第15話

「あうるは万引きしてたんです。そのこと、わたし、知ってたのに警察に言わなかった……」


「万引きかあ」

 瀬田が呟いた。

「ちょっと待ってください。警察に言わなかったておっしゃいましたが、あうるさんの失踪が事件性ありとみて、警察が捜査しているんですか?」

 堀井の質問に、殿村希依は目を見開いた。


「あうるが失踪したからではなくて、窃盗事件にあうるが関連しているかもしれないから、それで警察はあうるの行方を捜してるみたいです」

「証拠が出たんですね?」

「あうるの彼氏が関わっていることは確かみたいで、だから、あうるは何か知ってるんじゃないかと」

「なるほど」

 堀井は頷き、ノートにその旨を記した。


「でも、あなたは、あうるさんが失踪したのは、窃盗事件がらみで逃げているからではないと思ってるんですね?」

 堀井が訊くと、殿村希依は深く頷いた。


「だって、わたし、あうるのお母さんに会うように店長に言われて、あうるのマンションに行ったんです。そのとき、なんかおかしいって――」


「おかしい?」

 堀井はノートから顔を上げた。


「何もかもそのまま、部屋の中がまるで近くのコンビニに行ったみたいに、そのままの状態で」

 堀井は瀬田と顔を見合わせた。


 さなりと同じだ。


「あうるは自分の意志でいなくなったんじゃない。わたしにはそう思えて……」

「自分の意志じゃないよ!」


 そう言った瀬田を、殿村希依は困ったふうに見た。


「で、でも、わたしの知らないあうるの面があるかもしれないし――」

「決まりだよ、俺の妹のさなりと同じパターンなんだ。な、一緒に警察に行きましょうよ。二人で行けば警察だって」


 瀬田の勢いに押されて、殿村希依がたじろいだ。


「まあ――瀬田さん」

 堀井は瀬田を制した。


「具体的に教えてください。部屋の様子はどうだったんですか?」

 堀井はノートの頁を改めた。


「お化粧品も朝飲んだカップもそのまま。決定的におかしいと思ったのは、スーツケースが置いてあったんです。逃げるとき、スーツケースを置いていくでしょうか」

「たしかに、変ですね」


「それに――」

 殿村希依は小さな深呼吸をした。


「カラーコンタクトが置いたままだったんです。お母さんが言ってました。カラコンをあうるが置いて逃げるはずないって」


 菊川あうるという女性も、何か事件に巻き込まれている。

 堀井は確信した。

 

「失踪前のあうるさんの様子を教えてください。憶えていること、なんでも構いません」

 殿村希依の目が戸惑う。


「たとえば、普段と違う行動。たとえば、失踪直近に知り合った誰かがいなかったか」

 

「で、でもわたし。ほんとにあうると特に親しかったわけじゃ」


 この女性は、殊更、菊川あうるとの関係を否定する。

 なぜだろう。


「あうるさんのマンションに行ったのは、あうるさんのお母さんに会うように、店長から指示があったんですよね? それはどうしてですか?」

「それは――、あうるがわたしのことを友達だと言ったから」

「実際は、違うと?」

「あたしは、あうるなんかと違います!」


 思いの外強い口調だった。


 殿村希依は何か隠している。

 堀井はかすかに震える殿村希依の指先を見つめた。

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