第33話 ファイレーンの歴史の授業

「魔王様!まずはドラゴン達との戦いの現状を確認させてください!」


 色々と我慢できずに、魔王の自己紹介を半ば無視してウォーバルが声を上げた。


「ドラゴンが魔王城や死の谷の迷宮にまで現れています!

 しかし、北の戦線が破られたという情報はありません。

 一体何が起きているのか、ご存じですか!?」


「そちらの事態も把握しておる。

 残念ながらいい状況ではない・・・。

 つまり、いつまたドラゴンが現れるか分からん、という事じゃ」


 その回答に、ウォーバルの顔はさらに険しくなる。

 だが魔王はさらに続ける。


「だからこそ、一刻も早く勇者の協力が必要なのじゃ。

 そのためにここに来たのじゃろう?ファイレーン」


 そう促されて、ファイレーンは首肯した。

 しかしウォーバルはこれまた我慢できず口を挟んだ。


「?魔王様は、ファイレーンが転生者だと知っていたのですか?」


(話が進まない・・・大人しく魔王様とファイレーンの話を聞けばいいのに)


 シルフィアはそう思ったが、まあ確かにそこは疑問ではあった。


「知っていたか、と言われれば知っておった。

 じゃが、ファイレーンがそのことを打ち明けに来たのは今日が初めてじゃな」


「やはり、そうなのですね・・・・。話が早くて助かります」


 ファイレーンはうやうやしく頭を下げたが、


「そういうよく分からない話はいいから、早く説明してくれよ」


 ライカはハッキリと口に出して文句を言った。


「分かりました・・・。では私から全て説明いたします。

 もっとも、私個人で過去の記録を研究して推察した情報ですので・・・。

 正しくなかったら申し訳ありません」

「かまわん。間違いがあるときはワシが訂正してやる」

「恐れ入ります」


 そう言って、ファイレーンはこの世界の歴史を切々と語りだした―――



 ――――だが、実はファイレーンは、ものすごく緊張していた!


(世界の秘密を解説するなんて・・・。

 一世一代の大舞台です!

 ちゃんと壮大なお話に聞こえるように頑張らなくちゃ・・・!!!)


 ずっと一人で調べて誰にも言えずにいた世界の秘密。

 いざ説明するとなると、転生者としてはテンションが上がるのだった。


 ◆


「まず最初に、ライカさんに説明しないといけないことがあります」


 出来るだけ冷静にそう言うと、ファイレーンは広間の中空に、魔術の映像を浮かび上がらせた。


 そこには先ほど空からも見た魔王城があり・・・そしてそれよりさらに奥に、

 広大な土地が広がっているのが見えた。

 ライカにとっては、先ほどは魔王城に気を取られて注目していなかった方向だ。

 そのほとんどが荒れ地や森のようだが、それよりも目を引くことがあった。


「あっちこっちで・・・戦いが起きてるのか?」

「その通りです。あれらは全て、ドラゴン達の侵攻を止めるための魔王軍の前線です。」


 映像は遠くから映されたものだが、それでも分かるくらい、広範囲に、いろいろな場所で戦闘が起きている。


「魔王軍は人間族とだけ戦っているのではなありません。むしろ、ドラゴン族との戦いが最も重要なのです。

 人間族との戦いは、ドラゴン族との戦いの邪魔にならないように・・・牽制のために行っているにすぎません」


 ライカはまだ訝し気な顔をしている。


 人間側の情報では、この世界・・・この大陸の北の果てはこの『魔王城』だとされている。北の果てから現れ、人間の国々に侵略してきているのが魔族だと。

 だが、その魔王城よりさらに北に、これだけの土地があり、そこで魔族とドラゴンの戦争が起きているとは・・・。


「ライカさん、あなたはドラゴンは魔王軍やモンスターの一部だと思っているかもしれませんが、この世界においては違います。

 ドラゴンは、魔族とも人間族とも違う、全く別の侵略者なのです」


 そこまで言うと、ファイレーンは映像を消した。



「次に、魔族と人間族の関係ですが、

 魔族は元々人間族だったんです。

 正確に言うと、


「「はぁ?」」


 ファイレーンの言葉に、「何言ってんだ?」という感情を込めてそう言ったのは

 シルフィアとウォーバルだった。


 しかしライカは腕組みして、ある程度合点がいっているようだ。


「まあ確かに、魔族って言っても見た目は殆ど人間と変わらないと思ってたんだ」


 ライカがこの世界に来てから意外に思っていた事の一つだった。

 魔族は基本的に人間との見分けがつかないのだ。

 おかげで戦いにくくて仕方なかった。

 また、つい先ほど、魔王城の中でドラゴン達と戦っていた兵士達のやり取りは、人間と特に変わらない精神性に見えた。


「それに敵が元人間ってのはよくある話だし」


 その言葉の意味はファイレーンにしか理解できなかったので、

 シルフィアは気にせず自分なりの反論をした。


「でも、魔族には角や羽根が生えてる人もいるし、そもそも人間族と寿命が大分違うじゃないか」


 基本的に魔族は人間族より長命だ。


「それは、魔族は魔術の力で色々としてきたんです」


 ファイレーンはあっさりとそう告げた。


「元々この世界・・・この大陸には『人間』しかいませんでした。

 もちろん、動物やモンスターはいましたが、

『魔族』と呼ばれる人はいませんでした」


 ファイレーンは、魔王の方をチラリと見たが、特に止める気配は無かったのでそのまま続けた。

 取り合えず、今のところは間違ったことは言っていないようだ。


「しかしある時期から、とある国が急速に魔術の力を上げていきました。

 他の国よりも高い魔術技術で、その国は強大な魔術王国を築き、大陸の支配者と呼ばれる立場になりました。

 それも、魔術技術を独占して、自分たちの国だけを豊かにし、他の国を支配するやり方です。

 そしていつしか、自分たちの事を『人間』より優れた存在、

『魔術に秀でた種族』ということで、『魔族』と、

 そしてその王を『魔王』と、

 自らそう呼び、自分たち以外を『人間族』と呼んで区別するようになったのです」


 シルフィアもウォーバルも、何も言わずに話を聞いている。

 自らのルーツに関わることであり、今までの常識を破壊する内容だった。

 ショックも大きいようだ。


 一方ライカは「へー」とか「ほー」とか言いながら、呑気に聞いている。


「しかし、そんな魔族の栄華も、崩れ去る時が来ます。

 魔術を極めようとしたがゆえに、禁断の魔術・・・『異世界召喚』に手を出してしまったのです」


「異世界召喚・・・」


 その言葉に反応したのは、やはりライカだった。


「じゃあオレも魔族のその術で呼び出されたって事か?

 過去の勇者も?

 魔族が自分で呼んでおいて、見事に反逆されたってことか?」


「それについては順序があるのです」


 ファイレーンは手を前に出し、少し待って、というジェスチャーをしてから話を続けた。


「魔族の目的は、異世界からより巨大な力を呼び出すことでした。

 異世界には凄い力がある、ということを突き止めていたようですね。

 そして様々な研究と実験が行われ、ある程度は成功していたようです。

 その当時は転生者は魔族が管理していたと思われます。

 ちなみに、死の谷の迷宮で勇者との戦いのために用意した部屋の魔術陣は、

 過去の召喚術のためのものだと思います」


 ウォーバルはその言葉で、あの部屋の事を思い出す。

 確かに魔術陣があって儀式っぽい部屋が残されていたが、あれにそんな意味があったとは。


「しかし、ある時、魔族は重大な失敗を犯します。

 触れてはいけない禁忌の存在を呼び出してしまったのです」


 そうしてファイレーンは魔王の方を見た。

 いや・・・魔王の後ろにいる、氷漬けのドラゴンを見たのだ。


「それが・・・ドラゴン族だったのです」

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