第2話 こわいゆ…現実だぁ!?
どうも皆さま初めましてイザベラ・スターレットと申します!!
幼い頃から燃え盛る悪夢に苦しみ、炎恐怖症を発症している公爵令嬢です。
赤ん坊のころから夜泣きがすごくて双子の兄もつられて泣くほどでした。子供は釣られて泣く。仕方がないね。
どうしてこんな夢を見るのかと悩むこと五年。自分が火災で人生の幕を閉じたことを思い出しました。
ななななんと! 前世の死因をずぅーっと夢に見ていたのです!!
そりゃ焼死とかトラウマになるわ―――!! 地獄の責め苦かと思ったわ―――!! 普通忘れるモノだけどね―――!?
おかげ様で十八歳の現在もばっちり火が怖い。蝋燭の火もそこから燃え広がるんじゃないかと思ってとても怖い。畜生、料理の出来ない身体にされた。公爵令嬢だから基本厨房に入らないけど! 前世料理好きだった身としては辛い!!
ちなみに前世は奇跡も魔法も夢もない情報社会を生きるOLでした。一般市民の記憶が強すぎて五歳児の頭を乗っ取っちゃった気がする。
五歳児の記憶もあるから融合なんだろうけど…炎恐怖症もあって挙動不審な公爵令嬢の出来上がり。泣いていい? …泣いていい気がするなぁこの状況!!
見るからにヤベェ部屋の真ん中に縛り付けられているこの状況!!
自室でまったりお茶をしていたはずなのに、気付けば正方形の薄暗い部屋にいた。
窓はなく、部屋を照らすのは壁に掛けられた燭台。部屋いっぱい使って床に魔法陣が描かれ、その中央にドンと椅子を置き、そこに私が縛り付けられている。
クトゥルフかな?
今からシナリオ始まっちゃうのかな?
開幕儀式で犠牲になるNPCが私です?
何それ嫌です!!
あと蝋燭に囲まれるの地雷です火を消してください!!
怖気づいてビクビクしていたら背後から扉の開く音がして、誰かが部屋に入って来た。
扉が無いなーって思ったら背後にあったのね。縛られているから振り返れない。誰が入って来たかもわからない。
その人は壁伝いに、魔法陣の外側をぐるっと回って私の前に回り込む。
高いヒールの音。気高く優雅な立ち姿。一般市民の知識に支配されていた私が淑女として見本にしていた女性がそこにいた。
キャサリン・スターレット公爵夫人。
絹糸の様な金髪をゆったりと結い上げて、泉を写した様な怜悧な碧の目をした貴婦人。
目元だけを見ると怒っているように見えるけれど、ふっくらと婀娜っぽい口元が微笑むだけで妖艶さを醸し出す社交界の華。
私、イザベラのお母様。
そのお母様が、魔法陣の外で、恍惚のヤンデレポーズをしている。
く、黒幕だ間違いない! この状況を生み出したのはお母様だ!!
下手人は他にもいるだろうけど主犯で間違いない!! だって明らかにヤバイ儀式の生贄みたいになっている我が子に向ける顔じゃないもん!!
「お母様、なんですかこれは。放してください!」
「大丈夫、すぐ終わるわ」
うっとり笑って言われたけどこれすぐ終わっちゃいけない奴では?
「一体何をするおつもりですか」
「姉様の記憶を呼び戻すの」
「記憶…?」
「ええ、私が未熟なばかりに姉様は不完全…でも新しい呪いを教えてもらったの。忘れた記憶を甦らせる呪いよ。産まれる前の母の胎の記憶まで遡るのですって」
「また隣国の呪いに影響を受けて!」
実は社交界の華と呼ばれるほど華やかなお母様、ヤバイ宗教に嵌まるが如く、呪いの儀式にご執心だ。
ご本人に呪いに使用する力…福音と呼ばれている…はない。
そもそも呪いとは隣国の物で、我が国は魔術や呪いに否定的。
その所為か周辺の国より科学が先行していた。前世先進国情報社会出身としては物足りないが、生活に不自由しない程度の化学が繁栄している。
電球とかね! あるんですよ! 燭台を使わなくてもスタンドランプが開発済みなんですよ!! もう燭台は時代遅れ!!
だからこの部屋から撤去してくれ早急に!!
炎怖い!! 空気の逃げ道が少なそうな部屋で蝋燭を使わないで!! 一酸化炭素中毒も怖いです!! 煙がー!!
私個人としては、福音とか魔力とかそういう能力があればロマンだと思う。でも魔術や呪いに嵌まっているお母様が独自に調べたところによれば、私たちは何の力も持っていないことがわかった。
そういうの個人で調べられるんです。ちょっとしょんぼり。
ちなみに双子の兄であるアシュトンはそういった力を信用しておらず、検査も嫌がったのでわからない。
ロマンはあると思うけれど、母の傾倒ぶりを見るに兄の嫌がりようも否定できない。
そう、行き過ぎた呪い信仰っぷりで娘を椅子に縛り付けるような行動をとっているのだから! 一体何をしようというのかね!!
「お母様! 私は別に忘れた記憶などないのでこの呪いには意味がありません!」
「いいえ、姉様の記憶を忘れているのだもの。きっと効果があるわ」
効果は見込めませんってば!! 昨日食べた夕飯何だっけとかその程度ならあり得るけどお母様が狙っている効果は見込めませんってば!!
お母様は、私にお母様の姉…若くして亡くなった伯母の面影を重ねている。
むしろご本人だと思っている節がある。自分で産んだ娘を、姉の生まれ変わりだと本気で信じている。
母の姉にして私の伯母、エリザベス・スターレット。
現国王クレイアン陛下の元婚約者。
火災に巻き込まれて焼死。享年18歳。
豪奢な巻き毛は煌めく黄金。湖を写し取ったような碧の瞳に、白磁の肌。桃色の頬にふっくらとした薔薇色の唇。
女神の様に美しく、宝石のように眩く、天使のように清廉な人。
お母様は事あるごとに姉のエリザベスをそう語った。
だから私は、双子の兄は、産まれる前に亡くなっている伯母の存在を当たり前のように知っていた。
むしろしばらくはお亡くなりになっていることを知らなかったわ。そこにいるように語られたから。
そしてお母様は、私イザベラが、そんなエリザベスに瓜二つ。まさに生写しであると言う。
美女に瓜二つとか。うちの子美人―――って言ってくれるのは嬉しいけれど思い込みの激しいお母様。身内贔屓でも、お母様が絶世の美人と謳う伯母に似ていると言われるのは悪い気がしなかった。
何せお母様がことあるごとに褒めるので。そんな伯母に似ていると言われれば、悪い気はしない。
悪い気はしなかったけれど、それが年中続くと流石に気付く。
お母様、ガチで
本気で
私が前世の死因を夢に見るばかりに、同じ死因の姉の生まれ変わりだと確信しちゃってない??
そんでもって、魔法や呪いの儀式で前世の記憶を甦らせる事が出来ると信じ込んでいる。
今まで簡単な催眠術みたいな儀式を私に試しまくっていたけれど、効果が見えないからとうとう大掛かりなことを始めてしまったらしい。
流石にここまでされたことはない。
昔から私をあまり外に出さず、
というかこれから何が始まるのか不安しかないわ。
ちょ、ホント何する気ですかお母様。
たとえ儀式が成功しても私が思い出すのは仕事だるーいって言いながらポテチ食べてたズボラ女子の詳細という毒にも薬にもならない記憶ですよ!!
我が子が姉の生まれ変わりだと信じている人に、違います前世は別世界の一般市民ですなんて言っても信じてくれるわけがない。むしろ悪化しそう。
私はうきうきと持参した松明に火をつけるお母様を見て―――何してるんですなんでここで火をつけた!?
というか松明持ってたん!? 暗くてわからなかった!! わかりたくなかった!!
いかんやばいメラメラ目の前で燃えている炎から目が離せないし呼吸が…っ!
「お、おかあさっ」
「怖いわね。ごめんなさいね、でも姉様が思い出す為なの。もう手段は選んでいられないわ」
お母様の白い顔が炎に赤く照らされている。さっきまでウキウキしていたのに、今は嫣然と微笑んでいる。
いつも通りのお母様。
だけどその瞳は燃えていた。
「姉様が王家に嫁ぐなど…っ王家に嫁ぐなどあってはいけないのよ!」
姉様じゃないです娘です。
そんな場合じゃないけど突っ込ませて。私は娘。アイアムドータ。エリザベスじゃなくてイザベラ。
そう私はイザベラ・スターレット。公爵家の娘。
―――クレイアン陛下の御子息、アーミアン王太子殿下の婚約者。
実は私未来の国母なんですよ!! 私が!! おかしくない!?
ハイハイアリキタリとか思ってません!? 私は思った!! 令嬢に転生したら王子様とハッピーエンドって鉄板ネタだよね!!
王子様って王家の王子様でなくても運命のあの人だったら王子様でいいと思う!! 私の場合ガチの王子様だけど!!
ビークールビークール。落ち着くんだ私。現実逃避しても目の前の炎は消えないぞ。
心の声は滅茶苦茶騒音だけど現実では呼吸困難に陥っています。過呼吸かな。冷や汗凄い。
お母様は王家を毛嫌いしている。
公爵家なのに。王家に一番近い血筋なのに―――王太子の婚約者だった
詳しい内容はよくわからないけれど、
火災は飲食店での事故と言われているけれど、
事故と言われているが、お母様は王家か
だから、そんな王家に娘―――いいえ、エリザベスの生まれ変わりが嫁ぐなんて許せない。
大前提として私
政略結婚ですけど私殿下の事普通に好きなので出来れば祝福して欲しいなぁ!!
普段愁いを帯びたお綺麗な顔が私を見て幸せそうに綻ぶの尊いから!!
細身で美麗なのにぎゅっとされると男性的ってわかるの心臓に来るから!!
何気に幼少期からの付き合いですから!
前世の記憶込みで初恋の人ですよ!!
娘は青春してますお母様ぁ!!
だからその炎はしまってくださらなーぁい!?
「姉様は王家などに渡さない!姉様は今度こそこの公爵家を継ぐのよ!」
くださらなーぁあい!!! 悲しみ!!
あと今度こそって言うけど、たとえ私が
私の双子の兄、アシュトン・スターレットが次期公爵としてしっかり勉強中だ。
実に優秀な片割れはアーミアン殿下の覚えも目出度く、何なら幼い頃から交流のあるお友達。
ぶっちゃけアシュトンとアーミアン殿下が仲良しだから私も仲良しになれた。
公爵家の人間として、立派に成長しているアシュトン。本来なら誇るべきことなのに、お母様はアシュトンを毛嫌いする。我が子だって言うのに、親の仇かってくらい嫌いぬいている。
曰く、お前が一緒に産まれて来たから姉様は生前の記憶を忘れてしまっている、とのこと。
意味不明!! 理解不能!!
お母様はアシュトンにとことん冷たい。アシュトンがどちらかというと父親似…ふわふわしたブラウンの髪に、猫の様な青い瞳で
理不尽。お父様が後継ぎとしてアシュトンを扱っているのが救い。
当然の事なのにそれが救い。
幼い頃からそんな扱いだったから、アシュトンもお母様に対して辛辣だ。お母様が狂信者化する度に私を助けてくれるから、私にとっては救世主。
悪夢に魘される私の手を握っていてくれたりしたこともある。
普通に好き。アシュトンしか勝たん。
こんなにいい子なのに何故お母様は…狂信者だからですね!
まあとにかく公爵家の将来は安泰。後継ぎの嫡男は優秀だし、片割れ長女は王太子殿下の婚約者。仕事人間のお父様は仕事に真摯なので不正に手を出していないし…不安要素はお母様一択。
そう、狂信者ムーブがやば過ぎる。
今現在こんな感じでね!
「さあ姉様! お目覚めになって!」
いやこれはどちらかというとお休みなさいしちゃいますって! 永久に!!
これ本当に記憶を遡る儀式!? 何がどうなっているかわからないけど松明を押し付けられそうになっていることはわかるよ!? 思い出すらしい母親の胎の中って前世でなくて来世では!?
この状態でその松明でどこを燃やそうというのかねここ室内やぞ火災報知機はどうしたホウチキツケテーッ!! そもそもなかった!! 報知器なかった!! そこまで科学進歩してませんでしたね十年後に期待します過去じゃなくて未来を見ましょう私も情報提供頑張っちゃうだからやめてそれを近づけないで熱いの赤いもえちゃっあっつぅううい!!
誰かお水くださあああああああい!!!
「「イザベラ!」」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます