アイドル第一歩(1)
翌日。
クラスメイトに星光騎士団に加入できたことをなんとなく報告していいのかどうか悩みつつ、登校。
「う、うん。あの――受かった」
「「「マジ!?」」」
「星光騎士団に!?」
「うそだろ!? バトルオーディションでは落ちたって……」
「うん。でも、あの……」
どうしよう、と一巡してから昨日綾城が『基本的にどのグループもよほどハイレベルな子以外は総落とししちゃうんですよ』と言っていたのを思い出す。
ついでに『そのあと希望のグループに改めて加入希望を出してくれるかどうかで本気度を見たりしますし……こうしてちゃんと対面の面接や試験をするのが例年の取り方なんです』と続き、そのことを『お友達に教えてもいいですけれど、魔王軍も勇士隊もウチと同じく二軍以下から開始ですし練習に来なければ強制脱退ですよ』と釘まで刺されている。
つまり、むしろバトルオーディションのあと、希望グループに飛び込めるかどうかが鍵。
教えてもいい、ということは別に隠してはいない、ということ。
むしろグループ加入後の方が、本気度が試される。
「えっと……昨日綾城先輩から聞いた話なんだけど――」
と、クラスメイトたちに綾城に聞いた話をそのまま伝えた。
すると一拍の間。
それなりの沈黙のあと、事態は動いた。
「魔王軍に加入希望出す!」
「俺、勇士隊!」
「嘘だろ俺別の中堅グループに加入希望だしちゃったよー!」
「俺もおおおお!」
「うわあああ! 昨日知りたかったー! 俺今日面接ー!」
「マジかよー!」
「つまり俺も星光騎士団入団チャンスあんの!?」
「あ、う、うん。でも……」
綾城の言い方には含みがあった。
特に『友達に教えてもいいですけれど――』の部分は目を背けられたので、おそらく淳からその話を聞いたら“本気度は当てにされなくなる”のだろう。
勇気を出して踏み出した、淳の大勝利だ。
「え? でも……なに?」
「あ、ううん。天皚も星光騎士団に入りたいの?」
「そ、そりゃあー、最古参で注目度ナンバーワンの星光騎士団に入りたいに決まってるじゃん? 淳ちゃんは入学式から話す……と、友達だと思ってるし」
「天皚……」
ガラにもなくキューンとしてしまう。
若干悪ぶっている天皚が、魔王軍ではなく星光騎士団に入りたい、なんて。
「でも、本当に自分の希望を優先していいからね?」
「う、うん。ダメなら仕方ない。別のグループに加入希望を出すって。とにかく、今日から練習なんだろ?」
「多分?」
「そっか。すぐ追いつけるように頑張るよ!」
「うん。頑張って」
天皚がフンスフンスと鼻息荒くスマートフォンから、星光騎士団への加入希望を申請した。
天皚と一緒に星光騎士団に加入して、共に切磋琢磨していけたらいいのだが――。
放課後。
練習棟、三階にはブリーフィングルームに向かって長い列ができていた。
自分も並ぶべきなのかな、とドキドキしていると、星光騎士団のグループチャット欄に『副団長
ドキドキしながら列を通り過ぎ、クラスメイトや隣のクラスの生徒の視線を振り切って練習準備室をノックした。
「あの――失礼します。一年A組、音無です」
「お、ちょりすちょりすー。三年A組、星光騎士団副団長の花崗ひまりくんやでー!」
「ォ……あ、は、初めまして」
本物だァー! と、心の中で叫ぶ。
色気のある緩やかウェーブのエメラルドの髪と紫色の瞳。
あの綾城珀と背中を預け合う星光騎士団の三年生。
背が高く、第一印象は“儚げ美人の優男”。
が、喋るとこのように喧しい。
歌唱力はかなりのものだが本人曰く「ダンスが苦手」。
スタイルの良さを活かした大胆で優雅なダンスは、とても「ダンス苦手」には見えないのだからさすが一流のアイドル。
すでにモデル事務所に所属が決まっており、卒業後はアイドルを卒業し、モデル兼俳優として活動していくつもりとのこと。
関西出身で、学生寮に滞在しており今代星光騎士団のお色気&お笑い担当。
この儚げ美人の姿でにぱー、と笑って「こっちこっち」と手招きされる。
準備室はロッカーやクローゼットが壁にびっしり。
小道具の入った段ボールも散乱しており、準備室というか倉庫のような扱いなのだろうかとキョロキョロしてしまう。
「サイズはMでええ?」
「へあ?」
「グループ専用ジャージと専用衣装。音無くんは今一年生やから、多分今後デッカくなるとは思うけどー、とりあえずホイ。試着してみ?」
「あ、は、はい」
練習着一式、ということで星光騎士団専用のTシャツ、ハーフパンツ、ジャージ上下とタオル、専用衣装インナー、上着とパンツを並べられる。
「靴のサイズは?」
「靴ももらえるんですか!?」
「練習用は自前のものでも構わないで。でも衣装用のブーツは支給する決まりなんよ」
「うわぁ……」
足のサイズを告げ、新品のブーツと衣装、ジャージを纏めて紙袋に入れてもらい「次こっち。ロッカールーム」と案内される。
準備室の隣にはロッカールーム。
開くとそれなりの広さがある。
「名札がもうついてるから、中確認してもろて」
「はい」
名札入ったロッカーを一つ一つ確認していく。
綾城珀、花崗ひまり、宇月美桜、後藤琥太郎……と続く。
(ウワー! 星光騎士団全員分のロッカーぁぁぁぁっ!)
星光騎士団箱推しのドルオタモードになってしまうのは、仕方がない。
後藤の隣に、自分の名前があってプルプルと震えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます