第28話 正体

 シルフィアは心の中で感じていた違和感の正体にやっと気づいた。

 迷宮の外で、最初に仮面の剣士と戦った時も、シルフィアの全方位からの攻撃を防がれた。

 あの時頭をよぎった考え・・・しかし、その後いろんな事がありすぎて、考えを進める余裕が無かったことだが、

 今考えると、あの時感じたのは「まるでグランザのようだ」という事だったのだろう。

 今まさに、その答えが目の前にあった。



黒剣こっけんのグランザ?」


 ファイレーンの言葉を聞いて、ライカはその名を口に出していた。


 そう言われれば、仮面の剣士の周りに浮いている黒い剣は、グランザと戦った時に見た奴な気がする。


(生きていたのか・・・・)


 驚きではあったが、四天王の方が驚きは大きかったようだ。


「グランザ・・・!貴様、生きていたのか!!

 なぜ俺たちを攻撃する!?」


 ウォーバルは戸惑いながらも激昂してそう問いかける。


 しかし仮面の剣士――――グランザは答えない。


 と言うか、先ほどから次の行動に移ろうとしない。

 割れた仮面を抑えて・・・・ぼーっとしているように見える。


 と、思った瞬間、


 バッッッ!!!


 今度は急にその場から飛び出した!

 ウォーバルの方に向けて距離を詰める!


「!!?」


 ウォーバルはとっさに防御するが、グランザに斬られ・・・る訳ではなく、

 その剣で弾かれ、そしてグランザはそのまま広間から飛び出して行ってしまった。


 どちらかというと、この場から離れるのが目的で、その経路上にウォーバルがいたので弾き飛ばした、という感じだった。


「待て!!貴様・・・っ!!」


 ウォーバルが顔をゆがめてそう叫ぶ。

 ファイレーンと、シルフィアも動揺を隠せない。

 死んだと思っていた同僚が生きていた、という事と、それが何故か自分たちを攻撃してきた、という事実に頭が追い付かないのだ。


「逃げた?」


 ライカだけは、ただただ困惑のみ感じている。


(取り合えず、ファイレーンとウォーバルがショックを受けているみたいだから、

 この隙に倒しちゃうか・・・?)

 そんな事を考え始めた時、



『ウォーバル様!ウォーバル様!!!』


 広場の中に突然声が響いた。

 その場にいた者の声ではない。



 名前を呼ばれたウォーバルがハッと気を取り直した。

 魔術の通信だ。


 自らの混乱を振り払い、通信を受ける魔術を展開する。


 広場の中空に、映像が映し出される。


 映像の中でまず目に入ったのは、必死でこちらに語り掛ける2人の女――――

 魔族の兵士達の姿だった。


『ウォーバル様!!やった、ようやく繋がった!!』

『大変です!ウォーバル様!!』


 2人の兵士は、ウォーバルの部隊の部下だった。

 若い・・・人間でいうところの18歳くらいの見た目をしている。

 言葉の必死さとは裏腹に、2人が押し合うように画面に顔を近づけてきている姿がやや滑稽で、見た目の緊迫感を削いでしまっている。


「何やってるんだ、お前ら・・・」


 この大変な時に・・・、と思ったが、

 ファイレーン、ウォーバル、シルフィアは、映像の2人の後ろに広がる風景を見て、絶句した。


 そこには魔王城・・・・そして、魔王城の周りを飛びまわる沢山のドラゴンの姿があった。


 成り行きでライカもその映像を見る。


(取り合えずファイレーンとウォーバルを後ろからぶっ刺すのは待ってみるか・・・)


 何が起きているか、様子を見てみることにしたらしい。



 映像をよく見るとドラゴンは魔王城を攻撃しているらしい。

 魔王軍の兵士がそれと戦っているようだ。

 兵士ではない様子の・・・非戦闘員だろうか。数が多いわけではないが、逃げている姿も見える。


(あっちでも仲間割れか?)


 ライカがそう思っていると、映像の兵士の片方が続けた。


『大変です!ドラゴンが・・・ドラゴンが魔王城にまで現れました!

 現在なんとか魔王城の戦力で応戦していますが・・・。

 早くお戻りください!!』


 ウォーバルは驚きながらも毅然とした口調で問いただす。


「一体何があった!?戦線が突破されたのか!?」

『分かりません!そのはずは無いのですが、突然現れたのです!』

「どうしてすぐに連絡をしてこなかったんですか!!」

『ずっと連絡していました!しかし、通信がつながらなかったのです!!!!』

「なんですって!?通信が・・・?

 確かに、こちらからも繋がらなかったですが・・・まさかずっと!?」


 ウォーバル、ファイレーン、そして通信の兵士2人がやり取りを続ける。


『とにかく!応戦は私達でもがんばりますが、

 何が何だか分からないので早く戻ってきてください!!!』

『四天王の皆さん揃ってお願いします!』

「わ、分かった。急いで戻るから、それまで持ちこたえてくれ!!」


 相変わらずギャーギャー押し合いながら画面に迫る2人と、魔王城で起きている緊急事態に戸惑いながら、

 ウォーバルがそう言ったところで、通信は途切れてしまった。


 どうにも報告の兵士2人のテンションのせいで深刻さを薄められてしまったが、魔王城で起きていることは紛れもなく緊急事態だった。


 ウォーバル、ファイレーン、シルフィアの三人は、全員今すぐ魔王城に帰らなければならないと考えていた。

 しかし・・・・。


「おいおいテメェら、まさかこのまま帰ろうと思ってるんじゃねぇだろうな」


 ライカが抜き身の剣を肩に担いでそう凄んできた。


 それはまあ、そういう展開になるだろう。

 ウォーバルたちも、ライカを無視して帰れるとは思っていなかった。


 ウォーバルは、戦って倒すしかない、と覚悟していた。

 元々そのつもりでここに来たのだ。

 作戦通りではなかったが・・・三人がかりで戦うことには変わりない。

 ただ、ファイレーンが勇者と通じている、という疑惑がまだ晴れたわけではない、とウォーバルは考えていたので、それが不安要素だった。


 一方、ファイレーンは戦うのは得策ではない、と考えていた。

 元々、単に三人がかりで戦っても勝てない、と思ったから色々な作戦を考えたのだ。

 自分たちに有利なように戦いの場を準備し、そしてシルフィアの裏切りによって勇者に一撃を与え、有利に戦いを始める。

 それが万全の状態で実行できなくなった時点で、勝ち目は薄い。

 仮に勝てたとしても、我々三人は大きなダメージを受けるだろう。何人かやられるかも知れない。

 それでは魔王城に帰って事態を収拾できるとは思えない。

 となると、何とか勇者から逃げて魔王城に向かうか?

 しかし、それでは後から勇者が魔王城に到着してしまうかもしれない。

 そうなったら、ドラゴン相手に混乱している魔王軍は、今度は勇者にやられてしまうだろう。

 ではどうやって勇者から逃げるか・・・?

 いい考えは浮かんでいなかった。


 二人が決定的な打ち手を定められない中・・・


 行動に移したのは―――――シルフィアだった。

 シルフィアも、頭をフル回転させてどうするべきか考えていた。


(できるだけ早く魔王城に帰らないといけない!

 でもライカはどうする?

 今更ボクが裏切ってライカに不意打ちして、三人がかりで倒す?

 でも、もしかしたらボクが四天王だってバレてるかもしれない。

 今まで、できるだけバレないように口に出す言葉を選んでいたけど、

 結構ファイレーンやウォーバルと一緒にボクも驚いたりしてたから・・・。

 やっぱり不意打ち作戦は無理だ!

 じゃあ逃げるか?

 でも僕たちが逃げきれたとしても、結局ライカは魔王城までたどり着いちゃうよね・・・。

 戦うのもダメ、逃げるのもダメ・・・・だったら!!)


 中身はファイレーンと大体同じだったが、彼女は一つの結論を出した。


「す・・・・」

「す?」


 シルフィアの発した言葉に、ライカは怪訝そうな顔でシルフィアに聞き返した。




「すいませんでしたーーー!!!」

 シルフィアはライカの目の前に行って思いっきり土下座した!


「本当はボク四天王の一人なんです!

 シアじゃなくて、シルフィアって言います!

 今まで騙していて本当にすいませんでしたーーー!!」


 額を地面にこすりつける勢いで土下座した。


 なんて情けない。

 ミステリアスな謎の仲間が、実は魔王軍の四天王だった、という衝撃の種明かし。

 に、なるはずだったにのに。

 土下座で謝りながら、正体を白状することになってしまうなんて。

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