第7話 目指せ!勇者のお友達!

 ケルベロスは割と知名度の高い魔獣である。


 人間にとっては、数多くの人間を葬り去った恐怖の魔獣であるし、

 魔族にとっては、飼いならせば頼りになる戦力である。

 つまり、非常に強力な魔獣であるということだ。


 さらに先ほどの巨大な個体は、魔王軍でも見たことがないほどの力を持つ、

 並みの魔族ではかなわないほどの力を感じた。

 実際、先ほどの火炎球は、森の一帯を広範囲に吹き飛ばしてしまった。

 なかなか出来ることではない。


 そんな火炎球を、まともな防御無く食らえば、四天王のシルフィアと言えども無傷とはいかない。

 しかし、人間を装い勇者の仲間となるには、自分の力を隠す必要がある。

 だから、勇者に助けられるために、危険を覚悟で自分では何もしなかったのだ。


 そして・・・・。


 シルフィアは黒焦げになっていた。


「なんでだよー!!!」


 流石は四天王である。黒焦げになっても元気。


 シルフィアはガバっと起き上がって勇者に詰め寄った。

 勇者は切り倒したケルベロスの死体をツンツンしていた。


「なんでボクを助けてくれなかったの!?普通勇者ならああいう時は助けてくれるもんでしょ!?」

「はぁ!?」


 勇者は眉をひそめて言い返してきた。


「なんで俺がいちいちそこら辺をブラブラ歩いてる奴を助けてやらなきゃいけないんだ。

 大体、お前を助ける必要なんてないだろ。

 あれくらいの敵なら、何とかできるだろ?

 なんで何もしなかったんだ?」

「えっ!?」


 それはつまりどういう事を言いたいの・・・・?

 シルフィアが思考停止している間に、勇者は続けた。


「お前強いだろ。見ればわかる。

 それに、オレの事勇者だって分かってるってことは、何者だ?」


 勇者は剣を肩にポンと置きながら、ギラリとシルフィアを睨んでそう言った。

 これは・・・・。


(ヤバい、ボクが一般人じゃないってバレてる!?)


 ◆


「一般人じゃないってバレた時はどうすればいいの?」


 作戦会議の時、シルフィアはファイレーンにそう聞いた。


「演技に自信がないんですか?」

「そんな訳ないだろ。ちゃんとやるって!

 でも勇者はあんなに強いんだよ?どう上手く力を隠しても、こちらの実力を見透かしちゃうかも知れない」

「まあそれは確かにそうかも知れませんが・・・」


 ファイレーンはしばらく思案した後、何かひらめいた様子で人差し指を立てた。


「疑われないためには一般人のフリをするのが一番ですが、

 どうしてもピンチの時はこれで行きましょう。

『思わせぶりで怪しさ満点だけど、なんやかんや仲良くしちゃうミステリアスな人物』!」


 ◆


「・・・へぇ」


 勇者の言葉に、シルフィアはニヤリと不敵な笑みをこぼした。

 もちろんファイレーンのアドバイス通りである。


(これでいいんだな、ファイレーン!)


 半ば祈るように心の中で叫びながら、表向きは余裕な態度を貫く。


「流石だね。魔王軍の四天王の一人を打ち破った勇者。

 その力は本物・・・・ってわけだね」


 シルフィアは腰に手を当ててふんぞり返った。


「合格だ!

 ボクもしばらくキミと一緒に旅をさせてもらうよ!」

「なんだテメェ!いきなり偉そうに!!!」

「うわーー!!急に胸ぐらを掴んでくるな!!!」


 勇者が目にもとまらぬ速さで距離を詰めてきたので、せっかくの「ミステリアス」な演技が台無しになってしまった。


(っていうか、さっきから何だこの勇者!!?)


 勇者が喋ってるところなんて、グランザと戦ってる時の映像くらいしか見ていないが、やはりあの時と全然違う気がする。


(まああの時は二人とも殆ど喋ってなかったけど。

 グランザも無口な方だし)


 こんなに、何と言うか、

 喋るタイプの野良ゴブリン

 みたいな口の悪さと態度だとは思わなかった。


「待って待って!ちょっとボクの話を聞いてよ!

 ボクは、そう、キミとお友達になりたいんだよ!!」

「テメェみたいに怪しい奴と誰がお友達になるかーーー!!」

「うわーーー!!!」


 勇者は胸ぐらを掴んだ体勢から、そのままシルフィアをぶん投げた。


「テメェ、ケルベロスなんて余裕で倒せるのに、ワザワザ俺に助けを求めてただろ?何を企んでやがる」

(うう、バレてる・・・)


 しかしこれも想定の内だ。弱気になってはいけない。


「もー、ちょっとは落ち着いてほしいなー」


 シルフィアはあくまで余裕を崩さない態度で、やれやれと言う感じで立ち上がった。


「キミの言う通り、ボクも自分の腕には自信がある。それなりのレベルの魔術師だということは保証するよ。

 何なら少しその力を見せてあげよう」


 そう言うとシルフィアは風の魔力を操り・・・・念のため蝶は出さずに、わざわざ杖を振って・・・

 先ほどのケルベロスの火炎球でなぎ倒された木々をすべて優しく巻き上げ、しばらく空中を泳がせた後、一か所に優しく集めて、あたり一面をきれいにして見せた。


 この芸当は、「かなり腕の立つ人間の魔術師」としてはちょうどいいレベルの芸当のはずだ。

 シルフィアはフフンと自慢げに見えるように鼻を鳴らした。


「どうだい?もちろん君の言う通り、ケルベロスくらいは余裕で倒せるさ。

 でもボクはどうしてもキミの実力を見ておきたかったんだ」


 シルフィアは片手をパタパタと振りながら続けた。


「実はボクにはある目的があってね・・・。

 ボク一人でもここまでは来れたんだけど、ここから先は腕の立つ実力者と行動を共にしたいんだ。

 キミにとっても悪い話じゃないでしょ?

 一人旅もいいけど・・・旅は道連れっていうじゃない」


 何度も練習したセリフをすらすらと読み上げる。

 そして勇者の方をチラッと見た。


(これで・・・いけるか・・・・!?)

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