第14話

殿村希依とのむらきいといいます」

 幾分硬い声で、女性は言った。

「このモールの中にあるドラッグストアに、薬剤師として勤務しています」


「ありがとうございます」

 堀井はノートに名前を書き記す。


「いなくなった方のお名前もお願いできますか」

「はい。菊川あうる。年齢は、多分ですが、二十代後半かと」

「あうるさんですか。お仕事は」

「わたしと同じドラッグストアです」

「正社員の方ですか」

 正社員であれば、勤務先から情報が得られるかもしれない。社員の失踪は問題にされているはずだ。


「正社員じゃありませんでした。でもあうる――あ、菊川さんは、店ではベテランで」

「長く勤めていたということですね」

 殿村希依は、はっきりと頷き、

「わたしなんかより長くて、店は、菊川さんがいないと回っていかないくらいでした」

と続ける。


 殿村希依は、失踪した同僚に好感を持っていたのか、それとも、あまり好きではない相手だったのか。

 彼女の表情からはわからなかった。こうして時間を割いてくれているのだから、好感を持っていたのだろうが。


「では、失踪についてなんですが」

 堀井はノートから顔を上げた。

「何か心当たりというか、前兆みたいなことはありませんか」

 殿村希依は、忙しなく瞬きをした。


「たとえば、誰かにおびえていたとか、職場で嫌がらせを受けていたとか」

 さっと、殿村希依の表情が変わった。


「そんな――あうるが嫌がらせを受けてたなんて、嫌がらせをしてたのはあうるのほう」

 そして、彼女はあっと小さく呟き、片手で口を覆った。


「あうるさんは、誰かに嫌がらせをしていたんですか?」

 すかさず訊いた堀井に、

「あ――ごめんなさい」

と謝った。

 

「いいんですよ。どうか、正直にお答えください。 ここでの話はどこにも漏れません」

「で、でも、なんだか告げ口みたいで。わたし、そういうことしたくないんです」


「気にしなくていいから、なんでもしゃべってよ。どんな情報が、さなりにつながるかわからない」

「は、はい」

 瀬田の強引な言い方に、殿村希依はあたふたと返事をした。


 もしかすると、彼女自身が、あうるから嫌がらせを受けていたのか?


 堀井はもう少し突っ込んで訊いてみようと思った。


「職場で、あうるさんは好かれていましたか?」

 殿村希依はゆっくりと首を振った。

「イジメに遭っていたとか?」

 ふたたび、首が振られる。

 そして殿村希依は、唾を飲み込むと、意思の感じられる目で堀井を見返した。


「イジメていたのは、あうるのほうです。職場に新しく入る若い子をイビるんです。そのせいで、全然アルバイトが続かなくて。でも、店長はあうるに気があるもんだから、注意しなくて――」

 まくしたてるように、一気にしゃべった。その変容ぶりに、瀬田が目を丸くする。


「あたし、知ってたんです!」

 殿村希依は怯えた顔になった。

 

 

 



 

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