第28話 自己栽培4
私たちは地下へ潜り、いつもの校舎へ向かう。
「少し変な感じですね」
人が少ない地下空間に私たちの靴の音が反響しカツカツと音が響く。普通の日常ならまず見かけないような場所。そこを歩くとこへの違和感はもうない。ただそれでも変な感じはする。
「何がです?」
「いや、だって任務の場合、現場急行が多いじゃないですか」
「ああ。そういえばそうですな」
そのせいで最近は常にあの変なマスクは常備しているし、コートも常に着て外出している。持ち歩いていないのはスーツくらいじゃないだろうか。
「魔法使い案件、且つ現場へ急行しないとなると、恐らくですが既に事件は起きており、犯人は逃走しているのかもしれませんぞ」
「それなら逃げた方へ私たちも追うように指示がくるんじゃないです?」
「ふむ。それもそうですな」
何かあるんだろう。わざわざ呼びつけるだけの事が。
しばらく歩き、いつもの戦闘訓練をしている施設を抜け、別の建物へ入り進んでいくと大学の会議室のような場所にでる。大きなモニターが壁にあり、間接照明などで壁が照らされている。私は初めてくる場所だが普段は人造魔法使いの方々がここで会議でもしているのだろうか。周囲を見ると既に十数人近い人造魔法使いの方々と制服を着た警察官が座っている。まずい私たちが最後のようだ。
「来たな」
奥の教壇のような場所に郷田さんが立っている。いつも通りの金髪を後ろに束ね、腕を組み仁王立ちで立っている。
「遅れてすみません」
「構わん、とりあえず2人とも空いてる席に座れ」
剣崎さんと目を合わせ、とりあえず近くの席に座る。私は大学へ行っていないため、想像でしかないがこうやって大学生は授業を受けるのだろうか。そうして腰を下ろすと室内の照明が落ち、ほんのり暗い感じになった。
「仰々しいですな」
「そうですね。何があったんでしょうか」
小声でそう話しているとマイクをポンポンと叩いた郷田さんが話し始めた。
「集まってもらいすまない。中には非番の者もいるが、今回出来るだけ集まって貰った。まず――最近起きている未成年失踪事件を知っているだろうか」
タイムリーな話だ。ちょうどニュースで見たばかりだぞ。
「簡単な概要を説明しよう。事の始まりは約4ヶ月前だ。少しずつ未成年の子供、多くは中高生が行方不明となっている。この時期は我々の方でもただの家出だと考えていたが、問題はその数だ。都内を中心に既に39名の子供が行方不明となっている」
39名だって!? そんなに行方不明になってるのか!
「そして自殺する中高生が増え始めたのは2ヶ月前。その多くは先ほど説明した4ヶ月前に行方不明となった者と同一人物が多い。当初警察の方では組織犯罪の線を疑っていた。SNSで未成年をかどわかし命をもてあそぶ屑どもの仕業だと。だが――状況が大きく変わった」
そういって郷田さんは手元のリモコンを操作する。すると郷田さんの後ろのホワイトボードにプロジェクター、壁に設置されたモニターにも映像が表示される。
そこには駅のホームの監視カメラの映像だった。荒れた画質の映像の中にサラリーマンや学校へ向かうであろう高校生などたくさんの人が映っている。
映像を見て私は口の中の唾液を飲み込んだ。この後の展開を容易に想像が付くからだ。恐らくこの映像は飛込自殺の映像だ。こういった組織にいるんだいつかはこういったものを見る事もあるんだろうなと漠然と思っていたけど、思ったより早かった。
人の多さから考えると朝のラッシュだろうか。しばらく映像を見ていると30代の私服を着た男性がゆっくり歩きだし――飛び込んだ。周囲に悲鳴が上がり、混乱が訪れる。そして映像が一度止まった。
「今みたのが駅の飛込自殺の様子だ。そしてその時の死亡した人物がこちらだ」
そういうとまた映像が切り替わる。そこには――。
髪を染めた活発そうな男子高校生の姿だった。
「は?」
「これは……」
おかしい。あの飛び込んだ人は間違いなく中年くらいの人だった。髪の色だって長さだって違ったぞ! いや、そうだ。私はこの話を聞いている。すぐに剣崎さんへ視線を向けると剣崎さんも同じことを思ったのか私の方を驚いた様子で見ている。
「分かったな。これが巷で問題になっている飛び込んだ者と死んだ者が違っているという怪談、都市伝説の話だ。そしてこれに近い現象を我々はよく知っている。そうだな」
――魔法。
つまり魔法を使い、誰かが中高生を拉致し、自殺に見せかけて殺している。手に力が入り拳を握る。
「どういう意図があるのか、組織犯か単独犯か不明だが、相手は間違いなく魔法使い。しかもかなり犯行に手慣れている!」
そう大声をだしホワイトボードを強く叩いた。
「放置するわけにはいかん。全力で犯人を探し、捕らえる。いいなッ!」
「「はッ!」」
「よし、警察と連携し自殺のあった付近すべての監視カメラを当たれ、魔法使いが絡んでいるなら必ず発光現象が起きるはずだ。雷号に映像の解析をさせろ。必ず映像の中にヒントがあるはずだ! メンマと博士は私についてこい」
あわただしく動く中、私と剣崎さんは郷田さんについていき、また歩き始めた。何かまだあるんだろう。でもなら何故あそこで話さなかったんだ?
「疑問はわかるが、もう1つ重要な手掛かりがある。今回お前らを呼んだのはどちらかというとこっちが本命だ」
「本命ですか」
「戦闘以外なら力になれると思いますが……」
前を歩く郷田さんに付いて歩く。まだここへ来るようになってあまり時間が経っていないから知らない場所が多い。それにしても本当にどこへ行くんだろう。
「ここだ。いいか。気を張れ」
扉の前で郷田さんはそう言った。どういう意味だ? 気を張れってのは一体……。
「静かにしろ。幸い彼女はまだ寝ている。起きた時に事情を聴く予定だ」
「彼女……? 誰ですか」
「話の流れ的に――まさか例の行方不明の中高生ですかな」
そうか。まさか保護しているのか。いや待て。だったらなぜ警察の方じゃないんだ。被害者なら警察、もしくは病院へ連れて行った方がいいはずだ。まさか――。
「彼女を保護したのは昨夜。路地で倒れていた所、どうやら暴漢を受けそうになったところを近くを通った一般人が通報。すぐに警察が保護した。幸い
そういうとゆっくり扉を開けていく。ベッドがいくつか並んでおり、白い間仕切りカーテンが引かれ、その奥に誰か寝ている。どこか消毒液の匂いがするこの部屋をゆっくりと歩き、次第にベッドで寝ている彼女の姿が露わになっていく。
「ッ!? これは――」
「どうやったらこんな……」
そこには、顔が2つある女子高校生が寝ていた。
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