第27話
誰と親しくしているか、モップの件以来気をつけているから、三知村さんとのことは誰も知らない。
希依はそう自分に念を押してから、胸の疼きを感じた。
三知村さんとのこと、なんて。
一体、何を期待してるんだろう。
自宅に誘われたのは、三知村さんが飼っている珍しい犬を見に行くだけの話。
どこかのカフェか公園で見せてもらえればいいと思ったが、そのブリュッセルグリフォンという品種の犬は、外に出すことができないらしい。
二人きりで会ったこともない男性の、一人暮らしの部屋を訪ねるのは躊躇したが、三知村さんの、
「殿村さんなら、マユミはすぐ懐《なつ》くだろうな」
と言いながら、やわらかい笑顔を向けられて以来、見てみたい、が、三知村さんと親しくなりたいという気持ちに変わっていった。
それにしても、犬にマユミだなんて、多分、別れた彼女の名前だろうと思ったら、案の定、三知村さんは、ちょっと寂しげに呟いたのだ。
「初めて、僕の部屋に来た女性の名前なんだ」
もし自分も付き合って別れたら、三知村さんは、犬に「キイ」とつけるのだろうか。
そんな埒もない想像をしてしまい、希依は慌てて首を振った。
付き合って別れたらなんて、そんなことあり得ない。
ただ、犬を見せてもらうだけ。
三知村さんは自分などに興味はないのだ。
三知村さんが、あうると曽我さんの間で板挟みになっていると噂が流れたとき、希依は特に興味を持たなかった。
いや、興味を持たなかったというより、信じなかったのだ、その噂自体を。
三知村さんが、曽我さんのような年配の女性と何かあるなんて想像もつかなかったし、ましてや、あうるがからんでいる話なら――。
あうるの話は大半が、嘘。
希依はそう思っていた。
いまでも、その考えは変わらない。
もし、あうるの失踪を調査しているあの探偵社の堀井という人が、三知村さんをめぐる三角関係を信じたら、訂正してやらなくてはと思う。
「あの――おつり、いただけません?」
レジ前に立つ初老の婦人に声をかけられ、希依はうろたえながらレシートを見直した。
瓶詰めー失踪者の物語 popurinn @popurinn
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