第20話

 友成興業の伊坂は、朝イチの仕事を終えたあと、一旦事務所に戻るということで、堀井は瀬田とともに、事務所で待たせてもらうことになっている。


 昨日と同じ事務のおばさんがお茶を淹れてくれ、事務所の片隅の椅子に座って伊坂を待った。


 伊坂は、10時過ぎに戻ってきた。事前に話を聞いてくれていたようで、堀井たちを見ても驚かない。

 ペットボトルの水を片手に、堀井たちのところへやって来た。


「モールの仕事のことを聞きたいって?」

 伊坂は、水を飲みながら、言った。


 モールで知り合いはいるのかと訊くと、

「いないよ」

と、返ってきた。特に隠していることもなさそうだ。


「我々は、彼の妹さんを探しているんですが」

と、堀井は瀬田を見る。

「彼女が行きつけにしている雑貨店が、あのモールにありまして、調べているうちに、モールで働いていた女性の一人が失踪しているのを知りまして」


 伊坂が訝しげな目になった。


「菊川あうるさんという方で」

「それが、俺になんの関係があんの?」

「いや、収集に行かれたとき、何か、変わったこととか、不審に思われたことがあれば、と」


 うーんと伊坂は、首を傾げた。


「わかんないね。大体、時間に追われて収集してるからねえ。まわりは見てないんだよ」

 

 堀井は、そうでしょうと相槌を打つ。


「モールでの収集場所はいくつもあると思うんですが、従業員の休憩室に近い場所も集めるんですよね?」

 殿村希依の話によると、休憩室にいるとき、あうるは近くでゴミ収集をしていた業者を見ていたらしい。


 ああ、あそこはと、伊坂は、ツナギの胸のポケットから煙草を取り出した。


「あそこは俺の担当じゃないから」

 事務所の中は禁煙だから、取り出した煙草を指で持て遊ぶ。


「担当が違うんですか?」

「あそこは、えーと、夏木だ」

「その方がいつも?」

 伊坂は頷く。


「その夏木さんとお話できるでしょうか」

「あいつ、事故って入院してるよ。ね、道枝さん」

と、伊坂は事務の女性を呼んだ。

「夏木、まだ近藤外科にいるよな?」

 迷惑そうに、女性は頷いた。


「近藤外科というのは――」

 夏木という男性にも、是非とも話を聞きたい。

「モールのすぐ先。知らないの? でっかい病院だよ」


 友成興業を出ると、若干、陽が陰っていた。朝はよく晴れていたのに、西に黒い雲がある。


「伊坂は関係ないんですかね」

 瀬田が残念そうに言った。

「いや、まだわからない。誰がどんな情報を持っているか、普通、一度や二度の聞き込みではわからないもんです」

 聞き込みなどと、警察官のような言葉に、堀井は苦笑した。自分は、どこまで行っても警察官だと思う。


「今日でわからなかったら――」

 今日中にはさなりを見つけるのは無理だ。

「俺はどうしても東京に戻らなきゃなんないし、堀井さんへの依頼も――」

「わかりました」

 本当は、今粘れば突破口につながる気がするが、強制はできない。調査費を出すのは瀬田なのだ。


「仕方ありませんね。瀬田さんも、そう何日もお仕事を休めないでしょう」

 すると瀬田は、ばつが悪そうに目をこすり、

「チケットを買ったコンサートが明日あるんで」

 堀井はそうですかと返すしかなかった。

 


 

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