第25話 何も分からない

 ファイレーンは自らの魔術で炎の兵士を5体生み出し、それにドラゴンと戦わせていた。

 この炎の兵士は、動く鎧リビングメイルなどとは違い実体はない。ファイレーンがその場で生み出し、用が済めばその場で消える存在だが、その分自由も効く。

 相手のドラゴンは1体だが、こちらの炎の兵士は何度かやられてかき消されている。だがその度にファイレーンの魔術で生み出し補充して、戦線を維持している。

 そして炎の兵士戦わせている間、ファイレーンは強力な魔術の準備を整え、それを解き放った。


「フェリア・ブレイズ!!」


 超高温の熱球が、周囲の炎の兵士も巻き込んでドラゴンを包む。


 ギィギャァァァアアアアア!!!


 苦痛で悲鳴を上げるドラゴンをそのまま飲み込み、全て焼き尽くしたところでその炎は消えた。


「ふぅ」


 ファイレーンは息をついた。

 大分てこずってしまった。

 突然の事であったし、勇者を迎え撃つ数々の準備を壊さないように、と考えてしまい、思うように戦えなかった。

 結果的には・・・勇者との決戦場は、いくらか破壊されてしまった。

 だが、今はそれよりも先に気にしないといけないことがある。


「どうしてドラゴンがここに・・・。

 外は?シルフィアと勇者の方はどうなっていますか!?」


 誰ともなくそう言うと、魔術の映像の方を見る。

 先ほど、勇者を連れ去ったドラゴンの方を映しているはずだが・・・。

 映像が映っているはずの場所には何もなかった。

 戦いの中で魔術が途切れてしまったのか?


 だが、映像とは別に、注意を払わないといけないことがあることに気付いた。

 迷宮の中で、まだ何か騒ぎが起きている気配がする。


 いったい何なのか?通信で他の場所の状況を聞こうとしたが、その前に広場に入ってくる者があった。


 ウォーバルだ。


「どういうことだ!何が起きている、ファイレーン!!」


 ウォーバルは怒声を上げながらファイレーンに詰め寄ってきた。


「ウォーバル!今まで何やってたんですか!?」

「こっちの台詞だ。迷宮内に、突然ドラゴンが現れたぞ。どういうことだ!何でここにドラゴンが!」

「ウォーバルのところにもドラゴンが!?」


 ファイレーンは驚愕した。外と、ファイレーンの所だけでなく、ウォーバルの所にも?

 ドラゴンがここに現れただけでも異常事態なのに、ここまでの数が、それも確実に四天王のところに現れるなんて・・・。

 もちろん、もっと沢山他の場所にも表れているのかもしれないが、それにしても、である。


 だが、ファイレーンが驚く様子に、ウォーバルも驚いていた。


「どういうことだ?まさか、他にもドラゴンが現れたのか!?」


 そう言うと、この広場が破壊されている事に気付いたようだ。


「そうです。私の所にも現れました。それに、外のシルフィア達の所にも」


 ウォーバルは、全く信じられない、という様子で絶句した。


「私のところに来たドラゴンは倒しました。外のドラゴンはどうなったか分かりません。ウォーバルの方は?」

「俺の方も勿論倒した。しかし迷宮内がメチャクチャだ。

 それに魔術通信もできない。どうなっているんだ!?」

「通信も!?」


 先ほど中断してしまっていた通信を再度試みるが、確かに通じない。


「一体何が・・・・?」


 ファイレーンは、あまりの異常事態にゴクリと唾を飲み込んだ。


 しかし、ボーっとしているわけにもいかない。


「とにかく現状把握が第一です!シルフィア達がいた迷宮の入り口の方に向かいましょう!!」


 ファイレーンが駆け出そうとするが・・・


「待て!!」


 後ろからウォーバルが強い口調で制止した。


「?」


 ファイレーンが立ち止まると・・・、


 ドガァアア!!


 ファイレーンが先ほどまさに進もうとした通路の先から、大きな衝撃音が響いてきた。

 そして、先ほどまで気づかなかったが、大きな魔力のプレッシャーを感じる。


「なっ・・・!!」


 ファイレーンが声を上げてその通路の方向を注視すると、その先から一人・・・いや、二人の影が現れた。


 一人は、黒いマントと仮面に身を包み、片手に剣を携えていた。そしてそのもう片手には、傷だらけになってぐったりしたシルフィアが抱えられていた。


 シルフィア!!!――――――


 そう叫ぼうとしたが、しかし、ファイレーンは声を上げることが出来なかった。


 ファイレーンの後ろから・・・、

 ウォーバルがその手に作り出した水の刃を伸ばし、

 ファイレーンの首筋にその切っ先を当てていた。

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