第6ー6話

 美心が泰山府君学園へ通うことが決まり数年後……。

 ある夜のこと。

 美心がシリウス達の暮らすツリーハウスに訪れていた。


「ハート様が!?」


「遂に盟主自ら動き出すということでござるか!?」


「盟主の壮大な計画が発動して早4年。僕達だけで動いていたがあまり良い成果を残せなかったことにお怒りなのではないのかい? ぼ、僕は悪くないぞ!」


「でも、倒幕派も佐幕派も正面切ってぶつからないから介入できないんだよね……」


「拙もそうなるよう努力しているでありんすが……非常に難しい状況でありんし」


「みんな、ハート様の御前よ? 静かにしなさい」


「くっくっく、お前達の努力は高く評価している。壮大な計画だ。たかが4年ではなんともならんことも俺は理解している」


「し、しかし……」


「計画と言っても至極簡単な内容ッス。そんな簡単なお仕事さえこなせないおいら達は情けないッス!」


「すべての悪を盟主ハート様自身が背負う……」


「ふふっ、その計画を聞いた時僕は全身が震えたよ。まさか、そこまでのお覚悟があるなんてハート様は神以外には有り得ない」


(ん? え……)


 シリウスの言葉から話しの食い違いに気付き始める美心。


「わち達にはとてもできないことだよ。簡単なんて言っちゃ駄目」


「正に自己犠牲の権化でありんすね」


「ハート様のお考えはよく理解しておられます。勧善懲悪の世界を作り御自らが滅せられることで悪をなくそうとしている。まさか、真央さんがそこまでのことを考えていたなんて……それもこれも魔族に成り果てた私達を救うためなのですよね?」

 

(えええ!? 俺が作った設定と違う! 明晴の言った呪物の王とやらが魔王的な存在である以上、俺が魔王もする意味なんて無い。問題は一般人に呪物とやらがあまり深く認知されてない状況であること。そのためにもありとあらゆる悪を呪物の王の仕業にして人々に魔王としてその存在を広めれば……俺は真の勇者として人々から敬い崇め奉られるであろうっていう計画だったのだが……)


 美心は迷った。

 彼女達にどうやって本当のことを知らせようか。

 そもそも盟主やらハートやら、とてもテンプレ勇者には相応しくない二つ名を付けられている事にも違和感を覚えていた。


「くくく、この際だからはっきり言おう」


「「えっ?」」


「俺は自己犠牲を払うつもりなど皆無だ!」


「「!!!」」


 シリウス達は美心のその言葉の裏を読み取り驚愕した。


「……なるほど、そういうことですか」


(お? さすがはシリウスだ。俺の言葉を分かってくれた)


「くくく、そういうことだ」


「ふふっ、僕もわかったよ」


「リゲルもさすがだな」


「どういうことでありんし?」


 カペラの言葉にリゲルが答える。


「僕達の盟主は神と言うことだよ」


「? ……神?」


「ああ、そうさ。神は死ぬことなど無い。つまりハート様は……」


「神ということ。みんな理解したかしら?」


「神にゃ! にゃろ達の神だにゃ!」


「ぐすっ……ふぇぇぇ……盟主が神様なんて嬉しすぎるよぉ」


「ベガちゃん、盟主の前で泣いちゃ駄目でありんすえ」


(ちょっと待てぇぇぇい! 全然分かってないじゃん! ってか、他のみんなもそんな話を簡単に信じちゃ駄目!)


 美心は否定したいが幼いながらも自分のために頑張ってくれているシリウス達の期待を裏切るわけにはいかなかった。


「くくく、話は変わるが先日の母の不倫相手……樹と言ったか? 革命軍だったと耳にしたが?」


 美心は咄嗟に話題を変え、先程の話はしないことを心に決めた。

 

「そうだにゃ。にゃろが奉行所に侵入して取り調べを盗み聞きしたにゃ」


「この中で最も隠密行動に優れているカノープスからの情報ッス」


「ああ、信頼に足ることは俺も理解している」


「でも、良い報告では無いにゃ。倒幕を計画したことで樹とその一派は打首獄門にゃ」


「ハート様の母君殿に手を出した報いでござる。当然の結末かと……」


「ん……ん……」


「そうね。でも、ハート様よろしいのですか?」


「何がだ?」


「すべての悪を統べる盟主にとってはあまり気持ちの良い終わり方では無いでしょうか?」


「ふふっ、シリウスの不安に思う気持ちも理解できるね。奴らを終わらせるのは幕府ではない。僕達……いいや、盟主こそ相応しい!」


「「おおっ!」」


 皆が賛同するかのように声を上げた。

 しかし美心は違った。


(え、やだよ面倒くさい。俺、人殺しなんかじゃないし。そもそも勇者の俺が出張るような状況では無い)


「ほぅ? 俺の手で不倫相手をわからせろと?」


 鋭い目つきで七星を睨みつける美心。

 シリウス達は背筋が凍るような気配を感じ取り口を紡ぐ。


「んん……」


「にゃふぅ」


「拙者は盟主のお言葉を信じ動くのみでござる」


 カノープスをもふもふしながらアークトゥルスは首を横に振りリゲルの提案を否定する。

 プロキオンも頭を下げ美心の命令にのみ従うよう口を開く。


「わちも盟主のお手を煩わせるほどの事じゃないと思う」


「おいらもッス。わからせるならカペラにわからせるッス!」


「なんで拙!?」


 それに続きベガとリギル・ケンタウルスも自身の意を表明する。

 ここに3つの陣営が自ずと出来上がる。

 一つは美心の手で倒幕派の樹とその一派を屠ることこそ相応しいと思っているシリウスとリゲル。

 もう一つはカペラに樹らをわからせたいリギル・ケンタウルスとベガ。

 それに巻き込まれた可哀想なカペラ。

 そして、もう一つはどちらにも組みせず美心の言葉に従うことに重きを持つプロキオンとアークトゥルスとカノープス。

 仲の良い七人だが意見が食い違うときもある。

 しかも幼子ばかり。

 お互いに話し合って問題解決に挑むということなど思いもしない。


「やるしかなさそうね」


「ふふっ、実力が互角な僕達が互いに戦えばおそらく千日戦争へと至るだろう。それでもやるかい?」


「わからせは星々の庭園で避けては通れないものッス!」


「ん……」



(あ、こいつら……今のうちに帰ろっと)


 美心はそこからの展開を察すると気配を消しツリーハウスを後にした。

 翌朝、森の一角が焼け野原に変わったことは倒幕派によるオーエド大火の失敗だという噂が流れ樹らは即時、幕府の手によって打首獄門となったのだった。

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