第16話 爆炎魔獣エグゼブロ
「オラァ!!!」
ライカが剣戟を繰り出してくる。
(ちょ、ちょっと待ってください!!!)
そう言おうと、言葉が口から出てきそうになるが、ファイレーンは何とか我慢した。
(・・・・みっともないところ見せたら作戦が台無しです!!)
怖そうに見せて意外とお茶目なところもある、というキャラも一瞬考えたが、検討不足でどうなるか自信がなかった。
ウォーバルの方を見ると、そちらも攻撃を捌きながら戦うかどうか悩んでいるようだ。
戦闘狂キャラなのによけ続けているのも変だと、自分でも思っているのだろう。
このままだとすぐに戦い出してしまいそうだ。
(仕方ない。ちょっと手順が変わったけど、無理やり先に進めるしかないですね)
ファイレーンは準備していた仕掛けに魔力を注ぎ込む。
すると・・・・
ドォォォオオオオン!!!!
ファイレーンたちが立っている地面の下から、激しい音と振動が伝わってくる!
この衝撃で勇者ライカの足が止まる・・・かどうか自信がなかったので、
ファイレーンとウォーバルは立っていた場所から一気に飛びのいた。
案の定・・・ライカは二人がさっきまで立っていたところに飛び掛かってきていた。
間一髪でライカから距離を開けることに成功する。
(隙あらば殺そうとしてきますね!)
戦っているので当たり前ではあるが・・・・。
そこまでしてからライカはファイレーンの方を見て口を開いた。
「テメェら、何しやがった!」
ファイレーンの方を見たのは、状況的に、何かやったとしたら彼女の方だと思ったのだろう。
それは当たりだったが。
ようやく予定通りの流れに戻ってファイレーンは心の中で胸を撫でおろした。
表向きは余裕の態度を崩さない。
「何をと言われても・・・・。
最初に言ったでしょう。私はここで『実験』をしていると。
その実験が終わった・・・・それだけですよ」
そう言ってファイレーンが指を鳴らすと、先ほどよりさらに大きな衝撃が起き、足元の床が崩れだした。
「おいおい!!」
ライカは慌てて崩壊から逃れようとし、結果的に広場の外側、ぎりぎりのところに少し残った床の上に立ち止まった。
広場の下にはさらに巨大な広い空間があり、その中央に、赤い巨大な、鉱石の塊とも、肉の塊ともつかないものが横たわっていた。
それは、鈍い光と熱を放ち、ドクンドクンと脈打っているように見える。
「なんだありゃ・・・・!!」
ライカは独り言のつもりだったが、ファイレーンはそれに答えた。
彼女は先ほどの崩壊に合わせて下に降りていた。
「私の新作のモンスターですよ。
名前は
と、言っても動くことも何かを食べることもないので、これをモンスターと言うかどうかは個人の自由ですが」
ファイレーンはそのモンスターに触れながら続けた。
「その能力はただ一つ。
魔力を注ぎ込むことによって、自分自身を大爆発させ、周囲を破壊することです」
「!!!」
ライカはその意味を理解して顔を強張らせた。
「魔力の爆弾ってことか・・・!」
ファイレーンはニヤリと笑って続けた。
「この城で密かに研究して育てていたのですが・・・まさか完成のタイミングで勇者が来るとは。最初に言ったように、お茶会でも開いてあなたを足止めしておいた方がよかったかもしれませんね。そしたら勇者もろとも爆破できたかも・・・」
ライカはファイレーンに飛び掛かろうとしたが、それをファイレーンが制止した。
「やめた方がいいですよ。この状態になったら、衝撃を与えただけでも爆発しますから」
その言葉に、ライカは突撃は諦めたようだ。
「つまらんことを」
ウォーバルの声が響く。
彼は床の崩壊とともに、ライカの反対側、広場の高台になっているところに移動していた。
「興がそがれた。
まあいい。もともと、勇者の様子を見るだけのつもりだったからな」
そう言うと、ウォーバルは手を振りかざし、ライカの方に向けて鋭く振りぬいた。
するとその手の先からいくつもの水の塊が生まれ、ライカに超スピードで飛んでいく!
「!!!」
ガキィン!
ライカは剣ですべて撃ち落とした。
その隙に、ウォーバルの姿は幻のように消えていたが、その声だけは響く。
「また会おう、勇者よ。その時は・・・俺を楽しませるほど強くなっているんだな」
そして、ウォーバルの気配は消えた。
「ふふふ、それも勇者がこの場で生き残ることができれば・・・・でしょうけどね」
ファイレーンは消えゆくウォーバルに向かってそう言った後、改めてライカの方を向いた。
「どうします?勇者様。
私は用も済んだのでここで失礼させていただきますが・・・・。
出来ればあなたには、ここで城に押しつぶされて旅の終わり、となることを祈っていますよ」
そう言うと、ファイレーンも地下の闇の中に消えていった。
「クソッ!」
ライカはいら立ちを隠さないが、今はファイレーン達にかまっている場合ではない。
残った足場を伝って、この広場に入ってきた時に見た、牢屋に捕らわれた人たちのところへ向かった。
◆
「ライカ!!」
「シア!?」
ライカが牢屋に着くと、すでにシアが魔法で牢屋を破壊し、中の人を助けているところだった。
「お前今までどこ行ってたんだ?」
「いや・・・ファイレーンを探して城の中探し回ってたんだけど、結局この牢屋にたどり着いちゃって。
そしたら凄い音がするからヤバいと思って、取り合えず捕まった人たちを・・・」
「いや、今はそんな場合じゃなかった。先に全員逃げるぞ!」
そう言ってライカは、困惑したままの捕らわれた人たちにも早く移動するように促した。
「これで全部か!?」
「う、うん。
ファイレーンは?」
「逃げられた!とにかく行くぞ!」
そう言うと、捕らわれていた十数人も連れて、全員でシアが通ってきたという道を逆に進んで外を目指す。
「なんでそんなに急いでるの?まあ、爆発音とか揺れとか起きてるけど・・・」
「想像通り、この城はもうすぐ爆発するってさ!!」
◆
「げげ!!」
もうちょっとで地上と言うことで、シルフィアはうめき声をあげた。
ここも広場になっているのだが、
「どうしよう。ボク達だけならいいけど、この人たちは・・・」
捕らわれていた人たちを守りながらどう突破するか。
「わ・・・我々も戦います!」
「えぇ!?」
そのうちの一人の言葉にシルフィアは声を上げた。
「お前らそこらの村から捕らえられた村人だろ?無理すんなよ!」
ライカもそう言うが、彼らは不思議そうな顔で答えた。
「え?いや、私たちは魔族との戦闘で捕らえられた王国軍の兵士ですけど・・・」
そう言われると、村人と言うにはそぐわない、立派な鎧を装備していた。
「え、村人が捕らわれてるんじゃなかったのか?」
「我々の他に捕まってる人は知らないですけど・・・」
「今はそんな事言ってる場合じゃないんじゃない!?」
シルフィアの言う通りだった。
喋っているうちに、ライカ達が通ってきた扉からもモンスターが現れて、
囲まれる形になった。
「しょーがねぇなぁ。
シア!
俺が出口の奴らぶっ飛ばすから、そこから全員で外に行け!
全員出るまで俺が後ろのモンスターもぶっ飛ばしとくから」
「キミがしんがりって事!?
でも大丈夫?急いで逃げないといけないんでしょ?」
シルフィアはそう言ったが、ライカはさっさとモンスターを薙ぎ払い始めていた。
まあ、それ以外に方法はなさそうだったので、それ以上シルフィアは何も言わず、モンスターを倒すのに加勢した。
復活しないように粉々にするのは手間だが、通り道を開けるために吹っ飛ばすくらいなら、それなりにすぐ終わった。
「ほら!さっさと行け!!」
そうして、ライカ以外は全員出口へ向かい、ライカは残ったモンスターと、復活してくるモンスター達を食い止めるためにその場に残った。
◆
城の外までもう少しだった。
最初に入ってきた門に続く広場で、残ったモンスター達をシルフィアの魔術で吹き飛ばしながら、外を目指す。
ライカにならって、捕らわれていた人たちを先に外に出し、シルフィアも外に、と言うところで・・・・。
――――大爆発が起き、城は崩れ去った。
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