第27話 自己栽培3

 都内にある神楽総合病院。ここは警察とも連携を取っており、特殊な事情で怪我をした者を入院させている場所でもある。無論一般患者も普通にいる普通の総合病院であるが、他の病院と大きく違うのは、ここに勤めている一部の医者はこちら側の事情を知っているという点である。

 そしてこの病院は私も良く知っている。何故なら30歳検診を受けた病院だからだ。今思えば妙な話だ。30歳検診は小さな病院ではなく、それなりに大きな病院でしか実施していない。毎日誰かしら30歳になっている。それならば受けられる病院は多い方がいいに決まっている。だというのに、都内でも数か所の病院でしか実施していない。だから30歳検診は予約制であり、下手すれば夕方まで待たされる可能性がある。



 そりゃ30歳検診の時は有給扱いになるわけだ。そして同時に思う。この面倒くさい感じがあるから受けなくていいだろって思うんだろうなと。




 病院の中は独特の匂いに包まれている。なんていうか私は少し苦手な匂いだ。どうしても病院へ行くと、健康な状態であっても、ここにいるだけで病気になった気がしてしまう。そんな事を思いながら奥へ進む。やはり総合病院という事もありロビーには多くの人で溢れている。順番待ちをする人、会計を待つ人で様々だ。私たちはそのまま進み、面会用の受付へ進み、署名と身分証を提出する。これから行く場所は一般人では行けない場所のため配給された警察手帳が必要になるのだ。受け取った証明書を首から下げ、エレベーターに乗り4Fへ。


 入院した初日に一度お見舞いへ行っているから今回で2度目だ。場所もわかっているから特に聞く必要もない。リノリウムの廊下を歩き進んでいくとフンフンという息遣いが聞こえてくる。



「本当に筋トレしてますね」

「ええ。というか個室のはずなのに廊下まで聞こえてくるってどんだけ激しい息遣いしてるんでしょうね」

 


 フンフンという音の発生源へ行くと個室の扉には桑原瑞喜と書かれてある。数回ノックすると激しい呼吸と共に、「どうぞ」と聞こえたためゆっくり扉をあけた。


「うお、汗くさ!?」

「これは酷いですな。窓開けましょう窓」



 床に片手を付き、ゆっくり時間をかけて腕立て伏せをしている桑原さん。滝のように汗が流れている。そのせいで部屋の中に汗のにおいが充満していて非常に臭い。




「怪我人ですよね?」

「ええ。そのはずですぞ」

「ははは。この程度、もう退院していいはずなのですがね」

 


 この人、まだ骨がちゃんとくっついてないんだよね? 痛くないのか?



「思ったより時間かかりますな」

「仕方あるまい。吾輩の魔力は少ない故、回天状態による自然治癒があまり出来ないのだ」

「そういえば、魔力を伸ばす方法ってあるんです?」



 幸い私には無縁な話だが魔力量ってよく考えれば死活問題だよな。



「吾輩が聞いた話だと年齢を重ねるしかないそうだ。そのため若い魔法使いほど魔力が低いのだそうだ」

「それでも10年選手の浅霧殿より、桑原殿の方が魔力量が多いというのが何ともですな」



 へぇそうなんだ。年齢か。ならやっぱり高齢の魔法使いの方が強いって事になるのかな。そういえば絶猫はかなり高齢らしい。若返っているが多分それはあまり影響はないんだろう。つまり肉体の年齢というよりは、魔法使いになってから経過している年数が影響しているという事になる。

 それはそれとして、高齢の魔法使いって物語だとそりゃ強いだろうなって思うけど、現実だとただの高齢の童貞なんだよな。



 ふとそう考え身震いする。明日は我が身だ。すごいとは思うけど、成りたいとは思えない。どうしようマッチングアプリとかやるべきなんだろうか。




「とりあえず栗とバナナ、あとプロテインを置いておきますぞ。本当にこれだけでいいのですか?」

「うむ。助かるよ。流石に買いに行けないからな。それで桜桃の方はどうだ、少しは掴めたか」



 剣崎さんからバナナを受け取り皮を向き頬張りながらそんな事を聞いてくる。



「ええ。ようやくそれなりに形になったかなと」

「ほら見て下され。桜桃殿の新隊服です」

「ちょぉ!?」



 剣崎さんがニヤニヤしながらスマホ画面を桑原さんに見せている。っていうかいつのまに写真なんて撮ったんだ!? くそ回天しておけばよかった。



「コスプレっぽいでしょお」

「おやおや。む、このマスクはミスター鈍龍リスペクトか」



 だから誰だよそれ。逆に気になってくるわ。



「今後我らもこんな格好をするのか?」

「いや、桜桃殿だけらしいです。そもそも表情が分かりやすい顔隠し用と、近接格闘がメインになりそうな桜桃殿ように身体のラインを隠すためのコートだそうです」

「なるほど。確かに桜桃にはあった方がいいだろうな。下手すればどこを攻撃しようとするのか顔見ればわかる」



 うそやろ。



「でも桑原さんだって近接戦じゃないですか」

「吾輩の場合、逆に邪魔になるな。桜桃のような格闘技術が必要なものとは違い、吾輩の方は純粋なパワープレイだからな」



 ああ。そりゃそうか。一撃当てればそれだけでノックダウンになりそうだもんな。



「そういえば服は破けないんですか?」

「破けんぞ。服も吾輩の身体と一緒に大きくなる」

「へぇそれは便利ですね」

「一々服を気にしていたら毎回真っ裸になってしまうからな。服も一緒に大きくなるのはラッキーだった。はっはっは!」



 ん? ラッキーどういう意味だ。今の言葉が気になり、少し思考を巡らせようとした時、スマホが震えた。画面を取り出すと郷田さんの名前が表示されている。みれば剣崎さんも同様のようだ。自然と視線が合い、頷く。



「では桑原殿。安静にしてくだされ」

「ああ。こんな体たらくですまないが、気をつけれくれ」




 私たちは病室を後にし、廊下を歩きながらイヤホンを耳に装着する。



『非番にすまんな。すぐこちらへ来てくれ。魔法案件だ』




 

 


 

 

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