨日はインタビューもあったんだけど、本体は十七歳です、って包み隠さず答えたし」
「なるほどね。それは人によるのか」
「あ、でもポーズを取る時は難しいかも。顔の角度が違うだけでも印象が変わってくるから」
「へー大変そうだな」
「自分はいつもの大木も可愛いと思うけどな!」
「萌陸はサラッとこういうことを言うからな。お前、巡流の姿で女子に同じようなこと言ってないだろうな」
「覚えてねえ」
「榊さんって案外、罪作りな人?」
「そうかもな。腹立つけど。――次に写真が掲載されるのはいつ発売の雑誌なの?」
「七月初週の水曜日だったかな」
「分かった。今度買ってみるよ」
「インタビュー記事も載ってるから何か恥ずかしいな」
「ほーう。それはますます興味が沸いてきたな」
紫陽は悪戯な笑みを浮かべる。
「じゃあ自分は紫陽が買ったのを借りて見よう」
「お前も買えよ」
「そろそろ授業が始まるな」
「そうだね。準備しなきゃ」
「結局、萌陸は宿題やってないけど、知らないからな」
「大丈夫だって。何かもう大丈夫だろって気になってきたから、逆に」
萌陸は弁当を片手に自分の席に戻る。
「……あれ? 榊さん、どうしたのかな」
なぜか萌陸は机の前で微動だにせず立っていた。
「ん? 萌陸ー、何固まってんだー」
「……
陸奥とは数学の先生である。背中越しに見えた萌陸のタブレットは、通知の受信を報せる緑色のライトが点滅していた。
「『宿題の事で話がある。授業始まる前に職員室に来なさい』」
「……紫陽」
「知らないからな」
「大木」
「ははは……」
「逆に大丈夫なんだろ? 早く行ってこいよ」
萌陸は静々と教室を出て行った。その背中には今朝の闊達さは微塵も残されていなかった。
「アホだな」
紫陽の放ったその一言は、今の萌陸にとっては痛烈に効く毒舌となるだろう。
放課後、瑠奈は誰も居なくなった教室で一人、机に向かっていた。
「修理にどれくらい時間が掛かるか、とか色々訊かなきゃいけないから」
紫陽は陸上部に顔を出した後に、修理店に義足の調子を見に行った。
「宿題がどれくらい成績に関わるか、とか延々聴かなきゃいけないから」
萌陸は宿題が終わるまで帰らせないと大目玉を食ったらしく、職員室へ行った。
瑠奈の背中に声が掛かる。
「瑠奈~、お待たせ~」
振り返ると、瑠奈に向かって振る手と顔だけを教室の扉から覗かせる
「トワちゃん。ちょっと待ってね」
最後の小問を解き終え、送信して提出完了したのを確認してからディスプレイを切る。
「よし、終わった終わった」
瑠奈は鞄を肩に掛けてパタパタと永の元に駆け寄る。
「何やってたの?」
「今日出た英語の宿題。折角だからトワちゃんを待つ間に終わらせようかなって」
「そっか。それなら写させてもらえば良かった。惜しいことをした」
「ちゃんと自分でやらないと駄目だよ」
「えへへ」
永は頭を掻く素振りを見せる。口ではそう冗談めかすが、実際に永が瑠奈の宿題を写したことは一度も無い。永は何事も自力で解決しようとすることを、瑠奈は熟知していた。
「お昼休みも委員会で、放課後もだったの?」
「そうそう。昼のミーティングが長引いちゃったから、放課後に未消化の議題を済ませてたんだ。部活があって皆早く帰りたかったのか、すぐに終わったよ。昼間は散々言い合いしてたくせに」
「そうなんだ。お疲れ様」
ここぞとばかりに永は、瑠奈の左腕に両腕を絡める。
「ホントにお疲れだよ。昼も瑠奈と一緒に食べたかったのに。瑠奈が一人ぼっちじゃないか心配で心配で、ミーティングどころじゃなかったよ」
「それは集中して参加しようよ……。大丈夫、一人じゃなかったから。隣の席の矢代さんと、榊さんが一緒になってくれたから」
「榊さんってあの運動神経良い人?」
永の居る一組と瑠奈たちが居る二組は、体育だけ合同で行っている。
「そう。二人は小学校からの付き合いらしい。三人で話したのは今日が初めてだったんだけどね、二人ともお互いの前では飾らないって言うか、本心で通じてるみたいだったな」
「ふーん? まあ、私たちは保育園からの付き合いだし、私たちの方が仲良いけどね」
瑠奈の嫋やかな腕に、永はいっそう強く縋った。
「榊さんにも私がモデルしてるって話しちゃった」
「良かったの?」
「うん、秘密にしてるわけでもないし。すごいって言われちゃったよ。全然そんなことないのに。ほんと、全然……」
瑠奈の顔が翳ったのを、永は見過ごさなかった。
「……仕事の方はどう?」
探りを入れるような永の問いに、瑠奈はうまく答えられなかった。
「どうなんだろ。自分でもよく分かんないや」
今の状態を集約した、返答に相応しい言葉が出なかった。ゆえに瑠奈は昨日考えていたことをそのまま話すことにした。
「私は早く大人になりたかった。格好いい大人になりたかった。だから輝莉には私の理想を全て注いだ。その甲斐あってか、モデルになる夢も叶えられたし、私を格好いいって言ってくれる人もいた。でも……」
NFは如何なる人種の外見も
「仕事を重ねる度に、『瑠奈』の性格が明るみに出る度に、求められる系統が変わってったの」
自分が望んだ理想の姿に変貌できたとして、他者が自分に望む理想と一致するとは限らない。
皮肉にも齟齬が生じ出した時期に仕事の量が増え始めた。
「『可愛い』『清楚』、そう言われると嬉しい。でも、私が欲しかったのはその誉め言葉じゃない」
遂に輝莉を格好いいと評価する者は居なくなった。日に日に互いの理想の乖離が顕在化していった。
「今日、輝莉が私と違って大人っぽいって言われた時に思った。いくら外見を理想の人に近づけたところで、中身も理想に近づくわけじゃないんだなって……。はは、当たり前だよね」
瑠奈は自虐的に笑った。しかしそれも長くは続かなかった。
「私、最近モデルの仕事を楽しいって感じてないことに気付いたの」
始まりから今に至るまでの記憶を呼び起こしたことによって、瑠奈はその真相を突き止めた。
純粋に楽しいと思う気持ちが削がれるにつれ、誤魔化していた現実の景色が徐々に露呈し始めた。
決して切り取られた世界だけが全てだとは思っていなかった。それでも表の華やかさとはかけ離れた舞台裏に、落胆せずにはいられなかった。
レンズの奥では多くの眼がこちらを向いている。頭では分かっていながら、無機質なカメラを相手取るのは物寂しい。
身を焦がすほどのライトが輝莉という偶像を煌めかせるが、光を失えば途端に色あせる。隅をつつく暗闇は輝莉の中に瑠奈を現し、『九瀬輝莉』という外殻が独り立ちし、『大木瑠奈』という剥き身だけが融解していく感覚が襲う。
そうして加工された写真が実像として世間に流布される。
――私じゃなくてもいいんじゃないかな。
初めて輝莉と対面した時も、どこか他人と接するような緊張感があった。それは次第に親和性を高めたが、今は真逆である。輝莉が瑠奈の手綱から解放され、別の個体として生を宿し、誰かのものになってしまった喪失感すら感じていた。
閉じ込めて見て見ぬ振りをしようとした思いの丈が心を汚す。
「輝莉があの仕事を続ける理由って、何なんだろうなって……」
焦がれて、憧れていたはずなのに、連綿と燃やした炎の温度が下がっていく。
思い描いていたのは、こんな光景だっただろうか。
「こんなことなら――」
すんでの所で言い留まる。喋りすぎたせいか、口が軽くなってしまっていた。いくら気の知れた親友が相手であろうと、この先は軽率に口にして良い言葉ではなかった。
仄日が二人の影を伸ばしている。頭は小さいくせに足はやたらと長い、酷く不格好なそれは、二人のゆっくりとした足取りにへばり付いている。
自身の影法師に、喉に詰まった言葉を投げ捨てたところで橋が現れる。この橋は二人が小学生の頃からずっと渡ってきた、思い入れのある橋だった。
どちらともなく欄干に肘を置く。嫌なことがあった時、家に帰りたくない時、泣きそうな時、いつもこの橋の上から優雅に流れる川を眺めた。
上半身の影が川底に沈んでいる。相変わらず透明な闇を前にして、瑠奈は自身の言葉を再び拾い集めた。
もやもやしていた気持ちを言葉にするだけで、不思議と安心している自分がいた。瑠奈を押し潰さんばかりの不安が、両腕で抱えられるほどの取りに足らないもののようで驚いている。
そんな瑠奈の混乱を知ってか知らずか、永は多くを語りはしなかった。
「永は瑠奈の傍にずっといて、瑠奈の夢ももちろん知ってた。どんな光景を描いて、どんな葛藤をして、どんな努力をしたか知ってる。その夢が叶ったって聞いた時は永も本当に嬉しかった」
永は昨日のことのように思い出し、少し笑った。そして表情を引き締めた。
「だからこそ、嫌になったなら辞めたらいいなんて簡単には言えない。ただ――」
永は瑠奈の方を向いた。瑠奈もそれに勘付き、双眸が互いの姿を映し出す。
「辛そうにしてる顔だけは見たくないな。瑠奈が辛そうにしてたら、永も苦しくなっちゃう。だから瑠奈が笑っていられるなら、どんな選択であれ、永は受け止める」
永は瑠奈の手を握り、もう一度はにかむ。
「それが瑠奈の大親友として、九瀬輝莉のファン第一号として伝えたいこと」
瑠奈も永の手を握り返す。
「うん、ありがとう。トワちゃん」
太陽がビルの奥に消える。六月の長いマジックアワーはこれからだが、二人の魔法は徐々に解けていった。
「なんか永、恥ずかしいこと言ったなー」
「すっごく心に響いたよ」
「やめて~わすれて~」
握った手をブンブンと上下に揺らす。冷静さを取り戻した二人は、互いの顔を直視できなかった。ただ繋がれた手から広がる温もりを、手放すことはなかった。
「そういえば今週末って――」
「そう!」
永の台詞が終わる前に、瑠奈は笑顔を弾けさせる。永にとっては見慣れた、幼い頃から変わらない笑顔だった。
「やっと会えるんだ。待ち遠しかったよ」
その人は瑠奈にとってとても大切な人物なのだが、訳あって一か月に一度しか直接会うことが叶わない。そしてこの週末の土曜日こそ、その人に一か月ぶりに会う約束の日だったのだ。
「何、話そうかな。いっぱいありすぎて迷っちゃうよ」
「また永の変な話しないでよー?」
「それは保証できないかなー」
「なにー?」
沈んでいた瑠奈の表情もすっかり上機嫌になっていた。悩みのことなど忘れ、先週の体育での出来事に花を咲かせていた。
盛り上がっている内に分かれ道に差し掛かる。
「じゃあまたね」
「また明日」
「明日の昼は絶対に行くから」
永は瑠奈の頭をポンポン、と優しく叩いた。
「うん。待ってるね」
曲がり角を右に曲がる永に手を振る。永も手を振り返す。何歩進んでも、何十歩進んでも。
「前見ないと危ないよー」
えへへ、と永は頭を掻く素振りを見せ、太陽が沈む方を向いて歩いて行った。その背中を見送ってから瑠奈は真っ直ぐ進む。
しぶとく張り付いていた不体裁な影が、建物の暗がりに潜り込んだ。
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