第6-7話

 星歴1860年……。

 美心は10歳になった。


「ん、んん―――! 今日もフシ山が綺麗だぜ。そして、それ以上に……俺様は可愛い!」


 成長していくごとに自身の可愛さに気付いた美心は自分大好き人間となっていた。

 毎朝の日課は鏡で自分の姿を見て見惚れること。


「キラッ♡ キャピ♡ ルン♡」


 様々な可愛いポーズを取り愉悦に浸る美心。


(あーかぁいい! かぁいいよぉ! 俺ってなんでこんなに可愛いのだ!?)


「美心様、ご朝食の準備が整いました」


「ねぇね、早く早く」


 オーエドの長屋生活は美心が7歳になるとき突如として終わった。

 シュンプに幕府の準備した屋敷へと家族全員で案内され、そこで武士階級として暮らすことになった。

 名字も与えられ春夏秋冬ひととせを名乗ることになった八兵衛一家。

 下級武士ではあるものの幕府からの支援もあり裕福な暮らしをしている。

 因みに父の仕事はシュンプ町奉行の同心。

 現在で言うところの警察に近い役職である。


「にゃぁ」


「あっ、カノープス。ねぇね、この子も連れて行っていい?」


「良いよ。今日の朝食当番は誰だったかな?」


「プロキオンが狩った熊で猟師鍋だって」


(朝から鍋かぁ。ま、貴重な肉が食えるなら良いか)


 自らの手で大事なツリーハウスを壊し森を焼け野原へと変えてしまったシリウス達七星は美心が両親に懇願し奉公人として屋敷に住み込みで働いている。

 朝食後は明晴による陰陽術指導と一般教養。

 美心は確実に子どもとしては火ノ本公国最強の陰陽術師へと成長していた。

 ただし水属性限定で。

 相変わらず他属性の陰陽術においては苦手としていたのが唯一の悩みだった。


「ふぅ、今日はここまでにしよう美心っち」


「うん。お兄ちゃん、今日もありがとう」


 同時に夜には裏の顔である星々の庭園の盟主としての活動を行っていた。

 美心が屋敷の一角にひっそりと建てた蔵の地下。

 そこで玉座に座る美心と跪く七星。

 

「ハート様、彼の地に赴いたところ……」


「盟主の言った通りだったッス!」


「魔族堕ちした子ども達だろうと思う肉塊を7つ持ってきたでござる」


「ふふっ、火ノ本の最高峰を誇るフシ山の樹海は正に魔界そのものだったよ」


「ん……ん……」


「あの場所にいた魔物と化した者はすべて無に帰したでありんす」


「なんか弱かったね―――。最弱のカペラでも10匹は倒してたもん。因みにわちは28匹」


「くくく、よくやった。では、早速その醜い肉塊を浄化しようか」


 肉塊に美心の得意な水属性陰陽術を与えるとボロボロと呪いが剥がれ落ち、残るのは髪と瞳の色が変わった七人の子ども達。


「……自分は?」


 美心と七星の顔を見てキョトンとしている子ども。

 髪の色はシリウスと同じブロンドだが瞳の色は赤い。


「くくく、なんか色々と面倒くさいから名前だけ与える。貴様はベテルギウスだ。シリウス、お前が面倒を見ろ」


「はっ!」


「?」


 次に美心が言葉をかけたのは白髪碧眼の少女。


「ここどこ―――?」


「貴様の質問にはリギル・ケンタウルスが答える。アケルナル……それがお前の新たな名だ」


「ふぇ?」


「おいらが先輩ッスよ。アケルナル」


「………………」


 何が起きているのか理解が追いつかないのか、はたまた冷静に状況把握をしようとしているのか無言で美心と瞳を合わせた緑色の髪の少女。

 瞳の色だけは火ノ本人のままなのか黒色だ。


「ん、ん……」


「ほぅ? アークトゥルスが興味を持つとはな。良いだろう、ハダルはお前に任せる」


「………………」


 コク


 アークトゥルスと目を合わせると深くお辞儀をするハダル。

 彼女が何を思って頭を下げたのか知る者は居ない。


「ほらほら、泣くのやめて。ここは怖い場所じゃないから……」


「ぎゃぴ―――!!!」


「そんなに泣かれたら……わ、わちも……ふ、ふぇぇぇ……」


「ぎゃぴ―――!!!」


 ベガが面倒を見ようとしているグレーの髪に赤眼の少女。


「くくく、泣き虫キャラか……俺が手を下すまでも無い。アルタイルを泣かした責任はベガ、お前が見ろ!」


「ふぇぇぇ」


「ぎゃぴ―――!!!」


 美心が目を送った先にはカペラが困惑した顔で身体をくっつける少女をどかそうとしている。



「せ、拙は……違うでありんす」


「うふふ、初い子じゃ初い子じゃ。ワシの好みじゃぞい」


 今にも濡れ場が始まりそうな展開に困惑しつつも冷静に対処する美心。

 どうやらカペラが男の子であることを一瞬で見極めた群青色の髪をなびかせる少女に美心は声をかけた。


「くくく、他のやつらには内緒でな。アクルックス、貴様にカペラの内に秘める野獣を手懐けられるかな?」


「うふふ、やってみせるのじゃ。マスター」


「盟主、あんまりでありんす―――!」


 七星の中で最も気難しいリゲルは美心にやられたときのように雑学を自慢していた。


「ふふっ、でねでねイチゴはバラ科の植物なんだ。僕もその驚愕の事実には腰を抜かしたね。あの甘くて美味しいイチゴがバラの仲間なんだからさ」


「なるほど! それはスクープですね!」


 リゲルと気が合うのか、どこからともなくメモとペンを手に持ちリゲルの話すことを丁寧に記す桃色の髪を持つ少女。

 美心が覗いてみると達筆な文字で丁寧に書かれていた。


「ふむ……アルデバラン、貴様には俺の記憶を記すことが適任のようだ。叡智の書、リゲルと共に作ってもらいたい」


「モチのロンです! リゲル様に大いなる知を与えらし知の化身! 神の言葉を一言一句丁寧に記させていただきます!」

 

(さて、最後の一人か。むむっ、プロキオンと共に真剣を構え……鋭い殺気を放っている。パワーではプロキオンに劣らぬほどの持ち主。これは良い者を拾った)


 ガキィィィン!


 一瞬の出来事だった。

 刀と刀が衝突し鋭い火花を散らす。


「「おおっ!」」


「なかなかできるでござるな!」


「そちらも……某の一撃を受け取るとは亡き父上以外におらなかった」


「ほう? スピカも剣の道に生きる武人であったか」


「うむ、プロキオン。そなたとなら共にやっていけそうだ」


 剣を鞘に収めると強い握手を交わす二人。


(……なんか、あの場だけ世界が違う!)


 ここに美心の掲げる勧善懲悪の世界を創造する新たな七星が加入した。



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