第9話 うちらは一般庶民なんだもん!
岩陰に潜んでディアと喧嘩をしていたら玲照くんに見つかりました。 警戒体制の玲照くんはカウントダウンを始めてしまっています。
今は首飾りの力を使い姿を見えずらくしていますが、透明になっているわけではないので見つかるのは時間の問題です。
急いで変装して姿を現さなければ、いらぬ誤解を招いてしまいます。
と、いうわけで! すぐにこの世界の村娘に変装します!
この世界の洋服はハードグミや砂糖の糸を織った服が主流です。 村娘は基本、安価なハードグミ製の衣服を纏います。
羽衣の力で慌てて変装する私。 まず背中の翼を消して、服をこの世界仕様に変えて、髪の色と骨格を変えて………
あ、でも玲照くんの前だから少し可愛くしよう! って、そんな場合ではない!
玲照くんのカウントは残り三秒! 時間がやばい!
鏡で自分の顔と衣服をチェックする。 うん! 変装バッチリ問題なし! ちょびっと可愛くできたし!
いざ出陣である!
「あ! ちょっ! せんぱ………」
ディアがなんか言っている、おそらく変装に戸惑ったのだろう。 仕方がないので私が時間を稼いであげよう!
残り一秒のタイミングで、あたかも岩陰から飛び出したかのように出ていく私!
抵抗しないことを相手に知らしめるため、両手を上げて怯えたような表情で出ていく。
「ご! ごめんなさい! わわわ、私! この街から逃げようとしていたら捕まりそうになってしまって、必死に岩陰に隠れていただけなんです! 命だけは助けてください!」
怯えているモブ娘のようなセリフは完璧であろう。 隣に出てきたディアは顔面蒼白して私のことをチラチラみている。
きっと始めて降臨者と接触するから緊張しているのでしょう。 こういうところで先輩の威厳を知らしめなければ!
「あ、あの………あなたは、あなたは一体何者なのですか?」
玲照くん、目を見開きながら私を凝視している。
もしかして! これは! 私の変装した姿に恋をしてしまったのですか!
ああ大変、どうしましょう!
突然の展開に、私のハートは超ハイスピードBPMでリズムを奏でる! こんなイケメンに言い寄られたら私は自制心を抑えられるだろうか!
「う、うちらは、一般庶民でございまする!」
私が一人で悩んでいるうちに、ディアが意味不明な語尾で緊張しながら声を上げる。
緊張しすぎだと思い、私はさりげなくディアに視線を送りながらウインクをした。 するとディア、なぜだろうか全てを諦めたような表情。 なんでそんな顔してるの?
「い、一般の方には、見えないかな? もしかして、君の隣に立っているのは………天使様じゃないのかい?」
———今、なんと?
比喩か? 可愛い子を例える比喩だよな? 比喩であってくれ!
「ちちちちち、違うんだもん! うちらは一般庶民なんだもん! 魔王軍から隠れてたんだもん!」
なぜ………なぜバレた!
ディアが緊張のせいか変な語尾だ。 いや、そんな事はどうでもいい。
変装は完璧だったはずなのになぜ正体を見破られた?
「いやいや、隣の彼女が頭の上につけているそれは、天使様がつけている輪だろう? 天使様がなぜこんなところにいるんだい? あ、もしかして聞いてはいけないかな? すまなかったね、でも本当に天使様なら頼みたいことがあるんだ。 天使様なら神様とも会う機会があるだろう? もしよければ、僕をこの世界に送り込んだ神様に感謝の言葉を伝えてくれないかな?」
玲照くんはヒロインたちに聞こえないよう、小声で私たちに語りかけてきた。 まあ、動揺のせいで半分以上頭に入ってこなかったが………
全身から汗を流す私、ブルブルと震えながらこの世の終わりのような顔をするディア!
私は岩陰から出る前に、自分の顔と姿を鏡で確認していたはず! ああ、でも頭の上までは確認していなかったな。
そうか、急いでいたせいで指差し確認をし忘れてたんだ! ちゃっかり可愛い変装しようと目論んでたのも原因かもしれない………
どうする私、この修羅場———どうやって乗り越えればいいんだぁ!
「あ、あはははは! やっぱり天使様に見えますか、これ?」
急に冷静さを取り戻したディアは、咄嗟に玲照くんの前に躍り出た!
「ん? 君には輪っかがついていないみたいだね?」
「そーに決まってるんだもん! この輪っかはうちが作ってお姉ちゃんにプレゼントしたんだもん!」
あ、この子まだ語尾がおかしい。 最低限平静を装っているが、内心かなりドキドキしているな。
「プレゼント? 天使様の輪っかをかい?」
「じゃっジャジャーン! ほらね! うちはドーナツを作れる一般人なんだもん! すっごいでしょ? 天使様の輪っかみたいでしょ!」
突然、天使の輪っかのような、乳白色のドーナツを作って見せるディア
ディアはまだイージスの盾に触れていない、つまり天使の羽衣でこの世界に順応した彼女には糖力が発生し、この世界の力が使えるようになっている。
彼女は先ほどの戦いを見て、見様見真似でホワイトチョコで包まれた、天使の輪にそっくりなドーナツを作り出したのだ!
その後ディアは、すごいでしょー? などと言いながら巨大なドーナツを作り出した。
車のハンドル程度の大きさにしたドーナツで玲照くんの視界を遮ったディアは、ドーナツの影に隠れた私に対し、首飾りの力を駆使してこっそりテレパシーを送ってくる。
(何してんすかファー先輩! 早く、早く輪っか隠して!)
首飾りの力は照覧の間にいるベリシュロンだけではなく、私たちの間で脳内会話も可能だ。
今はステルスの効果を切っているため通信ができるようになった。
脳に直接語りかけてくるようなその声を聞き、私は羽衣の力を駆使して輪っかを隠した。
「こわーい魔王軍を倒してくれたお兄さんにも、この天使様の輪っかみたいなドーナツをプレゼントするんだもん!」
アドリブで作り出したホワイトチョコのドーナツを玲照くんに渡し、私を隠すために作った巨大なドーナツに触れるディア。
するとその巨大なドーナツは、十本のホワイトチョコドーナツに変化した。
変化させたドーナツを、あなたたちにもあげるんだもん! と言いながらヒロインたちに配るディア。
この数時間で、この世界の力を自在に使いこなしている! なんという才能だろうか!
驚く私とは裏腹に、鳩が豆鉄砲食ったような顔で渡されたドーナツを凝視する玲照くん。
「これは驚いた! 近くで見ても、本当に天使様の輪っかみたいだ。 君にはすごい才能があるんだね!」
「神様の御使いである天使様が大好きなだけだもん! 神様を信仰してるんだもん! だからこれ以外のドーナツはあんまり上手に作れないんだもん!」
語尾がなかなか治らないなと思っていたが、玲照くんの前では語尾に『〇〇だもん』をつけるキャラ設定にしたらしい。
おそらく収拾がつかなくなってしまったのだろう。
結局、ディアの天才的な起点のおかげで玲照くんに天使であるということがバレなかった。 玲照くんは、気をつけて帰るんだよ? と一言告げて去っていく。
私は笑顔で去っていく玲照くんの後ろ姿を見ながらホッと胸を撫で下ろすと、鬼の形相をしたディア睨まれていることに気がついた。
ディアさんには、頭が上がりません。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます