第24話 大混乱
相手によるが、ドラゴンと言えど、ファイレーンやウォーバルが一方的にやられるということは無いはずだ。
だとすると、迷宮の中で助けが必要なのは、ドラゴンの数が多いとかそういう理由だろうか。
全く分からないが、救援要請の連絡を受けて「たぶん大丈夫だろう」で見捨てる気にはなれなかった。
だがシルフィアは仮面の剣士に斬られてしまって、元気万全というわけではないし、
目の前ではまだシルフィアを攻撃しようとしている仮面の剣士と、
そいつからシルフィアを助けようとしてくれているライカがジリジリと間合いをはかり合っている・・・。
いや、それは正確ではないかもしれない。
(さっきボクが通信で喋っていたのがバレてる?)
ライカは怪訝そうな様子でシルフィアの方をチラチラ見ている。
通信の声は聞こえてないと思うが、シルフィアが何かの理由で動揺していることを感じ取ったらしい。
(普段なら狂犬のごとく、とっとと敵に斬りかかってるはずだもんね)
シルフィアはかなり失礼なことを頭の中で思った。
とは言え、ライカが口火を切らないせいか、仮面の剣士も動き出さない。
膠着状態という感じか。
(この間に考えをまとめよう・・・・)
「どうしたシア!何かあったのか!?」
(ああっ!膠着状態が解けそうなことを!!)
シルフィアは狼狽えたが、どっちにしろのんびりしている場合ではなかった。
それに、選択肢がそんなにあるわけじゃない。
まず助けに行くからには、シルフィア一人で行かなければいけない。
不安要素としては、シルフィアは今傷を負っている、ということだが、致命傷ではない。戦力にならないということは無いつもりだ。
それにシルフィアが傷を負っているからと言って、他に適任がいるわけではない。
先ほどまでシルフィア自身が戦っていたモンスター達は・・・ドラゴンの襲来と、仮面の剣士との戦いに巻き込まれて、あらかたやられてしまっている。
生き残った者も遠くに逃げたか、死んだふりをしてやり過ごしているか、ちょっと離れた岩場でゴブリンがコソコソ隠れて様子を伺っているものもいるようだ。
とにかく戦力にはならない。元々、シルフィアの正体は知らず、敵の人間だと思っているので言うことも聞かないだろうし。
ライカはどうかというと、もちろん論外だ。
ファイレーンとウォーバルがいるところに連れて行けば、当然お互いに倒そうとするだろう。ドラゴンがいるなら三つ巴の戦いになるかも。
それがどういう結果なるか分からないが、ロクなことにはならなさそうな気がする。
とにかく今この状況でライカを連れて行くわけにはいかない。
だからシルフィアが行くしかないが、
問題は、どうやら仮面の剣士はシルフィアを倒すことを諦めてはいないようだ、ということだ。
ライカとシルフィアで協力して倒してから行くか?
でも、それができたとしても、その後はライカが一緒に来ることになってしまう。
ライカと仮面の剣士の相打ちを狙うか?
上手くいくかどうかは全く分からない。
だとすると、結局やることはシンプルに一つしかないのだ。
「ごめん!ボクは大丈夫だけど!コイツ強いよ、気を付けて!!」
シルフィアは体を起こしてそう声をかけた。
これでライカは戦闘開始するはずだ。
「ケッ!調子に乗んなよ!この野郎!!」
思った通り、すでに戦闘態勢を取っていたライカは、一気に距離を詰めて仮面の剣士に斬りかかる。
ギィン!!!
仮面の剣士も、無視することはできず迎撃する。
(今だ!!)
ライカと仮面の剣士が戦闘に入り、お互い簡単には剣を引けない状態になってから、
シルフィアは呪文を唱えた。
「エアル・フーガ!!」
高速で飛行する魔術だ。
「ごめん!ライカ、ここは任せたよ!!」
術の効果が発動する直前に、シルフィアはそれだけライカに告げると、迷宮の入り口に向かって飛び出した。
「ええっ!!??」
ライカは普段の様子からは珍しく驚きの声を上げた。
仮面の剣士もこちらを気にしているようだが、狙い通り、斬り結ぶ相手がいるからすぐには追ってこれない。
(よし!!)
そのまま迷宮の入り口に向かう。
チラリと後ろを見ると、仮面の剣士はシルフィアを追いかけようとしている様子だった。
ライカは止めようとしてくれているようだが、突然の事で戸惑いもあるのだろう。ずっと止めておいてくれるかは分からない。
どうやら、仮面の剣士がシルフィアを負い、それをライカが追う、という状況になりそうだ。
そこまでは見て取れたところで、シルフィアは迷宮に突入した。
ここまでは予想通りだ。少なくとも、ある程度の時間を稼げたならそれでいい。
この迷宮はシルフィアの、魔王軍の拠点である。
後ろの二人に比べて、地の利は完全にこちらにある。
単純に目に見える道を辿るだけでも、道順を知っているシルフィアが速いし、魔王軍にしか分からない隠し通路もある。それらを使えば、仮面の剣士とライカをまいて、二人が迷っているうちにファイレーンとウォーバルを助けに行き、そのまま逃げる・・・状況を立て直すために戦略的撤退をすることも可能だろう。
そう計算して、シルフィアは迷宮の中を迷いなく駆けて行った。
◆
だが、シルフィアの計算は全く見当が外れていた。
「ちょっと・・・!なんでだよーーーー!!!」
迷宮に入ってからしばらく経っても、
迷宮の中を駆け抜けるシルフィアの後ろを、仮面の剣士が追い、その後ろからライカが追いかけていた。
仮面の剣士は時折シルフィアに追い付いては攻撃を加え、シルフィアは何とかそれをしのぐ、その隙にライカが追い付いて仮面の剣士に攻撃し、その隙にシルフィアが逃げる、というのを繰り返して、迷宮の中を破壊しながらその追いかけっこは続いていた。
(絶対におかしい!!)
迷宮に入ってからしばらくは確実に、後ろの二人をまいていたはずだ。
そのまま隠し通路に入ったので、後から来た二人は隠し通路には気づかず、別のルートに行くはずだったのだ。
だが仮面の剣士はすぐに隠し通路を発見して追ってきた。
それをライカも追いかけてきたのだ。
(魔力探知!?でもそれだけで隠し通路をすぐ見つけられるとは思えない!!)
シルフィアが傷を負っていることを差し引いても、ここまで進行速度に差がないのはおかしい。
全く訳が分からなかったが、深く考えている暇はなかった。
こうなったら、とにかく速く移動して後ろの二人を撒くしかない。今までも試みて出来なかったことではあるが、それしかないのだ。
「くらえ!!」
風の魔術を繰り出し、仮面の剣士たちが向かってくる通路の天井を崩す。
少しでも時間稼ぎになるといいが・・・。
ドゴォ!!!
瓦礫を突き破って仮面の剣士が現れる。
やっぱりダメだった。
でも、考え着くことは全部やるしかない。
(ファイレーン、ウォーバル、無事でいて・・・・!!
もしくは・・・
こいつら連れて行っちゃったらごめん!)
シルフィアは段々頭の中が混乱していくのを自覚していた。
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