第6話 あなたもしかして脳筋っすか?
散々ぐりこの刑を執行したため、ディアは頭を抱えながら倒れている。
こんな大騒ぎしていたにも関わらず、いつの間にかベリシュロンは昼寝をしていた。 もはや注意する気力も失せてしまう。
仰向けに倒れていたディアは、悪戯な笑みを浮かべながら私に視線を向けてきた。
「ファー先輩、あなたもしかして脳筋っすか?」
「失礼なこと言うんじゃないわよ!」
私は頬を真っ赤にしたままそっぽを向いた、するとディアはニマニマしながらムクリと起き上がる。
「ファー先輩いじると、なんか面白いっすね! こりゃテレシール様があなたを相当気に入ってるのも納得っすよ!」
真っ白な歯を見せながら無邪気な笑みを見せるディア。
私はテレシール様にいつも怒られているため、お気に入りというのはこの子の勘違いだろう。
とりあえず気を取り直して映像版に視線を戻しながら、降臨者たちの状況を逐一観察し始める私たち。
とりとめのない話をしながら数時間の監視を続けていると、ディアが一つの映像版を見ながら唸り始めた。
そんなディアを横目に見ながら、何か気になることでも? と声をかけてみると、ディアは気難しそうな顔で耳の裏をポリポリと掻き始める。
「ちょっと妙なんすよね〜。 この色ボケリア充野郎なんすけど〜」
「その子の名前は玲照くんよ! 変な名前で呼んじゃダメでしょ!」
ディアは玲照くんや愛流さんなどのハーレム系降臨者を非常に嫌っている。 親の仇が如く、隙あらば文句を言い続けているのだ。
私が監視する時は、ハーレム系降臨者見てる時の方が楽しいのだけど、好き嫌いは人それぞれなのだろう。
「とりあえずこいつは悪い奴じゃないってのは見てればわかりますよ? 鈍感系降臨者でもないみたいですし? 資料によるとヒロイン全員きっぱり振ってましたね。 クソ生意気な事に」
「なんであなたはハーレムの子をそんなに悪く言うのよ! 私はどちらかというと、監視してる降臨者がハーレムの方が楽しいわよ? だってハーレムになるってことは心が綺麗で優しい証拠だもん! 実際、ハーレムになってる子はみんなすっごくいい子じゃない!」
「ファー先輩は頭ん中までお花畑なんすか! まあ別にハーレム降臨者たちの心が綺麗ってところは否定はしないっすけど………。 モテてるやつ見てるとなんだかムカムカするんですよ」
口を窄めながらやさぐれた目をしているディア。
私はここぞとばかりに、さっきまでバカにされていた仕返しを試みる。
「あらもしかしてディアったら………恋愛経験がないのかしら? 恋愛に憧れちゃうからこそ、恋愛を楽しんでる降臨者にやきもちを焼いてしまうのね!」
恋話みたいな雰囲気になり、私はついついテンションが上がってしまう。 私も乙女だからこういう話は大好物なのだ!
気がつくと私は、上がったテンションのまま両手の指を絡め、うっとりした顔で体をくねらせていた。
そんな私に呆れたような視線を向けてくるディア。
「あの〜。 ファー先輩は恋愛経験あるんすか?」
ハイテンションだった私の体に電流が流れたような衝撃が走り、心がどんどん冷めていく。
言っておくが、天使だって恋愛くらいする。 天使の中には男の人もいるのだ。
男の人は大体悪魔退治のために奔走しているため、監視が仕事の私たちとはあまり関わりがない。 まあ、私が昇進して上級天使にでもなれば、悪魔対策班との交流も持てるから、男性の天使と接点ができることもあるだろう。
まあ、何が言いたいかというと下級天使は男性天使と関わる機会がない。
「恋人いない歴、二百三十四年でーす。 そして私は今、二百三十四才でーす」
「——————あ、なんかすんません」
あのディアが困った顔をするほど空気が悪くなったらしい。
私が向ける虚無の瞳を見て、他人を馬鹿にするのが大好きなディアですら頬を引きつらせながら目を逸らしていた。
しばらく沈黙したままの状態で、気まずい空気が流れ始める。
「って! 今はそんなこと言ってる場合じゃなくて! この色ボケリア充クソ野郎のことなんですけど!」
「だから玲照くんって言ってるでしょう! それにこの子はクソ野郎なんかじゃありません!」
いきなりハッと我に帰ったディアが玲照くんが映ってる映像版を指差した。 また何か文句を言おうとしているのだろうか?
「名前なんてどうでもいいんですよ! この人、順調に魔王軍幹部を討伐してますけど、倒した幹部をみんなまとめて王城の牢獄に入れてましたよね?」
少々慌てた口調で確認を取ろうとするディア。
私はとりあえず、確かに全員拘束してますが? と返事をしておく。
玲照くんは真面目な子で、一生懸命魔王軍と戦っている。
すでに幹部を何人か倒したが、拘束して牢獄に入れているし、そんなに手こずってもなかった。
このペースでいけば、玲照くんが魔王と戦う日もそう遠くないだろう。 残っている幹部も後二人だから、この幹部さえ拘束して仕舞えば次は魔王戦になるわけだし。
だがディアは冷や汗をかきながら玲照くんの映った映像版を凝視している。
「嫌な予感がします、直接状況を見に行きましょう」
「もしかしてディアったら、玲照くんを直接見たいだけかしら? あの子は確かにイケメンだから、気持ちはわからないでもないけど………って、痛い!」
喋っている最中に後頭部をどつかれ、何をするんですか! と叱咤する。
「何するもクソもないですよ! 意味わかんないんですけど! こんなハーレム野郎の顔なんてどうでもいいんです! それよりも気になるのはこのヒロインたちですよ! あやしい香りがぷんぷんします!」
「きっとそれはやきもちよ? 分かるわ? 私も玲照くんと一緒に冒険できたらきっと毎日が楽しくなると思うもの。 羨ましいわよね、そうよね」
「全然わかってないじゃないですか! もう、この人超めんどくさいな!」
ディアは頬を膨らませながら身支度を始めた。
寝ていたベリシュロンを叩き起こし、ことの成り行きを説明した後、照覧の間に残って通信役をしてくれと要請している。 そんなことお願いしても、この子きっとサボりますよ?
なんてことは言えず、私もディアに釣られて身支度を始める。
ベリシュロンに簡単な指示を出し終え、必要になりそうな物だけ持ったディアはすぐに私の元に駆け寄ってきた。
しかし私は荷物を一つ一つ机の上に置いて、忘れ物がないかを悠長に確認し始める。
そんな私の姿を見て盛大にため息を吐くディア。
「何してんすかファー先輩! 事は一刻を争うかもしれないです、早く行きますよ!」
「ちょっとちょっと! 急すぎるじゃない! まだテレシール様にも連絡してないし、指差し確認して忘れ物を………」
「連絡なんて後でもいいでしょ! 急いでるって言ってるじゃないですか! ほらほら、とっとと向かいますよ!」
呆れたような表情で私の背中を押し始めるディア。
仕方がないので机の上に広げていた荷物は全て流し込むようにバックに詰め込む。
ディアに強引に背中を押されたせいで半ば無理やり走り始めたのだが………
そんな中でも私はバックの中を覗き込み、指差し確認をしっかりと行なっていた。
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