第17話
「そりゃ、まずいでしょ」
瀬田は続けて言い、殿村希依は、ううっと声を上げて泣き出した。
「まあ、まあ。顔を上げてください」
堀井は瀬田に、やめなさいよと目配せした。
「その辺りの事情を聞かせてください。もしかすると、あうるさんの失踪に関係するヒントが得られるかもしれない。
目を上げた殿村希依は、泣きながら頷き、
押し付けられるように、高価な化粧品を渡され、使ってみたところ効果抜群で、返すことができなかったこと。 その化粧品が、盗まれたものだと薄々感じていたのに、返せなかったこと。
その気持ちに乗じたように、あうるが次々と化粧品をくれたこと。
「あうるはいけないことをしてましたが、わたしだって――片棒を担いだって思われたっておかしくない。だから、警察に話せなくて……」
「お気持ちはわかります」
あうるという女性は、なかなかずる賢い性格だったようだ。殿村希依なら、きっと高額化粧品で口をつぐむと踏んで味方につけたのだろう。
「あなたのほかに、あうるさんが化粧品をあげていた人はいませんか?」
いれば、トラブルが発生したとも考えられる。
「わたしのほかにですか? さあ、どうなんでしょう」
「あなたは後ろめたい気持ちでいた。それは、いつか近いうちに、あうるさんから化粧品をもらうのを断るつもりだったからでしょう?」
堀井は殿村希依の後ろめたさを払拭するつもりで、続けた。
「だが、そうじゃない人もいたかもしれない。もっと高価な品を要求したり、もっと頻繁に持ってくるように言ったかもしれない」
殿村希依の目に、力が戻ってきた。
「そういえば、彼女、怯えてました」
「怯えて?」
「ええ。なんか、いつも見られている気がすると」
「どこでですか」
「どこって――それははっきりとは」
「いつ、そう言っていたんですか?」
殿村希依は、首を傾げた。
「あ、お昼休憩のときです」
「どうしてそんなこと、言い出したんですかね。なんか、きっかけがあったんじゃない?」
瀬田が割り込んできて、殿村希依は怯えた目を向けた。
すっかり、瀬田は嫌われたようだ。
「そういえば――」
殿村希依が遠くを見るように、顎を上げた。
「清掃業者の男性を見て、嫌な目つきだって」
えっと思わず呟いて、堀井は瀬田と目を合わせた。
「清掃業者だ、やっぱりそうだ!」
瀬田が堀井に言う。
堀井も、鉱脈を掘り当てた気分になった。
だが、早計は禁物だ。
「あの――あの清掃業者の人が、あうるの失踪に関わってるんですか?」
殿村希依の唇が震える。
「このモールに来る業者でしたか?」
堀井はノートにペンを立てた。
「そうだと思います。あうるは何度も見かけたような口ぶりだったから」
モールの管理事務所に行き、契約している清掃業者を調べる必要がある。
もし、その業者が、さなりが失踪した日に携帯ショップに来ていた業者と同じなら――。
堀井は、清掃会社で話を聞いた、伊坂という名の、たくましい身体をした男を思い返した。
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