第6話 アドリアンの結婚
翌朝、ヴァネッサの目覚めを待たずに僕とアドリアンは朝食を済ませると王宮へと向かった。
向かい合って座っていたが、人目がなくなるとアドリアンは僕の隣へと移動してきた。
「どうした?」
わざと尋ねるとムッとしたような顔を見せたが、すぐに僕の首に腕をかけて引き寄せる。
「せっかく二人きりなんだから、…いいだろ?」
確かに執務室でも二人きりとはいえ、いつ誰が訪れるとも限らない。
それはそれでスリリングな展開で燃えるが、そんな事ばかりしているわけにもいかないからな。
…あの媚薬を使うのは無理かもしれないしな…。
僕はアドリアンに求められるまま、お互いの唇を貪りあった。
いよいよ今日はアドリアンの結婚式が執り行われる。
挙式には侯爵以上の貴族が参列するため、僕もヴァネッサと共に教会に向かった。
神父の前で愛を誓い合う二人を見るのは辛いが、僕だって同じ事をしたのだから、アドリアンに止めろとは言えない。
平静を装ったフリをしながら、ただ時が過ぎるのを待っていた。
挙式を終えた二人は王都内をパレードで回る事になっている。
その馬車に乗り込む際にアドリアンは僕の前で立ち止まった。
「リュシアン」
アドリアンに呼びかけられて僕は優雅に微笑み返す。
「王太子殿下。この度はご結婚誠におめでとうございます」
僕が挨拶をすると隣に立つヴァネッサも深々とお辞儀をする。
僕の挨拶に返事をしたのはアンジェリックだった。
「お二人共、ご出席いただきありがとうございます。ヴァネッサ様はお子様はまだかしら。もしかしたらわたくし達の方が先かもしれませんわね」
そう言いながら隣に立つアドリアンに同意を求めるアンジェリックの首を絞めてやりたくなった。
だが、僕は腕をヴァネッサの肩にかけて僕の方に引き寄せた。
「こればかりは神様のおぼしめしですからね。早く良い報告が出来るように頑張りますよ」
そうは言っても、既にヴァネッサの体は妊娠しているはずだ。
あの日、アドリアンがヴァネッサに飲ませた薬は必ず男の子を妊娠するという王家に伝わる秘薬だ。
最初に僕達の子供が欲しいと言ったのはアドリアンだった。
秘薬を作るのはまだ女性と交わる前の体液が使われる。
その秘薬を作る頃にはお互いの気持ちを確かめあった後だった。
「…男でも妊娠出来ればいいのに…」
僕の腕の中で呟くアドリアンに心の中で同意していた。
だが、現実的にそんな事は不可能だ。
それで誰かに子供を産ませようとなったが、僕には女を抱く事が出来ないからアドリアンが子供を作る事になる。
そこで白羽の矢が立ったのがヴァネッサだった。
僕といとこ同士である事からアドリアンがヴァネッサが良いと言った。
だが、どうやって彼女にアドリアンの子を妊娠させるかが問題だ。
そこでヴァネッサの様子を探っているうちに彼女がアドリアンを好きだと気付いた。
案の定、アドリアンとアンジェリックの婚約が発表されると、目に見えるように落ち込んでいた。
だから僕はアドリアンとの逢瀬を餌にヴァネッサに契約結婚を持ちかけた。
そして先日ようやくアドリアンとヴァネッサが結ばれ、秘薬が使われた。
後はヴァネッサが自分の妊娠に気づくのを待つだけだ。
アドリアンは僕の言いたい事がわかったらしく意味ありげな笑顔を見せる。
「そうか。楽しみにしているよ」
アドリアンはそう告げるとアンジェリックを伴って他の貴族達の所へ挨拶に向かう。
アドリアンが背中を向けると僕はヴァネッサの肩にかけていた手を下ろすと、さっときびすを返した。
「式は終わった。屋敷に戻るぞ」
先程のアンジェリックの顔を思い出して気分が悪い。
後ろを振り返る事もなく歩き出した僕の後をヴァネッサが慌てて付いてくる。
馬車の中で一言も口をきかない僕をヴァネッサが腫れ物を扱うように、チラチラと僕の様子を伺っている。
アドリアンの子を妊娠しているヴァネッサを大事に扱わなければいけないのはわかっているが、今だけはとても出来そうになかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます