第19話 5人目?
部屋の中に突然現れた一人の魔族は―――
人間で言えば20歳くらい・・・金髪の細身の男の姿をしている。
顔には敵意がないことを示している・・・のだろう、笑顔をたたえている。
服装は、ファイレーン達のようなコートとは違う。もっと前線の兵が用いる、
軽装の戦闘服を着ている。
目を引くのは、妖精の羽根をつけた帽子を被っていることだ。
「すいません、驚かせちゃったみたいですね?一応ノックしたんですが、気づかなかったようで・・・」
(・・・ノックは嘘でしょうけど・・・)
ファイレーンは取り合えず突っ込みどころに突っ込んでから、
(そうだとしても、いつの間にか部屋に入ってきていたこととに・・・。いくら会議が白熱しても、私たちに気付かれずにそんなことが!?)
そう思考を巡らせていると・・・・
「おい、グリーズ、貴様何のつもりだ?」
ウォーバルが怒りを込めてそう言った。
「え、知ってる人ですか?」
「あれ、ファイレーンは会ったこと無いんだっけ。
グリーズだよ。ほら、時々会議で話題に出るでしょ?ろくに任務もやらないでフラフラしている」
シルフィアが解説してくれた。
グリーズとやらを見る目は、困った人を見る目だったが。
ファイレーンはシルフィアの言葉でようやく思いいたった。
「ああ、『
確かに聞いたことがある。
魔王軍の軍会議の中で。
言うことを聞かない、何やってるのか分からない、強いは強いらしいが、困った奴、という噂を何度か・・・。
とは言え、魔王軍・・・と言うか、魔族やモンスターは言うことを聞かない奴なんて沢山いるので、特に気にしてはいなかったが。
「そうか。ファイレーンが四天王になってからは会う機会無かったっけ。
こいつ、城に来た時は大体誰かとひと悶着起こすんだよね。
嫌な奴だから」
「そんな、ひどいじゃないですか。
でも紹介してくださってありがとうございます。
シルフィアは本当に嫌そうだが、グリーズは言葉とは裏腹に全く気にしていないようだった。
いまいち感情のこもっていない挨拶をしてきた。
「そんな事はどうでもいい。貴様、いつから、どうやってこの部屋に入ってた」
ウォーバルは立ち上がってグリーズに詰め寄った。
しかしグリーズはにこにこ笑って動じない。
「そんな事はどうでもいいじゃないですか。それより、さっきの面白そうな作戦の話がしたいなぁ。
まさかあのウォーバル様がこういう作戦に喜んで参加するなんて」
「・・・てめぇ、・・・・何が言いたい!?」
ウォーバルが痛いところを突かれたのは、ファイレーンにも分かった。
一方シルフィアは、また始まったよ、という呆れた顔をしている。
「ええ!?どうしたんですか?
私は感心しているんですよ?流石はウォーバル様、と。
以前のウォーバル様は、自分の強さにプライドを持ち、自分より強い相手でも臆することなく虚勢を張っていたのに、
魔王軍のために、そんな自分を曲げて卑怯な手段も受け入れるなんて・・・」
(うぁわ!メチャクチャ嫌なヤツじゃないですか!!)
ファイレーンは衝撃を受けた。
魔王軍の中でも中々いないタイプである。
「・・・・!!」
当たり前だがウォーバルはブチ切れそうになっている。
「もうやめなよ、グリーズ」
シルフィアが止めに入った。が、当然のようにグリーズは矛先をシルフィアに向けた。
「シルフィアさんはそれでいいんですか!?
ミステリアスなキャラとか言ってますけど、結局のところ、姑息な裏切り者という汚名を着せられるだけなんじゃないですか!?
シルフィアさんがそんな風になってしまうのは私は悲しい!」
(まあそれは、そうかもね)
シルフィアはそうも思ったが、それより、もうこの場をこれ以上ややこしくしたくない、という事しか考えられなかった。
「それで、何しに来たの?
ボク達に嫌味言いに来ただけだったら、帰ってくれないかな」
「いや、こいつは作戦を聞いたんだろう?変に邪魔されても面倒だ。牢屋にでも突っ込んでおこうぜ」
「牢屋くらいで捕まえていられるかなぁ。まあやったことはないけど」
「ちょ、ちょっと待ってください、誤解ですよ!」
グリーズは慌てて二人の会話を止めた。
「私は、皆さんのお手伝いをしたいだけです」
「「お手伝い?」」
シルフィアとウォーバルは二人同時に、イヤそうな顔でそう言った。
「そうです!グランザ様が勇者に倒されてしまい、四天王の残りの皆様は、とてつもない苦労をしていると思います。
案の定、会議をのぞき見したらずいぶん複雑な作戦を立てている様子。
それでしたら、この私が新たな四天王の一人として、末席に座らせていただければ、お力になれるかと・・・」
「「「はぁ!?」」」
今度はファイレーンも加えて、三人同時に声を上げた。
その中でも、一番激しく反応したのはファイレーンだった。
「ちょっと待ってください!シルフィア、ウォーバル、この人どういう人なんですか!?信用できるんですか!?」
「どうもこうも、見たまんまの奴だよ。
信用なんてできないよ。まともに仕事したところなんて見たこと無いし」
「ひどいなぁ。そこまで言わなくてもいいじゃないですか」
シルフィアの酷評に、特に傷ついた様子もなくそう答えるグリーズ。
ウォーバルは苛立ちを隠さない。
「ハッ!こんなやつを四天王に入れたら、それこそ四天王の評判はガタ落ちだぞ」
「そんなこと無いですよー。私はウォーバルさんより強いし、その上部下には優しいですから、みんな喜ぶと思いますよ」
「なんだと貴様・・・・!!」
「待って待って、まってーーーー!!!!」
ファイレーンは声を上げて三人を制止し、頭の中で思考を高速回転させた。
(どうしよう、困りましたね!?
四天王の一人が倒されたあと、新キャラが登場して補充される、というのも、結構強キャラ感があって、悪くない気もしますが・・・・。
それに、このグリーズという人、何か性格悪い感じの飄々とした男ですけど、それも強キャラっぽいと言えば、それっぽい・・・。」
ファイレーンは一度他の三人を見た。
全員、一応ファイレーンを待ってくれている。
シルフィアとウォーバルは先ほどのままウンザリした顔で、グリーズはにこにこ笑って。
(でもここで新しい四天王登場は、作戦に合わないですよね・・・・!
そもそも、シルフィアの正体を隠しているから、勇者から見たらまだ四天王の内の三人しか出ていない、だからこそシルフィアの正体判明が効果的なのに、
同じタイミングでもう一人新しい四天王が出てきたら話がゴチャゴチャしすぎる・・・!)
考えがまとまらず、糸口を求めてファイレーンはシルフィアに聞いた。
「この人・・・グリーズって強いんですか?」
「まあ、強いほうだよ。本当に真面目に働いていたなら、四天王になっててもおかしくないんじゃないかな」
その評価は適切なようで、ウォーバルも、イライラしながらも否定しなかった。
(強さも十分あるって事ですね・・・・。
ただ問題は、全然真面目に働かない、ってことですよね。
シルフィアやウォーバルのあの反応からしても、それは事実みたいだし。
今回の作戦は、誰かが勝手に変なことをしちゃうと台無しになるし・・・・)
ファイレーンはしばらく頭を抱えたが・・・結局シルフィアとウォーバルの助言を優先することにした。
(何となくあのキャラは捨てがたいけど・・・今は断るしかないですね!)
そう決断したからには、四天王らしく威厳ある態度で接しないといけない。
「申し出は嬉しいですが・・・・あなたは四天王にはふさわしくないようですね。
今は大事な勇者抹殺作戦の時・・・。あなたの力など不要です。大人しく・・・」
「やだなぁ、冗談ですよ、冗談」
「は?」
ファイレーンが威厳たっぷりにしゃべっている途中で、グリーズは笑いながら手を振った。
その言葉に、ファイレーンは思わず間の抜けた声を上げてしまった。
「本気にしないでくださいよー。
だいたい、そんな細かい作戦でコソコソやろうとしている四天王なんて、入りたいわけないじゃないですか。
でもまあ、面白い話が聞けて良かったです。せいぜい頑張ってくださいね!
あ、でも私がウッカリ誰かに喋っちゃったら台無しかな?
大変ですね。アッハッハ」
そう言うとグリーズの体が急に影のように暗くなって・・・
「あ!」
「待て!貴様・・・・!!!!」
シルフィアとウォーバルが気付いて止めようとした時には、
もう部屋の中から気配ごと消え去っていた。
部屋には元の三人が残される―――。
「・・・・・何なんですか!あの男!!?」
ファイレーンはようやく、心の中に沸き立つ怒りを噴出させた。
「何しに来たんですか!?からかいに来ただけ!?」
「だから言ったじゃん、ああいうやつだって。まともに相手しちゃだめだよ」
「そんなこと言ったって!大丈夫なんですか?
私たちの作戦、バラされたりしちゃうんですか!?」
シルフィアは困った顔でファイレーンをなだめた。
「分からないよ。さすがに魔王軍の邪魔をするようなことは・・・・
アイツもしたこと無いと思うけど」
それは嘘ではない。少なくともシルフィアの知る範囲では。
(仲間に嫌がらせぐらいはしたことあるかも)
そう思ったが、言ってもどうしようもないのでファイレーンには秘密にしておいた。
ウォーバルの方を見ると、怒りが収まらないらしく、ものすごく怖い顔をしている。
ファイレーンは・・・・本格的に頭を抱えている真っ最中だった。
「どうするんですかーーー!せっかく色々考えてここまで頑張ってきた作戦なのに!!!」
『奴は四天王最弱!』作戦に突然の暗雲が立ち込めた・・・?
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