第005話 異世界の村へ


 翌日、俺達は朝早くに起きると、朝食を食べ、準備をした。


「山田。お前、その格好で行くのか?」


 着替え終わり、リビングに戻ってくると、ミリアムが聞いてくる。

 俺の服装は仕事用のスーツである。


「挨拶に行くんだから正装でないといけないでしょ」

「そんな大ごとじゃないし、田舎の小さな村なんだけどにゃー……」


 そうは言うが、こういうのは気持ちの問題なのだ。

 何故か、スーツを着ると、気持ちが引き締まる気持ちになるし。


「お似合いだと思います」


 そう言って両手を合わせて褒めてくれるルリはフード付きの白ローブだ。

 きっと白魔導士を意識しているのだろう。

 かわいいと思う。


「まあいいにゃ。行くにゃ」


 ミリアムがそう言うと、ルリがミリアムを抱えた。

 そして、リビングを出て、廊下を歩くと、例の扉を開け、異世界の家にやってくる。


「うーん、相変わらず、謎の部屋だな……本がいっぱいだし、見たことのない器材が多い」


 後継者ってことはここにある本を全部読まないといけないのか?

 寝る前に少しずつ読んでいった方がいいのかもしれない。


「では、その器材を使ってみましょう」


 ルリが提案してくる。


「先に挨拶に行って、薬を渡した方が良くない?」

「その薬を作らないといけないんです」


 あ、そういうこと……


「薬を作るって言われてもハードルが高いなー」

「そこまで難しい薬じゃないですよ。単純に腰痛の薬ですし、材料は用意しています」


 用意?


「いつのまに……」

「昨日の夜、採取してきました。その辺りに生えてますので」


 夜は危ないよって言おうと思ったが、この子、多分、俺より強い。


「まあいいや。どうやるの?」

「簡単です。そこに炊飯器がありますよね?」


 確かに作業台の上に炊飯器がある。

 ものすごく場違いだ。


「あるね」

「それにこれを入れてください」


 ルリがそう言ってギザギザの葉っぱを渡してくれる。

 よくわからないが、言われて通りに受け取った葉っぱを炊飯器に入れて、蓋を閉じた。


「まさか炊飯ボタンを押すの?」

「はい。でも、指先に魔力を込めてください」


 これを作ったのは爺さんだろうが、手抜きだなー……


 俺は人差し指に魔力を込めると、炊飯ボタンを押した。

 すると、聞いたことのある音楽が流れ、蓋が開く。


 覗いてみると、錠剤が5錠ほど入っていた。


「簡単だね」

「まあ、炊飯器ですので」


 魔法の炊飯器かね?


「でも、これで色んな薬が作れるんじゃないの? すごく便利そう」

「ご自分で回復魔法を使った方が早いし、効果的ですよ」


 回復魔法……

 またすごいのが出てきた。

 もしかして、傷とかを癒せるんだろうか?


「俺もできるの?」

「もちろんです。あとで教えます。それよりも村長さんのところに行きましょう」


 それもそうだな。


 俺は錠剤を空間魔法にしまうと、家を出た。

 すると、前に聞いた通りに森に挟まれたまっすぐの道があり、その先には家が見えている。

 距離的には100メートル程度だろう。


「あそこ?」

「はい。30人程度が住む開拓村です」


 少ない……

 いや、開拓村だし、そんなものなのかもしれない。


「あ、山田に言っておくにゃ。こっちの世界には魔物と呼ばれるあっちの世界にはいない危険な生物がいるから気を付けるにゃ」


 魔物……

 異世界だし、やっぱりいるのか。


「武器を持ってくれば良かったな……」


 包丁か傘くらいしかないけど。


「大丈夫にゃ。お前の火魔法で対処できるし、私とルリもいるにゃ」

「お任せください」


 心強い猫と少女だね。


「頼むよ……ちなみにだけど、言葉って通じるの?」

「問題ありません。魔力を耳に集中してみてください」


 ルリにそう言われたので前に試したように魔力を耳に集中させる。


「したけど?」

「今、私はこちらの世界の言葉でしゃべっています。普通に聞こえるでしょう?」


 え? そうなの?


「聞こえるね」

「それと同じようにしゃべる時は喉に、書く時は手に、文字を読む時には目に魔力を込めてください。それで大丈夫です」

「魔法ってすごいね……」


 そこまでできるのか……


「実際、魔法使いは特別にゃ。都会に行ったら大出世できるにゃ」

「これ以上働けって? 嫌だよ」


 病気になっちゃう。


「そうだったにゃ……まあ、ゆっくりするにゃ」


 俺達は村を目指して歩きだす。

 そして、村に着くと、農作業をしている人や斧で木を切っている人達がいた。


 その人達は皆、痩せており、とても健康的には見えない。

 さらにはポツンポツンと立っている家も木材でできた家で正直、ぼろい。


「中々だね……」


 言葉を選ぼうと思ったが、思いつかない。


「開拓村なんてこんなものにゃ」


 スローライフは無理だな……


「ですね。村長さんの家はあそこです」


 ルリがそう言って指差した方向には家がある。

 だが、村長の家なのに他の家と大差がなかった。


「あそこねー……まあ、行ってみよう」


 俺達が村長の家の前にやってくると、ルリがノックもせずに扉を開ける。


「村長さーん」


 ルリがそのまま入っていったので俺も入る。

 すると、白髪の老人と黒いローブを着た若い金髪の女性がテーブルについて、お茶を飲んできた。


「おー、ルリか」


 老人の顔がほころぶ。


「お久しぶりです」

「久しぶりにゃ」

「ミリアムも久しぶりじゃのう……ところで、そちらは?」


 老人が俺を見てきた。


「はい。タダシ様のお孫さんです。それで村長、少しお話があるんですが……」


 ルリが金髪の女性を見る。


「あ、私のことは気にしないでください。そちらがお先に……」


 金髪の女性が遠慮して、ルリを促した。


「そうですか……すみません。村長さん、報告です。先日、タダシ様がお亡くなりになられました」

「な、なんと!」

「タダシ様が……!」


 村長さんと金髪の女性が驚いて固まってしまった。

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