アイドル第一歩(2)


「あ、ちなみにこたちゃんは今日部活動の方に顔出してて休みやねん。なんかバスケ部、練習試合近いらしいんよ」

「部活動……」

「そやそや。ウチの学校、アイドル活動と部活動には加入&入部必須なんよ。活動に参加してないやつは一年で退学になって普通科に移動させられるさかい、三年になると入学した時のクラスメイトは半分くらいいなくなるんやで。わしもダンス部の練習ん時と仕事ん時は練習に参加できへんから、部活決まったらグループの方に連絡しといてもろて」

「は、はい」

 

 部活に関しては入学から一ヶ月以内に必ず決めるように、と言われている。

 どんな部活があるのかはみんなプリントをもらっているが、淳はまだ部活を決めていない。

 入部も『イースト・ホーム』で申請できる。

 

「部活かぁ……」

「なんや、部活どこ入るか悩んでるん?」

「はい。小さい頃から劇団にいたので演劇部もいいのかな、と思うんですけど、自分もダンスはあまり得意じゃないからダンス部もいいのかな? とか、カラオケ部や調理研究部も興味を惹かれていて」

「自分の苦手なところを補強するために部活を利用するんはアリよなぁ。でも、あんさん、そんなら貴族部もええんと違う?」

「貴族部…………」

 

 スマホを見下ろす。

 部活一覧にある、一際なにをやっているのか全然わからない部活名。

 

「……なにをする部なんですか?」

「にゃははは! まあそうなるよなぁ! でも、名前ほどヤバい活動内容やないんやで。うちのグループ顧問が部活顧問やっとるよ」

「星光騎士団のグループ顧問って――凛咲先生!?」

「そそ」

「…………。結局なにをする部なんですか?」

 

 それを言われても結局わからない。

 ので、聞いてみると「貴族っぽいことを学ぶらしいで」とのこと。

 

「は、はあ?」

「主に冠婚葬祭、礼儀作法、レストランマナー、社交ダンス、公的な場所での立ち居振る舞いとか。手軽なところだとアフタヌーンティーとかやってるみたいやで」

「へぇー」

 

 それはそれで役に立ちそう、と考え込む。

 なにより星光騎士団の創設者。

 初代騎士団長、凛咲玲王が顧問を務める部活。

 

「演技の役にも立ちそうですね」

「あー、そうやね。音無ちゃんは将来的に俳優志望なん?」

「俳優、ですけど……その、ミュージカル俳優志望です!」

「へぇー?」

 

 首を傾げられる。

 おそらく、ミュージカル俳優というカテゴリが理解しづらいのだろう。

 

「えっと、ミュージカル俳優は、演技の中に歌とダンスをする時間があって」

「あ、わかんないわけじゃないやで? へぇー、って思っただけなんよ。わしも俳優業はちょっと齧ってやっていこうって思ってるんやけど、本気でやりたい人には失礼やろなー、とは思っててなー。いきなり後輩に嫌われちゃうんかぁ、ってへこんじゃったってかぁ」

「ええ? そ、そんなことないですよ?」

「ほんまぁ? まあ、どうせなら“地獄の洗礼”終わって生き延びてたら演技教えてもらおかなぁ」

「地獄の洗礼……?」

 

 なにその怖い“なにか”。

 恐る恐る聞き返すと、一瞬「お」という表情のあとニパーと笑って「ほな、ジャージに着替えたらスタジオ行こか」と誤魔化された。

 恐怖が増すのだが。

 怖がりつつ、Tシャツとハーフパンツ、ジャージの上着を着て紙袋をロッカーにしまい、タオルと飲み物だけ持ってロッカールームを出た。

 ロッカーはボタンで鍵をかけるタイプ。

 最新式でびっくりした。

 

「淳ちゃーん!」

「わ、わあ! 天皚!?」

 

 廊下に出た途端、天皚に抱きつかれる。

 驚いて天皚の頭に手を添えると、抱きついていたクラスメイトが「落ちたぁ」と半泣きで見上げてきた。

 

「あ、も……もう結果わかったんだ……?」

「面接とダンスと歌が終わったら、即お断りされた」

「そ、そっかぁ……残念だったね」

「クラスメイトなん?」

「あ、は、はい」

 

 にこり、と見下ろされて花崗が一緒にいることを思い出して慌てる。

 そして花崗がいるのに気がついて、慌てたのは天皚も、だ。

 ハッとして姿勢を正す。

 

「初めまして、白戸天皚と申します!」

「花崗ひまりくんやでぇ~」

「はい! 存じております!」

「加入試験落ちたんやな。どんまい! まあ、中堅グループ『SWEETSスイーツ』や『Colorカラー』や『Puffパフェ』や『らいじんぐ』や『テーマパーク』『ケ・セラセラ』とか、色々あるし視野広めに自分に合うグループ探してみ」

「は、はい! 頑張ります!」

 

 改めて、出てくる出てくる東雲学院芸能科の中堅グループたち。

 頭を下げた天皚と、顔を見合わせてから小さく「頑張って」と励ました。

 

 

「レッスンスタジオは二つあんねん。隣には収録スタジオはあっち。その隣が仮眠室と、反対側が給湯室と簡易キッチン。倉庫がわりの物置。視聴覚室と自習室と資料室と個室が二つ」

「ひ、広い……!」

「まあ、古参の大手三グループはワンフロアが与えられとるからなぁ。ちなみに四階が魔王軍で、五階が勇士隊やで。一階、二階は中堅や新規グループの共有のでっかいレッスンスタジオや更衣室やロッカールームがあるなぁ。基本的に星光騎士団と魔王軍と勇士隊のフロアに、他グループの子を勝手に入れたりしたらあかんよ。新曲のデータとかあるからなぁ」

「そうなんですね」

 

 ちなみに入室にも『イースト・ホーム』のグループホームを使うらしい。

 星光騎士団のグループホームメニュー欄にある『入室ロック解除』のQRコードを、各部屋の入り口のロック画面にかざして読み込ませないとロックが解除されないという。

 

「ハイテクだぁ……」

「ハイテクやろぉ? むかーしファンの子とか勝手にロッカールームに入り込んで、メンバーの私物盗んだりしてたんやて。やからエレベーターホールにも防犯カメラあんねん。女に誑し込まれた他グループメンバーが、魔王軍のメンバーの私物盗んで転売とかしとったりもしたからなぁ」

「ひ、ひぇ……!?」

「やから気ぃつけ? 自分だけじゃなく先輩後輩にも迷惑かけてまうこともありえるで」

「き、気をつけます」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る