宴会
「ここがチャット欄です。メンバー全員プラス凛咲先生が入っているメインチャットがここ。今挨拶してしまいましょう。俺がみんなに紹介しますね」
「え、あ、は、はい」
ぴこん、と綾城がチャット欄に『新メンバーが加入しました。第二騎士団に一年A組の新入生、音無淳くんが加入決定です。明日直接紹介しますね』と入れた。
すぐに淳も『初めまして、一年A組の音無淳です。どうぞよろしくお願いします!』と発言する。
すると、三個のスタンプがポポポン、と並んだ。
「
「は、はい! わかりました!」
「まあお前、熱意があるみたいだから大丈夫だろうけどな」
「はい! も、もちろんです!」
にゃひひ、と笑う凛咲。とても悪い顔だ。
それよりも、本当に――
「俺、あの……ほんとに……か、加入、オーケー……なん、ですか?」
「え? はい。ちょっとまだびっくりしてます?」
「それは――だって、バトルオーディションで、落ちてますし……」
「ああ、それは基本的にどのグループもよほどハイレベルな子以外は総落とししちゃうんですよ。そのあと希望のグループに改めて加入希望を出してくれるかどうかで本気度を見たりしますし……こうしてちゃんと対面の面接や試験をするのが例年の取り方なんです。……お友達に教えてもいいですけれど、魔王軍も勇士隊もウチと同じく二軍以下から開始ですし練習に来なければ強制脱退ですよ」
「き、肝に銘じます」
綾城はニコニコ「ちゃんと練習に出ればいいんですよ。休む場合は連絡があれば大丈夫ですし」とフォローする。
一切脅してない。
けれど、やはり緊張はまだ抜けない。
「それじゃあ、明日。また待っていますね」
「はい!」
腹の底から声を出すと、綾城が柔らかく微笑んだ。
そのあまりの柔らかな微笑みに「え? 天使?」と真顔で混乱した。
さすが地上波テレビデビュー済みの、ツルカミコンビ並の知名度を誇る星光騎士団現騎士団長。
(すごい……背後に無数の花が見えた……)
ついでにキラキラとした輝きも見えた。
これが正真正銘本物のアイドル。
舞台俳優の中にもキラキラした人はいるけれど、それは板の上でだけだ。
普通に話をしているだけなのに、話しているだけなのに顔面の良さに圧倒される。
「……本当に……受かったんだ……」
廊下に出て、とぼとぼ歩きながら練習棟のエレベーターホールに向かう。
スマートフォンを何度も見る。
ある。
星光騎士団のメンバーページ。
家に帰ってから、受験勉強している妹の部屋の扉を軽く叩く。
「智子ちゃん、智子ちゃん」
「はーい、おかえりー、お兄ちゃん。どうしたのー?」
「星光騎士団、受かった。第二だけど――」
「え……? え? え? え? え? ……え? も、もう一回言って?」
「星光騎士団、第二騎士団だけど、受かったよ!」
「うわああああああ!」
妹の雄叫び。
両親が共働きでなかったら怒鳴られそうな声量が出た。
その夜、両親が帰ってきてから報告すると、両親も妹のような悲鳴を上げて大喜びしてくれる。
両親もまた、我が子が変質者に襲われかけた時、助けてくれた神野栄治の大ファン。
つまり、家族全員で神野栄治を推しているのだ。
その神野栄治が所属していた東雲学院芸能科、星光騎士団に所属できたことは合否発表以来の大ニュース。
「なんでもっと早く連絡してくれないの! ケーキ買ってきたのに!」
「パパもお惣菜持ち帰ってきたのに!」
「ご、ごめん。でも、冷蔵庫の中の材料で結構たくさんご馳走作っちゃった」
「お兄ちゃんとチコが頑張ってご馳走作ったから乾杯しよ! ケーキは明日!」
と、淳と智子はジュース。
両親はすぐに着替えて食卓にやってきた。
両親の席にはビールとワイン。
「それじゃあ、お兄ちゃん! 星光騎士団入団おめでとおおお!」
「「おめでとう、淳ー!」」
「ありがとう!」
始まった臨時宴会。
共働きの両親の分まで家事をある程度できる淳と智子。
なにより星光騎士団はツルカミコンビが無駄に料理上手だったことで、バレンタインとホワイトデー、ハロウィンとクリスマスにお菓子を作って先着百人にお菓子配布サービスを行うのが定着している。
そのため歌、ダンス、パフォーマンス、殺陣の他にファンサービススキルと料理スキルも必要。
さらにツルカミコンビは家事スキルも高い。
鶴城は家族が多く、休みの日は「普段任せきりの家事をやっております」と言い放つ。
音無家推しの神野栄治は「じいちゃんと犬と三人暮らしだから、まあ、家事はやるよね」と気怠そうに言う。
ちなみに神野栄治が飼っているのはブルテリア。
闘犬として生まれた犬らしく、頑固で筋肉質。
愛嬌があり、ブサかわいいと定評のあるのぼーとした顔。
SNSに頻繁に写真があがっており、音無家もいつか犬が飼えれば……と思ったが、両親共働きで兄妹も学校で昼間は留守。
さすがに可哀想、ということで二人が大学を卒業するまで我慢することに家族会議で決めている。
「ねえねえ、どんな感じだったの?」
「なにが?」
「面接! お兄ちゃん、声変わりで歌が思ったように歌えないんでしょ? 説明したらわかってもらえた?」
「うん。入学してすぐのバトルオーディションはハイスペックな生徒がいないか見るのが目的、だったみたい。ちゃんと試験を受けて、神野栄治様ファンですって言ったらわかってもらえて加入を認めてもらえたよ!」
「やっぱり騎士団長の珀様が面接を担当してくださったの?」
「うん! めちゃくちゃオーラあって、天使が舞い降りたのかと思った」
「「やっぱり~~~」」
母と智子がうっとりと賛同する。
神野栄治様は殿堂入り。
星光騎士団箱推しの母娘は今、綾城珀様が最推しなのだそうだ。
ガチ恋勢になることはない母娘は「彼女持ち」宣言している綾城には「幸せになれよおおおお!」と泣きながら叫ぶタイプなので、なんの問題もなく推している。
「珀様、マジ顔が顔面宝具だもんねぇ」
「自然にあんな美しい顔が生み出されたという奇跡。いや、うちの淳ちゃんももちろんイケメンだと思うけどね? それでもやっぱりあの子はなんかこう、生まれながらのアイドルオーラがあるわよねぇー!」
「わかるぅー! しかもお菓子作りもめっちゃ上手いよねぇー! 去年のハロウィンで勝ち取ったかぼちゃケーキ、ほんとに美味しかったぁ~! 笑顔が爽やかだし彼女さんラブを隠さないところが逆に彼氏力高くてマジ推せる~!」
「それなぁー!」
テンション高。
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