第7話 妊娠発覚
アドリアンは結婚式が終わるとそのまま王都の外れにある王家の別邸に行ってしまった。
一週間程はそこで最低限の使用人と共に過ごす事になっている。
僕はアドリアンのいない執務室で一人、書類を前にぼーっとしていた。
…まったく仕事が手につかない。
こんな事では戻ってきたアドリアンにからかわれるだけだとわかっていても、少しもペンが進まなかった。
あの別邸には行き来の為の魔法陣は設置されていない。
アドリアンのいない一週間は地獄のように長かった。
そう思っていたのはアドリアンも同じだったようで予定より一日早く王宮に戻ってきたのだ。
仕事を終えて別邸に戻りヴァネッサとの夕食を終えた僕は、風呂に入る為に自室に戻った。
風呂を終えて寝室に入ると魔法陣が光ってアドリアンが姿を現した。
「アドリアン?」
驚いている僕に駆け寄ってきたアドリアンはそのままの勢いで僕をベッドに押し倒した。
「リュシアン、会いたかった! もう女の相手は嫌だ!」
そう言いながら僕の唇にむしゃぶりついてくる。
アドリアンは女を抱く事は出来るが、本当は僕に組み敷かれる方が好きなのだ。
クルリと体を反転させてアドリアンを押し倒すと嬉しそうな目で僕を見上げてくる。
…また後で風呂に入り直しだな。
そんな事を考えながら僕はアドリアンの体に溺れていった。
アドリアンの結婚式から一月が過ぎた頃、いつものように二人で執務室にいる時だった。
書類を確認するフリをしてアドリアンの席の横に立ち、身をかがめてキスを交わしていると扉がノックされた。
…邪魔が入ったな。
唇を離して体制を整えるとアドリアンが「入れ」と声をかけた。
扉が開かれると書状を持った文官が僕にそれを差し出して来た。
「公爵家からすぐにお戻りになるように、との事です」
受け取って開封すると確かに母の字ですぐに帰って来いとしたためてあった。
…もしや妊娠の兆候が?
アドリアンに目をやるとニコリと笑って頷いた。
「あの伯母上が帰って来いと言うのは余程の事だろう。ここはいいから早く戻れ」
ヴァネッサを飾り付ける事に飽きてきたらしい母上にすれば、生まれてくる孫は新しいおもちゃになるに違いない。
「申し訳ありません。それではお先に失礼いたします」
文官と共に執務室を辞すると、僕はそのまま公爵邸へと戻った。
本体に入ると待ち構えていた母上が満面の笑みを浮かべていた。
「リュシアン。ヴァネッサが妊娠しているんですって! おめでとう!」
あの秘薬を使ったのだから間違いなく妊娠するとはわかっていたが、こうして診断が下されてホッとした。
「ありがとうございます。それでヴァネッサは何処ですか?」
「本邸に部屋を用意させたからそこにいるわ。今日からあなたたちはこちらで生活してね」
侍女に案内されてヴァネッサが休んでいる部屋へと通された。
そっと扉を開けるとベッドで寝ているヴァネッサが目に入った。
僕が近付くのに気付いてヴァネッサがゆっくりと目を開けた。
僕はヴァネッサの枕元に跪くと彼女の手を取って微笑んだ。
「ヴァネッサ。子供が出来たって? 良くやった! こんなに嬉しい事はないよ」
だが、ヴァネッサはどうして僕が喜んでいるのかわからずに怪訝な顔をしている。
「リュシアン、本気で言っているの? だってこの子は…」
やはりヴァネッサはお腹の子の父親が僕でない事を懸念していたようだ。
僕は自分の唇に人差し指を当ててヴァネッサを黙らせる。
「その先は言っちゃ駄目だよ。これは僕達三人だけの秘密だからね」
僕はまだ膨らみのないヴァネッサのお腹を優しくさすった。
「嬉しいよ。ここに彼の子供がいるんだからね。間違いなく妊娠するとはわかっていたけれど、報告を聞くまでは気が気じゃなかったよ」
ヴァネッサはそれを聞いて驚いたように、目を見開く。
「あの時、飲まされた薬は避妊薬じゃなかったの?」
「あの時にアドリアンが飲ませた薬は必ず男の子を妊娠する為の薬だよ。王家の秘薬でね、夫婦に一粒だけ与えられるものさ。アドリアンはそれを君に使ったんだよ」
一粒だけと聞いてヴァネッサはそれが何を意味するのかわかったようだ。
「…それじゃアドリアンはアンジェリック様には秘薬を使えないと言う事?」
それに答えずにいるとヴァネッサは更に問いかける。
「もしかしてリュシアンが好きなのは…アドリアンなの?」
ヴァネッサはようやくその事に思い至ったようだ。
「僕とアドリアンは愛し合っているのさ。だけどどんなに愛していても僕達に子供は望めないだろう? だから代わりに産んでくれる女性を探していた。そんな中、君は条件にピッタリだったんだ。僕と血縁関係だし、アドリアンの事が好きだからベッドを共にする事に抵抗はないだろうからね」
そう告げる僕の顔はきっと悪魔のような顔をしている事だろう。
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