ゲームスタート〜音無淳〜(2)
部屋に戻ってから、設定を始める。
箱から取り出し、説明書を見ながらコードと外付けハードディスクを繋げてパソコンと接続する。
ゲームはパソコンが重くなるのでソフトで。
幸いVRフルフェイスマスクと同梱で入っていた。
パットを無線で繋げてから、椅子に座ってVRフルフェイスマスクを着用する。
ダウンロード時間を待ってから、初期設定も行い――ついに『ゲームスタート』欄が出た。
「ゲームスタート」
音声入力で開始した『
ゲームはあまりやってこなかったが、最初にやることはわかる。
「キャラクター作成か。うーん、どうしよう」
やはり女の子だろうか?
身バレしないためにも。
フルフェイスと3D技術を駆使してスキャン、リアルの姿をコピーしてキャラクターの作成が可能、という項目もあるがさすがにそれはないだろう。
「――あ、音声も変更できるのか……」
歌をメインにするゲームだから、音声も変更可能。
ランダムに音声生成を推奨、とある。
もちろんリアルの歌声をそのままマイクに乗せることも推奨、とのこと。
しかし、性別を変えてゲームをするのなら音声生成必須だろう。
どうせゲームするのならやはり女の子のアバターがいい。
(智子とは違う。なんかこう、栄治様っぽい色気のある年上の美人。さすがに理想詰め込みすぎかな? 髪色とか目の色はランダムにしちゃおうかな……あ、悪くない。少し目を半目な感じのダウナー系にして……うん、似てる、可愛い。いや、栄治様は唯一無二であって可愛いよりも圧倒的な“美”って感じの存在であって正義の
と、言い訳しつつキャラクター作成は完了。
次は名前。
(どうしよう? さすがに本名はまずいし……)
おとなし、じゅん。
自分の名前の中から女の子の名前でも違和感のない部分に加工を、と考えた結果――
[キャラクター名 シーナ]
決定しますか?
→はい
→いいえ
うん、と頷く。
容姿はゲーム開始後でも変えられるので、これでいこう、とスタートボタンを押した。
虹色の光の中、急に白い光になる。
光が開けると、真っ青な空に音符が浮いている光景。
「……なにあれ」
ダサ。と、言いかけてやめる。
その代わり、地上に視線を移す。
円形の広場。近くには町。
いわゆる始まりの町というやつだろう。
ゲームを始めた時特有の、ワクワクした感覚に自然と口元が緩む。
「あ」
シュン、と隣に突然ポニーテールの美女が現れた。
夏虫色の髪と、金糸雀色の瞳。
「新人さん?」
「え? あ、は、はい! 初めまして!? ジ……シーナといいます!」
少しだけ、装備が違う。
美人なお姉さんに声をかけられて、思わず本名を名乗りそうになる。
お姉さんは「俺はエイナ」と答えてクスッと笑う。
「……え?」
「アバター女にしてるだけで中身男だし?」
「え! そうなんですか!?」
それをしれっとバラしてしまうタイプの人!?と驚いてしまう。
声は女の人のもの。
女にしては低めで通る声。
これも音声生成で作っているのか。
「じ、実は俺も……」
「あ、そうなの? まあ、男より女のアバターの方がしっくりくるゲームだよね」
「ですよね」
男の歌声っていってもねー、と言って笑い合う。
「……って言っても俺は声変わりのせいで今上手く歌えなくて……」
「あ、そうなんだ? 声変わりはしょーがなくない?」
「そうなんですけど……そのせいで試験に落ちちゃって……」
「アイドルかなんかの試験?」
「はい。俺、東雲学院っていうところの芸能科に受かったんですけど……」
「ああ、あそこグループ加入必須だもんね。公開バトルオーディションでも上手くいかなかった感じ?」
「そうなんです!」
さすが、全世界公開されている東雲学院芸能科のバトルオーディション。
意外に知っている人がいるらしい。
「あ、お詳しいんですね?」
「あー、まあ……毎年配信見てるし」
「そうなんですね! ありがとうございます!」
と言うと目を丸くされる。
なんで不思議そうな表情をされているのかがわからなくて、首を傾げて見上げた。
「……君は素質あるんじゃない?」
「え?」
「アイドルやりたくて東雲の芸能科に入ったの?」
「あ、いいえ、俺はミュージカル俳優志望で――」
「あー、じゃあ星光騎士団か勇士隊とかの大手がいいね」
「はい! 星光騎士団志望です!」
話しやすい人だな、と思いながら広場を出る。
星光騎士団志望というと「ふーん」と興味なしそうにしつつも、口元が緩んでいた。
まさかゲーム開始してすぐに東雲学院芸能科アイドルを知っている人に遭遇するなんて――と思ったけれど――
「もしかしてエイナさんも“
「いや、全然」
「否定が早い!?」
鶴神――東雲学院芸能科、星光騎士団十二代目騎士団長&副団長。
おそらく歴代でもトップの人気を誇る、淳も最推しの“鶴城一晴”と“神野栄治”のコンビ名である。
現在は星光騎士団を卒業して、それぞれモデルと俳優に戻っているが、なんと事務所は同じ。
さらに鶴城一晴は神野栄治のファンを公言しており、なんなら「同担拒否です」と本気の目で言っている厄介ファン。
そのため今だに根強い“鶴神”を愛する層が存在。
なにを隠そう、淳も立派な鶴神ファンである。
そして、『
なので、鶴神好きがプレイしていると思ったのだが――
「ファンなの?」
「はい! 俺の通っていた劇団の先輩が鶴城先輩で、純粋にリスペクトしているのが神野栄治さんなんです! あのストイックなところ、本当に憧れです!」
「……ふーん」
まんざらでもない表情。
けれどはしゃぎすぎた。
けほけほ、と咳が出る。
「大丈夫? 声変わり中なら無理して歌の練習とかしなくてよくない? 歌の練習のためにこのゲーム始めたんでしょ?」
「あ、はい。でも……歌わないと感覚とか忘れると思うし、それでなくとも歌は苦手なので」
「え? ミュージカル俳優志望なのに?」
「そうなんです。振り付けと演技に頭が持っていかれ気味になっちゃって!」
「ああ、難しいよね。ミュージカル。セリフと演技だけでも大変なのに、掛け合い以外にステージの配置とか歌やダンスまで入ってきて頭パンクしねーのかなって心配になるよね」
「そうなんですよ。でも、楽しいから……」
この人わかってる人なんだ、とエイナを見る。
結局そういう話になってしまう。
しかし、ゲーム内でリアルの話をするのは程々にしないと。
(あ、でも俺結構喋っちゃってる)
思いきり東雲学院芸能科の生徒と暴露済みである。
「あ、あの、俺が東雲学院の生徒っていうのは……」
「ああ、うん、言わないよ? リアルの話はこのくらいで、一緒に遊ぶ?」
「いいんですか!? 俺、今さっき始めたばっかりだから助かります!」
「って言っても俺もリリース日から三回くらいしかログインできてないんだけど……」
「そうなんですか? でも、すごいです! リリース日から遊んでるなんて!」
「まあ、歌の練習になるからって無理やり始めさせられたというか……」
え、とエイナの顔を見ると不愉快丸出し。
あ、触れてはいけないやつだな、と察した。
「だからまあ、俺もほぼ初心者。それでもシステムとか説明できるよ」
「よ、よろしくお願いします!」
「うん、じゃあとりあえず軽く近くの森から行ってみようか」
「はい!」
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