第16話
「もう一杯コーヒーを如何ですか」
堀井は声をかけた。ぐいぐいと
「あ――飲みます」
「俺、買ってきます」
と、瀬田が立ち上がる。
カウンターに向かう瀬田を、殿村希依はじっと見つめた。
瀬田は二人分のコーヒーを買ってくると、殿村希依に渡し、もう一つを堀井の前へ置いた。
「ありがとう」
瀬田は軽く首を振る。
堀井はコーヒーをひと口飲んでから、ノートに目をやった。
「先ほど、あうるさんとは違うとおっしゃった。それは、どういう意味ですか」
「――それは」
きっと何かを隠しているはずだ。堀井はそれを探ろうとしている。
「いままでお話を聞いてきて、あうるさんとあなたが違うタイプだというのは感じています。あうるさんはイジメをしていたようだし、不穏な彼もいた」
殿村希依は深く頷く。
「まだお会いしたばかりでこんなことを言うのはなんですが、わたしから見て、あなたはあうるさんと正反対のタイプに見える。理由もなく人を
ふっと、殿村希依はため息を漏らした。
「まして万引きなんて、ですよね? あなたはおそらく、どの角度から眺めても人に後ろ指を刺されることをしている人じゃない」
殿村希依の喉仏がごくんと動いた。
「違いますか?」
確信があるわけではなかったが、殿村希依には、何か人に知られたくないことがある。それは、あうるに関することかもしれない。堀井は先を続けた。
「もし、あうるさんが万引きしているのをあなたに知られたら、すごくまずかったでしょうね」
「え」
殿村希依の目が見開かれた。
万引きに関することだ。
堀井は攻めるべき場所を得たと思った。
「あなたなら、あうるさんの万引きを止めさせることができたかもしれない」
そして、堀井は、瀬田に顔を向けた。
「瀬田さんもそう思いませんか。いい友人がいれば、人は変われる場合がある」
瀬田が戸惑った目を返してきた。堀井が何を言わんとしているのかわからないのだろう。
「あなただったら」
堀井は、殿村希依に顔を戻した。
「あうるさんが心を入れ替えるお手伝いができたかもしれない。おそらく、あうるさんもそう思っていたのかもしれませんね。だから、あうるさんはお母さまにあなたのことを友人だと話した」
「わたしなんて……」
みるみる殿村希依の瞼に涙が膨らんだ。
「わたしなんて、そんな立派な人間じゃないんです」
「そんなことありませんよ。あうるさんが見つかったら、まずあなたに連絡をしてくるような気がします」
いじわるかもしれないが、彼女の考えとは反対であろうことを、殊更、堀井は言い続ける。
「それは、ないです!」
目じりの涙を拭いながら、殿村希依は強い口調で言った。
「わたし――わたし、あうると変わりないんです」
「どういうことですか?」
「万引きはしてませんけど、あうるから化粧品を――もらっていたんです」
これだったのか。
堀井は内心、自分の話の運びを喝采した。
「もらっていたというのは、あんた、万引きされた商品と知っててもらってたってこと?」
瀬田が言い、殿村希依は頷きながら、両手で顔を覆った。
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