第10話 たまにミスしちゃうだけなんですよ?
私のやらかし伝説がまた一つ増えてしまった。
ある時は降臨者の前で堂々と本名(ファジエル)を名乗り。
ある時は照覧の間に首飾りを忘れてベリシュロンと通信できなくなり、宇宙空間で迷子になったり。
初対面だったはずの降臨者を転生前の名前で呼んでしまったり。
つい先日はイージスの盾を無くし、今回に至っては過去一番と言っていいほどのピンチだった。
ディアの起点がなければ、私は正体がバレて大規模な記憶操作をするハメになっていただろう。 そうなるとそこら辺を徘徊してる部下たちを全員呼び寄せるハメになり大騒動だ。
あの状況でぶっつけ本番にも関わらず、ドーナツの力を完璧に使いこなしたディアは本当に天才だ。
私は現在、逃げ込むように入った宿屋の一室で、ホットケーキのベットの上で正座しております。 とほほ………
「マジで勘弁してくださいよ先輩! もしかしていつもこうなんですか?」
「いつもじゃないですよ。 たまにミスしちゃうだけなんですよ?」
「ついこの前イージスの盾無くしたポンコツさんの言葉じゃあ信じられないですね!」
あの後からディアはカンカンに怒っていて、私はしょぼくれながら平謝りし続けた。 まあ、怒るのは当たり前のことだろう。
後輩に謝る先輩。 なんて恥ずかしいのでしょう。
「今後は必要以上に降臨者に近づくのは控えます。 あんなミスをしょっちゅうやられたらたまったもんじゃないですからね!」
「おおせのままに………」
涙目で頭を下げる私を見て、ディアは居心地悪そうな顔で耳の裏をポリポリ掻いた。
「とりあえず、うちはハーレムさんを遠方から監視します。 先輩は幹部を連行したあの二人をお願いしていいですか?」
「どうしてあの二人を?」
「まだ気がついてなかったんですか? 黒幕はあの二人なんですよ」
突然のカミングアウトに、呆けた顔で首を傾げてしまう。
そんな私を見て、ディアは盛大なため息をついた。
「資料によると、最初に幹部を捕まえた時に王城の牢獄に入れるよう促したのはあの二人だったんですよね?」
言われてみればそんな気がした。 私はコクコク頷いて続きを促す。
「その後捕まえた幹部は全員王城の地下に幽閉、連行する際はあの白いのとワインレッドがどちらか必ず同行してます。 あいつらは魔王軍の手先………いや、変装した悪魔の可能性が高いですね」
まさかの事実を聞き、ギョッと目を見開き、ふぇ? と間抜けな声をあげてしまう。
悪魔は各世界に変装して紛れ込み、降臨者や力あるものを言葉巧みに騙して世界の掌握を図る。 我々天使と対極の存在なのだ。
悪魔との戦いは天界が生まれた当時から今まで、何億年にもわたって繰り広げられている。
我々天使の力は他人に力を授けるもの、対する悪魔は他人の力を奪うもの。
神様が善良なる魂に力を与え、世界の平和を願えば。 悪魔はその善良な魂を騙し、力を奪い取る。
やつらの変装は巧みで、世界の住人や魔物に姿をくらまして絶好の機会を待っているのだ。
「おそらくヒロインに変装した悪魔たちは、この世界の魔王に力を貸し与えた張本人で間違い無いでしょう。 ハーレムさんをこのまま魔王城に誘き出し、魔王の力を使って足止めするつもりです。 そして王城に幽閉した幹部たちを一斉に解放すれば、どうなると思いますか?」
「………王城が、陥落しちゃうわね」
満足そうに小さく頷くディアは、向かいに設置されていたスポンジケーキのソファーに勢いよく腰掛けた。
「つまり、うちは天使の弓矢でハーレムさんに力を分けて、魔王を速攻で倒させる。 ファー先輩はこの世界の住人にバレないよう、悪魔の企みを阻止する。 王城が陥落したらあのハーレムさんは絶望して闇に取り込まれる可能性がありますからね。 死ぬ気で王城を守って下さいよ?」
「すごい、たった数時間しか監視していないにも関わらず、悪魔の存在を見抜いたのね!」
感動して目を爛々と輝かせる私。
ディアは私の視線を受け、頬を朱に染めながら目を逸らした。
「ともかく、事態は一刻を争います。 幸い今は夜中ですから、今から空を飛んで追いかけても見つかることはないでしょう。 けれど朝のファー先輩のうっかりで、もしかしたらあの悪魔二人にはうちらの正体がバレているかもしれません」
どうやら私は今回、自分が思っていた以上にやばいミスをしていて、ディアの足を大幅に引っ張ってしまっていたようだ。
涙目で肩を窄めた私の肩に、ディアは優しく手を置いた。
「今頃ミスを悔やんでもどうにもならないっすよ! 結果で挽回して下さい! いいですか、ファー先輩はあの悪魔二人が本性を見せた瞬間、速攻で始末してください。 それが手っ取り早い解決策です」
確かに悪魔さえ倒せば問題はほぼ解決するだろう。 だがあの二人が悪魔である証拠がない。
もし悪魔じゃなかった場合、私が先に手を出してしまったら天界の掟に反することになってしまう。
実際にコレットちゃんとアイシスちゃんが悪魔だったとしても、相手は二人。 中級以上の悪魔だった場合、イージスの盾を持っていない私では流石に武が悪い可能性もある。
思考を巡らせていた私は険しい顔をしていたのだろう、ディアは小さく鼻を鳴らしながらうっすらと口角を上げた。
「無論、あの二人が悪魔だと言う証拠がないので、問答無用で殴り込みはできません。 けれど監視さえしていれば、必ずボロを出します。 先輩、あなたがこの惑星に来るまでの飛行速度はとんでもないものでした。 あなたが目に見える範囲で監視していれば、何かされても問題なく対処できるでしょ?」
ディアの優しい言葉を聞いて、私は眉を吊り上げグッと拳を握る。
「先輩の意地を見せてあげるんだから! 問題なく監視してみせるわ!」
「じゃあ作戦開始ですね、おそらく三〜五日は寝れないと思いますが、まあ大丈夫ですよね?」
我々天使は体が丈夫に造られているため、寝なくても活動し続けることができる。 陽の光さえ浴びていれば死ぬことはないため、飲まず食わずでも平気なのだ。
むしろ睡眠や食事は我々に取っては娯楽に等しいものである。 寿命の長さゆえにそう言った楽しみがなければ魂がすり減って、虚無の魂になってしまうのだ。
生きるために必要なのは陽の気、人々の善意や太陽からの光などがそれに分類される 要は日に当たっていれば死ぬことはない。
作戦が固まり、私たちはすぐに宿屋を出て行くことにする。
私は出発前にしっかり指差し確認。 ディアが鋭い目で私の指差し確認をさらに確認。
問題ないことを確認したため、すぐにアイシスちゃんとコレットちゃんを追いかけた。
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